国際・政治東奔政走

求心力低下の安倍政権 起死回生の「秋解散」はあるのか=高塚保

麻生太郎副総理兼財務相(右)には安倍晋三首相が解散に前向きでないことへの焦りがあるように見える(国会内で6月26日)
麻生太郎副総理兼財務相(右)には安倍晋三首相が解散に前向きでないことへの焦りがあるように見える(国会内で6月26日)

 自民党は政局の時を迎えた。9月に任期を迎える自民党役員人事に合わせて内閣改造が行われるとの観測に加え、秋の早い時期にも衆院解散・総選挙があるとの見方が出ている。

麻生氏の焦り

 安倍晋三首相は6月10日、首相官邸で麻生太郎副総理兼財務相と約1時間にわたり会談した。

 詳細は明らかになっていないが、麻生氏が秋の衆院解散・総選挙に踏み切るよう進言したのに対して、首相は必ずしも同意しなかったという。

 麻生氏が首相に就任したのは2008年9月。安倍、福田康夫両政権が1年程度の短命内閣だった後で、すぐにでも解散に踏み切ると見られていたことから「選挙管理内閣」などと揶揄(やゆ)された。

 麻生氏自身も早期解散を模索したが、リーマン・ショックが起きて見送り。最終的に任期満了直前の「追い込まれ解散」となり、民主党政権の誕生を許した苦い経験がある。

 この秋に解散しなければ首相の求心力は低下し、レームダック(死に体)化しかねない。そうなれば、首相の自民党総裁4選という選択肢は消える。麻生氏はそう考えているだろう。麻生氏は6月26日にも約40分にわたり、首相と官邸で向き合った。麻生氏には、首相が解散に前向きでないことへの焦りがあるように映る。

 政務秘書官として長く首相を支え、昨年には首相補佐官も兼務することになった今井尚哉氏も秋解散を進言しているとされる。麻生、今井両氏に共通するのは、首相にできるだけ長く政権の座にいてもらいたいという点だろう。

 一方、首相本人は「4選はない」と周囲に明言している。これは本音だと見られている。自民党総裁の任期は来年9月30日までで、その前に退陣することを首相は模索しているようだ。衆院で改憲勢力の3分の2を保持していることに加え、秋解散には大義がないというのが、首相が解散を躊躇(ちゅうちょ)する理由のようだ。

 コロナ禍が収まっていない中での選挙戦となれば、批判が出るのは必至だ。加えて、野党の人気は依然として低迷しているものの、立憲民主党と国民民主党の票に共産党票が上積みされれば逆転を許す小選挙区も複数出てくる。

 官邸幹部は「首相とすれば憲法改正の可能性をみすみす失うようなことはしたくないのだろう。4選する気がないところも、麻生さんらとの違いだ」と解説する。

 連立与党の公明党内でも、秋解散の見方は交錯する。同党の山口那津男代表は6月24日、首相と官邸で昼食をとりながら約1時間会談した。ウイルス対策と経済回復への専念を求める山口氏に対して、首相は解散について「頭の片隅にもない」と述べたという。

 公明党議員は「選挙などやっている場合ではない。国民の不安を解消することが最優先事項だ」と語る。

 公明党幹部は「支持母体の創価学会は組織が大きい分、準備に時間がかかる。いまからでは秋解散には間に合わない」と主張する。秋解散ならば、公明党・創価学会票を期待してもらっても困るとのけん制だ。

創価学会「準備入り」

 一方で、創価学会は秋解散があってもいいように準備に入ったとの情報もある。創価学会は6月12日、オンラインで全国方面長会議を開いた。関係者によると、会議の冒頭から話題は衆院選だったという。

 7月8日には、東京で全国方面長会議が開かれる。自民党関係者は「解散をしてほしくないのが本音だろうが、首相が決断すれば覆せない。準備だけはしておこうということだろう」と推測する。

 東京オリンピック・パラリンピックの行方も、解散時期を巡る首相の判断に影響してくるだろう。日本政府は否定するが、10月には東京五輪開催の是非が判断されるとの見方は根強く残っている。

 日本ではコロナの感染拡大は抑えられているが、パンデミック(世界的大流行)は続いており、米国、南米、アフリカで感染者は増え続けている。自民党議員は「世界の状況を見て、普通に考えれば来年の五輪は無理でしょう。中止するしかないと思う」と語る。

 五輪の1年延期を決断したのは首相自身だ。仮に中止が10月に決まれば、2年延期論もあっただけに、首相の責任論が出るだろう。合わせて五輪という首相の花道も消え、レームダック化が一気に進むと見られる。

 自民党関係者は「10月25日投開票と推測する人もいるが、それでは遅い。10月上中旬に五輪中止という結果が出ることも念頭に、その前に衆院選を終えておく必要がある。解散があるならば、9月27日か10月4日の投開票ではないか」という。逆算すれば、8月末か9月初めに臨時国会を召集しすぐに解散しなければならない。その前には、自民党役員人事・内閣改造も終える必要がある。

 自民党議員は「低下傾向の内閣支持率は、秋まで待ってもそんなに回復しないだろう。首相に解散を打つだけの体力があるとは思えない」と予測する。首相はどう判断するだろうか。コロナ、経済、党内政局の方程式を解く時が迫っている。

(高塚保・毎日新聞政治部長)

(本誌初出 吹き荒れる「初秋解散」の風 それでも首相がためらう理由=高塚保 20200714)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事