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国際・政治 サンデー毎日Online

「山本太郎君に野党統一候補を打診した」小沢一郎氏が語る都知事選「小池圧勝」の舞台裏=倉重篤郎【サンデー毎日】

「安倍政権は末法の世を作った」

小沢一郎氏はこう言う。

モリカケから河井夫妻逮捕に至る権力私物化、米国追従からアベノミクスに至る政策の反国民性は、まさに「末法の世」にふさわしいが、ならばこの政治をどう動かすか。

「今の官邸は腐敗と犯罪の巣窟」小沢一郎氏に聞く

二つのことが気になる。 日米安保体制と、ポスト安倍(晋三首相)の行方である。

安保では、陸上イージス配備計画の突然の停止発表があり、駐留軍経費について80億ドル、現行の約4倍増が日本側に要求されていたことが明らかにされた。

いずれも日本の安全保障政策の根幹をなすものである。 

その意味するところを探ると、一つの結論に至る。

安倍政権の行き過ぎた対トランプ従米至上主義路線の腐敗、そして破綻である。

陸上イージスは、相手側ミサイルを迎撃する能力、実用性、費用対効果など、いずれも生煮えの形で導入が決まった代物であった。

米国第一主義のトランプ大統領が、米製品セールスの一環として2017年来日時に売り込み、安倍氏がご機嫌伺いで安請け合いしたものである。 

米製兵器の過大な購入は、日本の安全を米国に守ってもらう必要経費、として歴代保守政権の習い性ではあったが、安倍政権の8年間ほど無節操な時期はなかった。

ステルス戦闘機F35百機台の爆買い、無人偵察機、早期警戒機など枚挙にいとまがない。

米要求をある意味聖域化し、同盟維持の名の下、さしたる検証なしに条件反射的に受け入れる。

マヨネーズ並みといわれる軟弱地盤に1兆円、10年以上の工期をかけて建造中の辺野古新基地もその一つといえる。

一度米に約束したことはどんなに不合理でもやめられない。

その路線の無理、矛盾が最初に暴発、露呈したのが陸上イージスであった。 

ボルトン前米大統領補佐官の近刊暴露本が示唆するところも深い。

トランプ氏が安全保障抜き、全くの商売感覚で80億ドル吹っ掛けたことを告白している。

なぜそれにきちんと反論できないのか。

国民の前にその事実を明らかにし是々非々で対応できないのか。

「いまだそんな話は聞いたことがない」とでも言いたげな政権の対応は、児戯以下である。

安保改定60年の節目に、ある意味での同盟危機が生まれた事実をどう考えるか。 

ポスト安倍も流れが急だ。保守政権の生殺与奪権を握る日米関係にケチがつき始めた。

やることなすこと裏目に出る。

最後のレガシーであったはずの21年東京五輪開催も心もとなくなってきた。

どうみても政権は崩壊過程に入っている。

だが一方で支持率は30%で下げ止まり、自民党内にまだ反乱の芽が出てきたとも言えない。

一体秋に向け政局はどう展開するのか。

「山本太郎を首相に担ぐ」という声も出かねなかったのに……

この二つの疑問を小沢一郎氏にぶつけた。

氏は「第7艦隊で米国の極東におけるプレゼンスは十分」(09年1月)と発言、日米関係を忖度なしに平易に語れる数少ない政治家の一人であり、50年の国会議員キャリアの中でいくつもの権力闘争を自らなし、かつウオッチしてきた政局達意の人でもある。 

――まず都知事選をどう見る?

「半分関心がなくなった」 

――というのは?

「(山本)太郎君を4月から口説いていた。太郎君も都知事選に出たい、と言う。出たいならいい、君にとっての最高のチャンスだと。僕が絶対に野党をまとめ統一候補とする、と言い、よろしくと言われて別れた。がその後になって『れいわの公認で出る』と言う」 

――山本氏が統一候補となり野党共闘できていた可能性があると?

「本人に最終確認してないがいいか、と聞いたら、(立憲、国民、社民、共産)皆OKだった」 

――惜しかった?

「もったいなかったね。野党にとってもよかったし、本人にとっては華の舞台、野党の救世主になり、小池(百合子)氏とも対等に戦えた」 

――国政にも影響が?

「あったね。仮に負けてもいい勝負で200万票くらいで小池氏と競り合えば、皆で太郎君を(首相に)担ぐか、という声も出かねない。それくらいのことにはなった。それが実現するかどうかは別にして、野党共闘にも求心力が生まれる格好の機会だった。国民にとっても選択肢が増えた。その意味では大魚を逸した」

――国の政局はどう見る?

「政治状況? 野党が一つになっていたら安倍政権はとうに退陣だ。野党が国会で一丸になって対決したらどうみてももたない。モリカケ(森友・加計問題)、桜(を見る会)、検察官(定年延長問題)、(持続化)給付金(丸投げ問題)、アンリ(河井克行、案里夫妻逮捕)……。もうすべてだ。これも検察、警察が一体何をしているのか、ということになるが、今の官邸は腐敗と犯罪の巣窟のようになってしまった。捜査当局が公平公正に捜査すればみな法律にひっかかる。別段過激な言いようではない。事実を言っているだけだ」 

河井事件のもみ消しを狙った「秋解散」はあるのか?

――犯罪の巣窟をなぜ退治できない?

「野党の責任だ。もちろん、最終的には国民の責任だが」

 

――今なお国民は自民党と政権に支持を与えている。

「解散総選挙をすれば、自民党に支持率ほどは入らない」 

――ズバリ安倍政権はいつまで続く?

「コロナ次第だが、多分9、10月ごろには来年の五輪もなし、となる。コロナの世界的収束が見込めない。特効薬・ワクチン普及時間、追加予算負担への抵抗などを総合すると、政権も最終的にはそう判断せざるを得ないだろう」 

――となるとレガシーはゼロだ。長くやっただけで何の果実もない。

「果実どころか、マイナスばかりだ。経済も滅茶苦茶、社会も滅茶苦茶、倫理道徳は地に落ちて、末法の世を作った。政治家だけではない。メディアも劣化している。権力に何も言えない。記者会見を見ていてもそう思う。目先の自己保全ばかりだ。ここもまた刷新してもらいたい」

――コロナが落ち着けば?

「衆院解散の可能性がある」

――自民党内でも解散がささやかれ始めた。

「やるとすれば10月だ。(河井夫妻が議員辞職すれば)二つ補選が必要になる(10月25日、克行氏の衆院広島3区、案里氏の参院広島選挙区)。どうみても自民党には有利に運ばない。野党にやられてしまう。これを覆い隠すとすれば、これに被かぶせて解散総選挙する手がある」 

――前回17年と似てくる。3選挙(青森4、新潟5、愛媛3)区で補選が予定されていた。自民有利とは言えない状況下、安倍氏が国難克服解散を被せてきた。

「実際にはモリカケ隠し解散だった。今回は政権に解散する力が残っているかどうかはわからない。わからないが、野党に対抗する力がなければ打ってくる」

――麻生太郎氏が秋解散を助言したという。

「麻生氏からすれば、そういう動きがあった方がいいのだろう。もしや自分にまた(首相ポストが)という思惑もあるかもしれない」

――コロナの被害はなお続くと見るが?

「いくらなんでも解散できない。解散もできないし、五輪もダメになる。安倍は一体何をやっているんだということになる。秋退陣、自民党の党内政局になる。岸田(文雄)氏か石破(茂)氏かだ」

石破氏は政権にもっときびしくモノを言って欲しい

――岸田氏と石破氏ではどっちが優位?

「それは岸田氏だ。二階(俊博幹事長)氏がいろいろ動いているが、仮に二階氏がついても石破陣営は数が足りない。安倍氏の任期前退陣となると、後継総裁は党員投票する間もなく両院議員総会での決着となる。国会議員だけの数となると、安倍、岸田、麻生3派にはかなわない」

――菅義偉氏も石破氏につくと見る向きもあるが?

「それでも足りないんじゃないか。ただ、石破氏には正論を吐くチャンスができる。こんな政治をしていると、国民からそっぽを向かれる。広く党員投票を実施すべきだと。そうすれば石破氏にも芽が出てくる。石破氏とは政治改革を一緒にやった縁もあり、僕もシンパシーがないわけではない。だけどもっと明確な主張をしてほしい」

――というと?

「安倍政権がここまでいい加減なことしているんだから、もっとびっしり批判して、きちんと大義の旗を立てることだ。昔はこんな自民党ではなかった。本来の保守政治を取り戻そうとガンガン言うべきだ」

――石破氏には離党経験のトラウマがあるのでは。

「出戻り組であることは間違いない。そこは割り切って徹底して戦うと腹を決めればいい」

――野党は自民党の政局をただ見ているだけ?

「このままでは、単なる自民党内政局で終わってしまい、野党は蚊帳の外だ。野党が一つになっていると、自民党のゴタゴタを悪く言えば利用、よく言えば活用して、自分たちの政権獲得の踏み台にできる」 

夏には野党を合併、新党を結成?

――現実は一つにまとまるとはほど遠い状況だが。

「政権に対する強い志がないからだ」

――枝野幸男氏(立憲民主党代表)にも志がない?

「野党が結集すれば、まず間違いなく勝つ。そうすると野党第1党の党首である枝野氏は嫌でも首相になる。だから玉木(雄一郎国民民主党代表)氏が何を言おうと多少のことは抱きかかえていかなければダメだとずっと言ってきている。枝野氏も段々わかってきているが、ここでもうひと踏ん張りしなければと思っている」

――どう踏ん張る?

「夏中に絶対に野党をまとめる。命がけでやる。合併新党だ。無所属が10人いる。社民党もいる。方法論としてどういう合併を選ぶのかはこれから考える。合併する腹さえ固まれば、後からついてくる」

――旧民主党に戻る?

「少なくとも政権を取れる規模を持つことだ。小選挙区は大きな政党に有利に働く仕組みだ。それを活かす。

自民党の集票能力は1600万〜2000万にしかすぎない。この十数年ずっと変わってない。我々の狙いは浮動票を獲得することだ。政権が代わるかもしれないとなると投票率が上がり浮動票が出る。浮動票の7割は統計上野党に入る。どうせ自民党だと思うから出てこない。まだ頼りないが、今度こそ代わる、と思えば、安倍政権よりはいいだろうとなる」

――維新の人気をどう見る?

「所詮は自民党と同じだ。きちんと野党のスタンスを採らなければ連携しようがない。共産党は友軍だ。選挙の応援団にはなってもらう。もちろん共産党が候補擁立したい選挙区は調整する」

あまりに対米追従的な安倍政権はトランプとセットで退陣せよ

――安保改定60年に日米は?

「(駐留軍経費に関する)ボルトン証言が出たが、まさにトランプ大統領の手法だ。相手に付け込んで取れるものは取る。世界のリーダーという意識も、ノーブレスオブリージュ(権力者の義務感)という倫理もない。WHO(世界保健機関)脱退とか、勝手なことばかり、目先の利害だけでやっている」

――イージス停止問題をどう見る?

「トランプに言われて米兵器を買っているだけだからそういうことになる。独立国家としての国家防衛の理念、論理の欠落、米国のご機嫌取りしながらその都度おもちゃを買い、それを預けられているだけということだ。F 35 のような高額兵器は必要ない。F16改良型で十分だ。日本が高いカネを払って、かつ実験をさせられている。要は、米国にものを言えるリーダーがいない。こちらもやるからそっちもちゃんとしろよ、と言えるやつがいない」

――安倍政権の姿勢はあまりにも対米追従的だ。

「あまりにも、あまりにもだ。トランプという不動産屋の言う通りにやっているんだから情けない。軍事専門家集団であるはずの防衛省は一体何をしているのか。制服も事務官僚含め官僚の劣化もある」

――辺野古新基地についてはどう見る?

「米軍(海兵隊)は要らないと内々には言っている。日本が造ってくれると言うから黙っているだけだ。あそこは白いジュゴンの生息地、北限でもある。環境的側面から米国内なら建設は許されない。地位協定も然しかり。裁判権など対等にすべきだ」

――米大統領選については?

「米国人が再びトランプを選ぶとは思えない。黒人差別の問題もある。福音教会派もトランプ支持と言わなくなってきた。トランプ政権のこれまでがあまりにひどかったからだろう。安倍政権とは別の意味でひどすぎた。2人並んで今年中にサヨナラが一番皆のためだ」

朝鮮半島の「暴発」に注意せよ!

――小沢さん自身の現在の最大の関心事は?

「朝鮮半島情勢だ。王朝の中で変化が起きている。金正恩氏の健康問題があり、妹の与正氏が台頭、彼女が南北共同連絡事務所の爆破など強硬措置を取っている、と伝えられている。僕の印象では、中国が抑え切れないでいる。習近平体制も強いようでそれほどではない、というのが僕の持論だ。中国の支配が弱まると、半島は暴発する。今のトランプ政権がどこまで対応できるのか。朝鮮戦争70年の節目の年だが、第二次朝鮮動乱になるリスクを否定できない。僕があえて警告を発するとすればそれだ」

政局、日米を撫で斬りにした後、怖い予言をする。

最後にこう繰り返した。

「何が何でも政権交代を実現する。二度あることは三度ある。政権交代しなければ日本の民主主義が定着しない。僕にとっては三度目の正直となる闘いだ。これに負けたらこれまで何をしてきたかわからない」

なおたぎる78歳の情熱と執念。なぜ野党全体に広がらないのだろう?

おざわ・いちろう

1942年生まれ。衆院議員。国民民主党。時々刻々の政治状況を鋭く捉え、長年政界のキーマンであり続けている

くらしげ・あつろう 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

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