投資・運用どうする? 実家の空き家&老朽マンション

コロナで一変の“切り札”民泊 塩漬け物件にも買い手が現る=桐山友一/種市房子

    約20万円で売買が成立した山口県内の一戸建ての空き家。修繕が終わり、近く貸し出されるという 小田商事提供
    約20万円で売買が成立した山口県内の一戸建ての空き家。修繕が終わり、近く貸し出されるという 小田商事提供

     <どうする? 実家の空き家&老朽マンション 実家の空き家編>

    「民泊需要の7割が一気に消えた。かなり厳しい状況だ」──。民泊物件の仲介サイトを運営するスペースエージェント(東京)の紙中良太社長が顔を曇らせる。「空き家に新たな出会いを。」をキャッチコピーに、空き家の所有者と民泊事業者の賃貸借を仲介してきたが、今年に入って新型コロナウイルスが感染拡大。国境を越えた人の移動が制限され、国内民泊市場の7割を占めていた外国人旅行者の需要が消失したのだ。

     空き家となった実家などを活用する“切り札”でもあった民泊。2013年ごろから増加し始め、民泊事業者の登録義務化などを定めた2018年の民泊新法施行後も市場拡大を続ける。今夏の予定だった東京五輪への期待もあり、観光庁によれば民泊の届け出住宅数は今年4月、2万1300件あまりを記録した。しかし、コロナ禍によってその後は初めて減少に転じ、今年7月時点では2万400件あまりに落ち込んでいる。

     事業を断念する民泊事業者も増える中、昨年1年間の民泊物件の仲介件数が2万3460件と国内最大規模に成長したスペースエージェントも今、仲介件数の大幅な減少に直面。それでも、紙中社長は「空き家活用に悩む人は多く、『新たな出会い』の火は絶やしたくない」と強調する。紙中社長が今、新たな可能性を見いだしているのは、地方にある一戸建ての空き家物件だ。

     民泊需要はこれまで、東京や大阪など大都市部のマンションやアパートに人気が集中。地方の戸建ての民泊は、外国人の利用が少ないばかりか日本人の利用も大人数での宿泊のケースなどに限られていた。しかし、コロナ禍によって「密」を避ける需要が新たに生まれており、紙中社長は「地方の戸建て民泊は他の人と接触する機会が少ないため、家族連れなど利用する日本人が今後、増えるのではないか」と期待する。(空き家&老朽マンション)

    「平屋の戸建て」に価値

     資産価値が乏しく放置されるままになっていた空き家も、動き出す事例が出てきた。本誌昨年7月9日号で取り上げた山口県内の一戸建ての空き家。同県内に住む80代の女性が10年ほど前、母親が住んでいた実家を相続したが、不動産仲介会社に依頼しても8年以上、買い手のつかない物件だった。しかし、女性が諦めかけていた昨年8月、買い手が突如、現れた。

     空き家を購入したのは、アパートや借家を経営する小田商事(山口市)の小田和弘代表取締役。価格はなんと約20万円の“格安”だった。空き家の土地は約130平方メートルで駐車場はなく、築70年になろうとする平屋の家屋が建っている。小田さんはこうした一見、活用余地の乏しい戸建てやアパートを格安で取得して賃貸しており、今回の空き家は16物件目になる。

     購入の決め手になったのは、価格だけでなく「平屋の戸建て」で家屋が「傾いていなかったこと」だ。小田さんはコストを抑えるため、自分で庭木を切ったり雨漏りを直したりするが、「2階建てや構造が傾いている物件は自分で直すのが難しい」(小田さん)。また、「地方では賃貸物件はアパートなどばかりだが、ペットを飼っていたりして戸建てに住みたい人がいる。賃料さえ安ければ借り手は見つかる」と話す。

     空き家が動いたきっかけは、女性の親族が不動産仲介会社を替え、資産価値の低い不動産の仲介経験が豊富なひらど事務所(同市)に相談したこと。以前の仲介会社では固定資産税評価額とほぼ同額の約260万円で売りに出されていたが、管理負担に悩む女性は「タダでも手放したい」と考えていた。ひらど事務所の平戸武郎代表は「地方では、物件の実際の価値が固定資産税評価額を大幅に下回ることが少なくない」と話す。

     ただ、不動産はタダで第三者に譲渡したりすると、固定資産税評価額などを基に贈与税の課税対象となってしまうことがある。今回の物件の場合、贈与税の課税対象とみなされないような価格設定をしたことも、売買成立の大きな要素となった。平戸代表は小田さんと以前、別の取引で知り合っており、人的なネットワークも生きた形。売り主の女性の親族は「実家を処分できて肩の荷が下りた」と安堵(あんど)する。

    自治体の支援制度続々

     多くの人が頭を悩ませる空き家は、年々増加を続けている。総務省が昨年4月に発表した5年に1度の「住宅・土地統計調査」(2018年)によれば、空き家数は全国で846万戸にのぼり、前回13年の調査に比べて26万戸増加。空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は13・6%と過去最高を記録し、すでに7戸に1戸は空き家というのが現状だ。

     ただ、18年調査では事前の見込みほど空き家率は上昇しなかった。その大きな要因は、住宅の除却戸数(取り壊した住宅の数)が予想以上に多かったことだ。除却率(新設住宅着工戸数に対する除却戸数の比率)は過去の調査では30~40%で推移していたのが、13~17年は62%まで上昇。倒壊などの危険がある空き家を強制的に取り壊すことを可能にした「空き家対策特別措置法」が15年に施行された影響もあるとみられている。

     それでも、今後も空き家はさらに増えていく見込みだ。野村総合研究所の推計では、除却率が現在の水準で推移した場合でも、38年には空き家率は20・8%になると予測。除却率が08~12年度の水準に戻る前提では、38年の空き家率は30・5%にもなる(図)。野村総合研究所の榊原渉上席コンサルタントは「全体として住宅の数がこれからも増え続ける以上、住む人がいなければ新たな空き家も増える」と話す。

     空き家は管理不全のまま倒壊したりすれば周囲に損害を及ぼすだけでなく、その存在自体が地域の活気を失わせてしまう。こうした問題に対処するため、全国の地方自治体では空き家の所有者や活用したいと考える人に向け、さまざまな支援制度を設けている。主には、(1)空き家の解体・撤去、(2)空き家の購入、(3)空き家の利活用(リフォーム、ごみ撤去など)──の費用の一部を補助するものだ。

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     一部自治体では全額補助するメニューもあり、これらを有効に活用しない手はない。中には自治体独自のユニークな制度もある(表)。誰も住まなくなった実家など、“お荷物”とばかりみられていた空き家も、時代の変化に合わせた工夫ややり方次第では処分や活用の道が開ける。いつまでもずるずると放置していては、事態は一層悪化するだけ。処分や活用に乗り出すなら、タイミングは早ければ早いほどいい。

    (桐山友一・編集部)

    (種市房子・編集部)

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