テクノロジー

1年かけても導入「わずか900件」……経産省・総務省が進める統一QRコード事業 このままレガシー化し「第2のマイナンバー案件」となるのか

    オフィスグリコのようなオフィス内での販売サービスは、JPQRの希望となる可能性がある(筆者撮影)
    オフィスグリコのようなオフィス内での販売サービスは、JPQRの希望となる可能性がある(筆者撮影)

     QRコード、またはバーコードを使ってスマートフォンで決済を行う「コード決済」は近年、乱立と過当競争の波にさらされている。各種還元を謳(うた)う大型キャンペーンで、利用者に恩恵を与えつつ、一方でサービスの多さからくる複雑性が混乱を呼んでいる。

     この問題を解決すべく登場したのが、統一QRコード・バーコード事業「JPQR」だ。総務省と経済産業省の二つの省庁に加え、多数の法人・団体の会員で構成される一般社団法人キャッシュレス推進協議会が規格策定に参加する。

     コード決済には、顧客提示型(CPM)と店舗提示型(MPM)という2種類の方式がある。CPMは、利用者が自身のスマホ画面にQRコードやバーコードを表示し、それを店舗側が読み取ることで決済する。MPMはあらかじめ店舗側がQRコードを掲示し、それを利用者がスマホのカメラで読み込んだ上で支払う金額を入力して店員にその都度確認してもらうという方式だが、決済サービスごとにQRコードを用意する必要があり、掲示場所の確保などに課題があった。JPQRもMPMの規格となるが、レジまわりのQRコードを一つに統一できる。そのため、サービスの数だけ印刷物を並べずに済み、非常に簡素になる。利用者も自分が使いたい決済のアプリを立ち上げてJPQRのコードを読み込むだけでいいので、手間がない。

     また、JPQRでは同決済を導入する店舗支援として、一度の申請で、同時に複数の決済事業者との加盟店契約が可能な仕組みも提案しており、この点での簡便さも大きな特徴としている。

    進まない周知

     昨年8月には岩手、長野、和歌山、福岡の4県で実証実験が始まり、後に栃木も加え、2019年度中に計1万2000店舗で先行導入された。今年6月22日には一般申請が開始され、全国へ拡大することになった。

     しかし、7月中旬の総務省の発表によれば、加盟店の申し込み件数は、わずか900件にとどまっている。総務省の担当者は「申し込みが、インターネット経由のみという受け身姿勢が一因にはある。今後は全国の商工会議所などを通じて広くJPQRを周知し、利用拡大に努めていく」という。

     全国展開は開始されたばかりだが、先行導入地域ではすでに1年近く利用が続いており、さまざまな課題が見えつつある。和歌山市内で茶屋を営む諏訪園は、実証実験開始初日にJPQR運用を始めた店舗の一つだが、導入から半年ほど経過した昨年12月に取材したところ、「導入初日は関係者が多く集まり試していたが、それ以降は両手で数えるほどしか利用されていない。サービスごとに売上金が別々に計上され、管理画面が異なるのも不便」という。また、コード決済サービスごとに入金にかかる日数や、入金手数料が無料になる条件などが違うという課題もある。たとえば、決済回数の少なかったコード決済サービスから売り上げを入金してもらおうとすると、入金手数料のコストのほうが高くなる可能性もあるのだ。

     一方でこうした状況に対し、入金手数料を無料とする条件の引き下げや、以前はサービスごとに存在していた管理画面を資産管理ツールのマネーフォワードに統一するなどで改善を進めている。また、現在はすべてのコード決済サービスに対応しているわけではないが、「準備ができしだい対応する」(総務省担当者)としている。

    個別契約を優先

     JPQRの全国展開発表後、サービス各社の加盟店手数料が公開され、大きな話題になった(表)。

     ペイペイは個別契約時、21年9月までは決済手数料を無料にしており、多くの加盟店を惹きつけている。同社では21年9月以降の個別契約時の手数料については明言していないが、関係者の間では、ペイペイでの決済回数が規定に達するなどの「条件付き」で、引き続き無料にするとうわさされている。

    ――訂正 ペイペイが21年9月まで決済手数料を無料にするのは、うわさではなく、同社で発表済みの内容でした。――

     一方でJPQR経由で契約を申し込んだ場合は、1・99%から2・59%の手数料が段階的に適用、21年10月以降は3・24%まで引き上げられる。つまり「JPQR経由で申し込むと手数料をとるが、個別契約なら免除する」ことで、個別契約へ誘導する狙いだ。

     ペイペイはソフトバンクグループの総力を結集し、全国へ大規模な営業部隊を展開して加盟店開拓を行っている。結果的にJPQRを通じて他社に相乗りされるよりは、独自契約を重視したいという考えなのだろう。コード決済シェアで5割から6割を占めると言われるペイペイだが、それだけに利用者の誘導効果も高く、周囲に与える影響は決して小さくない。

     中小小売りを対象とした加盟店開拓で苦戦し、事業者の取り組み具合に差も出ているJPQRだが、希望の一つは江崎グリコが提供するオフィスグリコだ。

     東名阪に福岡を加えた4都市圏で、事務所設置型の菓子販売サービスを行うオフィスグリコは、従来の現金販売に加え、昨年よりペイペイとラインペイに対応。さらにd払いとメルペイなどの導入テストも行っており、今後も利用動向を見ながら対応サービスを増やしていく可能性を示唆している。7月には霞が関限定でJPQRのテストも開始した。

     江崎グリコの担当者は、「JPQR導入はあくまで試験的なものだが、今後コード決済が増えたときに一つのQRコードで済むのは利便性向上の上で有利だ。これを全国展開するか、すでに導入しているサービス以外にも増やすかは、手数料や固定費を見ながら、ビジネスでの有益性を考えて判断する」としている。

    (鈴木淳也・モバイル決済ジャーナリスト) 

    (本誌初出 1年間で導入わずか900件 統一QRコード事業の苦難=鈴木淳也 20200901)

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