教養・歴史アートな時間

映画 ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー=芝山幹郎

©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
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駄菓子に見えて質が高い 侮ると損をするコメディ

「ハイスクール生活最後の日々」を描いた映画は少なくない。描きたくなるのも当然だ。子供と大人の境目。背伸びや虚勢の連発。浅知恵と愚かしさの盛り合わせ。コメディにぴったりの材料が捨てるほど転がっている。さらにいうと、甘酸っぱい郷愁や若者特有の純情も、泉のように湧き出てくる。これを見逃してなるものか。

 前者の好例は「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年)だ。後者の代表は「バッド・チューニング」(1993年)だろう。どちらも面白い。軽くて馬鹿なコメディと侮られがちだが、工夫された脚本、自意識を捨てた芝居、大胆で率直な演出が絡み合っている。駄菓子に見えて質の高いスイーツだ。こういう映画をなめると損をする。

 その列に加わったのが「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019年)だ。長ったらしい副題は無視してよい。ブックスマートとは、頭でっかちの秀才クンを意味する。

 舞台は南カリフォルニアで、秀才クンはふたりの女子高生だ。ひとりは生徒会長のモリー(ビーニー・フェルドスタイン。あのジョナ・ヒルの実妹)。もうひとりはその親友エイミー(ケイトリン・ディーヴァー)だ。モリーは東部の名門イェール大学に、エイミーもコロンビア大学に進学が決まっている。

 わたしたちだけがエリートコースで、ほかの子に悪いわね、と彼女たちは思っていた。ところが、チャラチャラして見えた遊び人の同級生たちも、アイヴィ・リーグの大学や優良企業に進む予定だと聞かされる。

 事実を知ったふたりはショックを受ける。イケてなかったのは自分たちだと気づき、猛然と巻き返しを図る。卒業パーティに乱入し、思い切り弾けて、周囲を見返してやろうとするのだ。しかしそんな無茶が……。

 監督は、1984年生まれのオリヴィア・ワイルド。「ラッシュ プライドと友情」(13年)や「リチャード・ジュエル」(19年)で好演した女優だが、長篇映画初監督で堂々たる手腕を見せている。女性4人組の共同脚本もチームワークを感じさせる。

 快調な筋運びとテンポのよい会話。おかしさと愚かさ、ダサい部分と賢い部分を巧みに配合する手法。男子高校生が主人公の映画では性欲一辺倒の妄執が強調されがちだが、こちらはもっと落ち着いている。

 もうひとつの美点は、「ガーリーなタッチ」が抑えられていることだ。うわついた騒音は少ない。セックスや友情や冒険といった要素も、穏やかだが的確に扱われている。私はときおり、「リーサル・ウェポン」(87年)のようなバディ・ムービー(相棒映画)を連想して笑った。

(芝山幹郎・翻訳家、評論家)

監督 オリヴィア・ワイルド(長篇初監督)

出演 ケイトリン・ディーヴァー、ビーニー・フェルドスタイン

2019年 アメリカ

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中


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