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「石破に渡すくらいなら自分がやる」小池圧勝で早期解散論に傾く安倍首相に公明党も同調?=伊藤智永

    それぞれの思惑は?(右奥から安倍晋三首相、二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長)=国会内で6月8日
    それぞれの思惑は?(右奥から安倍晋三首相、二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長)=国会内で6月8日

     7月5日投開票の東京都知事選の結果、衆院解散の可能性は高まるかもしれない。小池百合子氏の再選は予想通りでも、安倍政権にとっていくつか重要な手がかりが得られたからだ。

    都知事選が解散後押し

     新型コロナウイルス感染症の流行が収まっていない状況で、街頭活動が制約されたとはいえ、1400万人都市で大型選挙が実施された既成事実は重い。衆院選は選挙区ごとに行われるから、感染爆発が起きていない限り選挙反対論は勢いをそがれる。

     告示直前、小池氏の資質を疑問視するノンフィクション本が異例のベストセラーになったが、有権者の関心は圧倒的にコロナ対策に集中し、他の中長期的課題はほとんど争点にならなかった。有権者は他の問題には目をつぶり、消去法で守りの選択をした。都知事選史上2番目の366万票という得票に、小池氏は「望外のご支援をエネルギーにしたい」とほくそ笑んだ。「コロナ選挙では現職有利」が実証された形だ。

     投票率は、石原慎太郎氏が再選された2003年(44・94%)、舛添要一氏が当選した14年(46・14%)を上回る55・00%。コロナ対策への関心は投票を促す効果も認められた。行き詰まり打開の窮余の策で衆院選を狙う安倍政権には、いずれも解散決断を後押しする材料になり得る。

     安倍晋三首相と麻生太郎副総理兼財務相は6月だけで8回会談し、解散戦略を協議した。「今秋までにやる方がいい」と主張する積極論の麻生氏に対し、安倍首相は聞き役だったとされるが、繰り返し会うこと自体が観測をかき立てる効果も十分承知している。

     野党は都知事選で候補を一本化できず、消費税率引き下げなどの主要政策でもバラバラだった。今なら自民党は現有勢力を30議席ほど減らしても、連立与党で政権を維持できるとの予測がある。

     二人は、「ポスト安倍」候補の本命と目していた岸田文雄自民党政調会長への「禅譲」は難しいとの判断に傾きつつある。コロナ対策の政府給付金が「収入減世帯に30万円」から「国民に一律10万円」へ転換したドタバタが引き金になった。世論の反発を受けた二階俊博自民党幹事長の見直し発言と公明党の強硬な突き上げを受け、首相は岸田氏に収拾を委ねるも失敗。閣議決定した補正予算の組み替えという異例の対応を余儀なくされた。

     連立離脱を突きつけられた安倍首相と、予算編成権で財政統制を実質的に握る麻生氏のメンツは丸潰れだ。公明党に手柄を取られた自民党議員、伝統的に「宏池会」(岸田派)シンパが多い財務官僚にも「岸田じゃダメだ」と失望感が広がった。財務省幹部は『文藝春秋』7月号の岸田氏のインタビュー記事のタイトルを見て「聞く力? そんなのもう要らないよ」と顔をしかめた。世論調査でも岸田氏への期待は一向に上向かない。某大手出版社で準備していた政権構想の政策本も、刊行の機会を逸したままお蔵入り状態だ。

     安倍首相はなお、来年9月末の自民党総裁任期で辞める心境に変わりない。だが、来年の東京オリンピックを簡素化や無観客といった「コロナ対策」で決行し、岸田氏へ政権を譲って、首班指名された岸田氏が解散する「ご祝儀」選挙でも、このままでは与党が勝つ見通しは立たない。それまでに野党が態勢を立て直せば、最悪の場合は政権から転落する可能性もあり得る。

     17年衆院選で小池氏が「排除します」と失言せず、野党の大勢が「希望の党」に結集していたら政権交代は十分起こり得た。似た「悪夢」が再来しない保証はない以上、「岸田禅譲」路線は取り返しのつかないリスクになりかねない。

    石破氏に「渡さない」

     とはいえ、「ポスト安倍」候補の世論調査でトップの石破茂元幹事長には、安倍首相が「絶対に渡さない」と意固地になっている。「石破に渡すくらいなら自分で続ける方がましという心境」(政府高官)らしい。そこを麻生氏が「だったら、続けるしかありませんよ。そのためには早期解散しかない」とけしかけているのだ。

     公明党は斉藤鉄夫幹事長が麻生氏から「早期解散」を持ちかけられたとあえて公表し、「国民の理解を得られない」と反対を表明した。だが、これは本音半分・建前半分と聞いた方がいい。公明党は反対したという言い訳作りをしながら、「コロナ情勢次第では、年末か年明けなら仕方ない」というサインかもしれない。

     今や安倍首相に距離を置き始めた二階氏は、はっきりと解散反対の立場だ。取って付けたように石破氏を持ち上げてけん制を始めた。3月から9月に延期されていた年1回開催が党則で決められている党大会を早々に中止したのも、党役員人事を行わせず、幹事長ポストを死守する覚悟だろう。

     もっとも安倍首相も、昨年画策した岸田氏の幹事長起用は諦めたとされる。党役員人事とセットで行われる秋恒例の内閣改造もずれこめば、解散風はさらに強まる。その場合、二階氏と並んで人事の焦点となる菅義偉官房長官の去就も棚ざらしになる。二階、菅両氏が、安倍、麻生両氏の向こうを張って会談を重ねるのは、解散政局の駆け引きに他ならない。

    (伊藤智永・毎日新聞専門記者)

    (本誌初出 諦めつつある「岸田禅譲」路線 安倍・麻生vs二階・菅の駆け引き=伊藤智永 20200721)

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