教養・歴史書評

アメリカ 人種差別の本質を論じた2冊=冷泉彰彦

ロビン・ディアンジェロ准教授による『白人であることの脆弱(“White Fragility”)』
ロビン・ディアンジェロ准教授による『白人であることの脆弱(“White Fragility”)』

 アマゾンの「最も売れた本」ランキングで、人種差別を扱った本が2位と3位を占めている。1冊は、ワシントン大学のロビン・ディアンジェロ准教授による『白人であることの脆弱(ぜいじゃく)(“White Fragility”)』で、2018年6月に出版されて話題になっていた。20年5月にミネソタ州で白人警官によるアフリカ系男性への暴行死事件を契機に全米で Black Lives Matter(黒人の生命の尊厳確認運動)が沸き起こると、人種差別問題を巡る議論の材料としてベストセラーに躍り出ている。

 自身が白人であるディアンジェロのメッセージは非常に鋭いものだ。白人が人種問題を論じる際に「自分は白人だが多様性を尊重している」とか「自分は白人だが差別には反対だ」などと無意識に自己弁護を行うことがあるが、その姿勢のことを「白人の脆弱さ」であると指摘。白人優位が当然とされる社会を無自覚に許してきたことの証拠として、そうした「脆弱さ」を徹底して反省することを要求するのである。

 ディアンジェロは、人種差別を乗り越えるセミナーや自己啓発トレーニングを展開するとともに、多くのテレビ番組に出演して啓蒙(けいもう)活動を行っている。

 この『白人であることの脆弱』は同時に賛否両論を呼んでいる。批判の多くは白人保守派からで、白人とりわけヨーロッパ系白人への「差別の書」だという内容だ。一方で有色人種の側からは「あしき白人をトレーニングで更生させるという姿勢が甘い」という批判もある。

ボストン大学反人種差別研究所長に就任したイブラム・X・ケンディの『反人種差別主義者になる方法(“How to Be an Antiracist”)』
ボストン大学反人種差別研究所長に就任したイブラム・X・ケンディの『反人種差別主義者になる方法(“How to Be an Antiracist”)』

 本書を「甘い」という読者の多くが称賛しているのが、ランキング3位に入っているボストン大学反人種差別研究所長に就任したイブラム・X・ケンディの『反人種差別主義者になる方法(“How to Be an Antiracist”)』だ。本書は、ディアンジェロのアプローチとは違って、原則論を厳しく確認する内容だ。「人種差別とは、ある人種が他の人種と比較して優位に立っているとか劣っているという発想を指す」という立場から、読者の思考方法、発想法を徹底的に問う内容となっている。

 レビューからはこの2冊の読者層は異なるように見える。実は2人の著者は親交があり度々対談も行っているところが興味深いとも言える。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事