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高齢者の大反発をよそに、みずほ銀行が通帳を有料化したワケ……いずれ口座維持手数料が当たり前の時代になる?

みずほ銀行の布石は波紋を呼んでいる
みずほ銀行の布石は波紋を呼んでいる

「みずほ銀行通帳有料化」は一般メディアでも大きく取り上げられ、「低金利環境に苦しむ銀行がフィンテック(金融とITの融合)時代における収益確保に乗り出した」と報じられた。

 これに対して銀行関係者の反応は「ハードルが高い」という少し異なるものであった。既存口座からの徴収は難しく、新規口座に限るという点では意外感はなかったものの、そこにさらに70歳以上の個人は無料という文言が付されたのは意外感があったと言う。

 年齢制限などがない案も行内で検討されただろう。しかし結局、70歳以上の個人は無料という案が採用されたのは、それだけ高齢者の反発が強く想定されることの裏返しだろう。

経常利益の1%未満

 この議論の原点は、マイナス金利政策に対する銀行の収益自衛策である。日銀当座預金の一部にマイナス金利を課すと、市場金利の低下を通じて銀行の貸出金利回りが低下し、銀行の収益は悪化する。

 一方で預金金利は実質ゼロ%まで低下しており、銀行側には対抗手段がない。預金にマイナス金利を適用する、あるいは広く口座維持手数料を徴収するこれらの手段は極めてハードルが高いため、各行は預金関連で手数料を徴収するという路線に移行し、通帳の有料化に至った。

 預金口座の維持は、システム費用やアンチマネーロンダリング(預金洗浄対策)などの規制対応費用の観点から年々銀行にとって高額な負担となっている。ただ、これらのコストは一般消費者から見えにくく、もともと無料提供していたものでもあり、手数料徴収への抵抗感は大きい。通帳という目に見えるモノがあるところ、つまり受益者負担が感覚的にも納得してもらいやすいところに、まず焦点が当たったと言えよう。

 そもそも既存口座への通帳有料化導入は、極めて高いハードルがある。預金口座には約款があり、新規口座であればその約款を改定して、利用者に合意してもらったうえで口座開設という流れにできるが、既存口座であれば契約途中で約款を遡及(そきゅう)改定することになる。しかも利用者側に一方的な不利益改定であり、ハードルは高い。

 軽微な約款の改定であれば、既存口座でも実は公告などで事足りる。問題は通帳有料化が「軽微」と言えるか。法律関係者の間では「軽微」とは言い切れないというのがコンセンサス。これが事実上、既存口座での通帳有料化を極めて難しいものにしている。

 また、新規口座の通帳を有料化する収益効果はどうか。法人を含めたみずほ銀行の口座は2500万口座とする。うち年間の新規口座は1割にも満たないだろう。仮に200万口座として、そのうち70歳以下の個人で、かつ税込み1100円でも紙の通帳を希望した人が半分いたとすれば100万口座。年1冊交付として、銀行の収益となる税抜き1000円をかければ、年10億円の収益効果となる。

 これは一見多い額にも見えるが、みずほフィナンシャルグループ(FG)の今年度の経常利益計画4000億円に比べれば、1%にすら満たない。また、コロナ前である前年度の経常利益約6300億円に比べれば、もっと小さな影響でしかない。今年度にみずほFGが見込む不良債権処理費用2000億円と比べても、わずかな金額だ。

ライバルは「アメ」

 そんなにインパクトが小さいにもかかわらず、なぜ世間に波風を立てながらでも実施するのか。これは小さな収益でも確保したい思いと、将来の預金関連の手数料徴収拡大への布石としたいという思いの両方があるだろう。

 みずほ以外にもこういった取り組みは検討・実施されている。記憶に新しいのは昨年末に、三菱UFJ銀行が新規口座で不稼働口座となった場合に口座管理手数料を徴収すると報じられたことだ。また、新規口座での通帳の有料化も合わせて報じられた。この時も既存口座には約款の壁がある上述の議論となり、報道が先行したことで、銀行側が「世間の反応を見るために観測気球として情報を出したのでは」とも言われた。

 不稼働口座の口座管理手数料は、手数料徴収が目的というよりも、利用者に不稼働口座を閉鎖してもらい、銀行側が口座管理コストを下げる目的の方が大きい。ただ銀行側に寄せられた世間の意見は好意的なものばかりではなかったのだろう。三菱UFJは現在に至るまで、自らこの内容のリリースはしていない。

 逆に三菱UFJが行ったのはデジタル通帳への切り替え促進のために、デジタル通帳に切り替えた利用者先着20万人に総額2億円を配るというキャンペーンだった。手数料徴収が「ムチ」とすれば、キャンペーン実施は「アメ」に近いと言えよう。三井住友銀行も同様のキャンペーンを遅れて実施し、こちらも「アメ」を選択した。

 みずほの通帳有料化はどちらかというと「ムチ」であり、これには今後他のメガバンクや地銀なども便乗してくるだろう。この他にも振込手数料の引き上げ、新札や硬貨、小切手帳の取り扱いの料金改定、コンビニATM(現金自動受払機)での無料利用回数の削減など、収益貢献はそれぞれ微々たるものであるが、細かい手数料改定を積み重ねている。

 約款の壁をクリアできた場合に、よりインパクトのある既存口座への口座維持手数料は実現できないものか。仮に先ほどの計算で、みずほ銀行の2500万口座から毎月100円を徴収できれば、2500万口座×100円×12カ月=300億円になる。もちろん、口座維持手数料をアナウンスすれば、口座の名寄せが進み、口座数の減少も予想される。ただそれを加味しても収益インパクトは小さくはないだろう。

ゆうちょは導入できるか

 一方で、こちらも比べ物にならないほどの世間からの逆風も想定される。コロナの状況下で口座維持手数料が導入されていれば、残高のない口座に10万円の特別定額給付金が入金された瞬間に、口座維持手数料が引き落とされることになる。一定残高以下の口座は、除外対象とする考え方もある。ただそれは収益貢献が減るだけでなく、そもそも大口顧客ほど不利益を被るという奇妙な構図になってしまう。

 すべての銀行が口座維持手数料を導入できるのかという問題もある。具体的にはユニバーサルサービス(すべての国民に等しくサービス)の提供義務があるゆうちょ銀行。もちろん現在、明文でゆうちょ銀行が口座維持手数料の徴収を禁じられているわけではない。

 ただ、口座維持手数料の導入に追随した場合、ユニバーサルサービス提供義務との関係は議論になるだろうし、仮にゆうちょ銀行だけが口座維持手数料を導入できなかった場合、他行の預金がゆうちょ銀行に流入し、ゆうちょ銀行は多額のマイナス金利負担を背負うことになる。そういったことが予見される状況の中で、他行がトリガーを引けるか、これも難しい問題であろう。

 安倍政権が終焉(しゅうえん)しても、経済・金融政策が大きく変わらないと考えられる以上、銀行に浮上の目は見えない。「通帳有料化」をはじめとする収益強化策は制約も多く、焼け石に水である。

(山本大輔・金融アナリスト)

(本誌初出 みずほ銀行の通帳有料化は将来の手数料拡大への布石=山本大輔 20200929)

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