新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 大予想 米大統領選

地味な公務員のはずだったバイデン氏、実は億万長者だった……候補の「カネ」で見るアメリカ大統領選挙

バイデン氏(左)とハリス氏
バイデン氏(左)とハリス氏

 民主党の正副大統領候補として選ばれたジョー・バイデンおよびカマラ・ハリス両氏は、それぞれ過去21年分および15年分の確定申告書を公開し、その透明性をアピールしている。本稿では、両候補の確定申告書を分析することにより、その経済生活に切りこんでみたい。

地道な公務員生活が一変

 バイデン夫妻の申告書からは、2016年までは、とても地道な公務員夫婦であったことが見て取れる。16年の申告書では、総所得が約40万ドル(約4200万円)計上されているが、そのうち最大要素の約31万ドルは、バイデン氏の副大統領歳費約22万ドルと教育者であるジル夫人のバージニア州北部コミュニティーカレッジ(NOVA)からの給与約9万ドルである。投資・金融所得はほとんどなく、給与所得の次に多いものは、バイデン候補の老齢年金給付約3万ドルという地道さである。

 所得控除項目としても、目立つものは州税約3万ドルと住宅ローン利息約2万ドルのみであり、結果として課税所得約34万ドルに対し、連邦所得税約9万ドルとなった。給与所得から徴収された源泉所得税が、ほぼ同額の約9万ドルであり、最終的には約1000ドルの申告納税となった。

 バイデン氏の8年間の副大統領在職時、夫妻の申告書はずっとこのようなもので、全く透明、逆に言えば面白味のないものであった。

 ところが、副大統領退職後の17年に、夫妻の申告書は一変する。総所得約1104万ドル(約11・7億円)という億万長者になるのである。

 給与所得だけ見ても、約72万ドルと倍増している。ジル夫人のNOVAからの給与約9万ドルは変わらないが、バイデン氏が米ペンシルベニア大学の教授として約37万ドルの給与を得るとともに、二つのS法人(=株主課税法人、セルティックカプリ社とガイアコッパ社)から給与を計約25万ドル受領しているためである。

 驚くべきは、1006万ドルもの補完的所得である。内訳は、セルティック社から約950万ドル、ガイア社から約56万ドル配分された利益であり、書籍印税と講演料がその内容である。歴代正副大統領も、退任後は執筆と講演で富裕になる人物が多いが、バイデン候補もその後を追っていると言えよう。

 また、所得控除項目も一変している。副大統領在任中も寄付金が少額であったことを指摘され続けてきた反動か、宗教・教育関係などの慈善団体に対し、約101万ドルもの寄付金控除を計上し、項目別控除は約145万ドルにのぼった。

 この結果、課税所得は約958万ドル、これに対応する連邦所得税額が約374万ドルとなった。この年、バイデン夫妻は約18万ドルの源泉所得税以外に予定納税を行わなかったため、申告時に約355万ドルもの納税をしており、かなり珍しいパターンとなった。

 18年には、バイデン夫妻の総所得は約458万ドルで、前年の半分以下となった。これは執筆・講演によるセルティック社およびガイア社からの補完的所得が計324万ドルにとどまったことによるもので、約135万ドルの予定納税を行った以外は、申告書の基本的な流れは変わっていない。

初のセカンドハズバンド

 副大統領候補として指名されたカマラ・ハリス上院議員は、父親がジャマイカ系移民で米スタンフォード大学の教授を務め、母親はタミル系インド人で著名な医学者であったことが知られている。極めて知的でダイバーシティ(多様性)に富んだ家庭の出身であることが、今回の指名に影響したであろう。

 一方で、夫ダグラス・エムホフ氏が、エンターテインメント専門のユダヤ系弁護士として著名な存在であることは、日本ではあまり報じられていない。夫妻には2人の子どもがいるが、エムホフ氏と前妻との間の子どもである。仮にハリス候補が就任すれば、エムホフ氏は米憲政史上初めての「セカンドハズバンド」となる(副大統領夫人は、セカンドレディー)。

 夫妻の過去の申告書を見ると、家計の中心はエムホフ氏であり、カマラ候補は従であることが特徴と言える。直近18年の申告書を眺めてみよう。

 この年の総所得は約204万ドル(約2・1億円)であるが、その大宗を占めるのは、エムホフ氏が所属するDLAパイパー法律事務所から得た補完的所得(パートナーシップ所得)約155万ドルである。

 妻のハリス候補は、約16万ドルの給与所得(上院議員歳費)と約32万ドルの事業所得(印税収入)を得ている。バイデン夫妻と同じく、投資・金融所得がほとどないことは、伝統的に共和党の正副大統領(候補)は多額のそれを計上していることと、対照的である。

 項目別控除は約7万ドルと少額であるが、寄付金控除が約3万ドルにとどまることと、トランプ税制改革による州税控除(SALT)制限により、実際には約23万ドル支払ったにもかかわらず、税務上1万ドルしか控除できなかったことが大きい。

 この結果、課税所得が約182万ドル、対応する連邦所得税額は約61万ドルであった。これに自営業税などを加えた総連邦税額は約70万ドルであり、約2万ドルの源泉所得税と54万ドルの予定納税を支払っていることから、約13万ドルの不足分を申告時に納めている。

 14年の結婚以来、エムホフ氏のパートナーシップ所得が家計の大宗を占め、ハリス夫人の給与所得はそれに比べて少額というパターンは変わっていない。ハリス夫人は、13年までは独身のカリフォルニア州司法長官であり、約13万ドルの給与所得を計上するのみであった。ハリス候補は経済的に見る限り、結婚により安定したセレブの仲間入りをしたと言えよう。

トランプは非開示

 なおトランプ大統領は、税務調査中であることを理由に、大統領選挙中も就任後も、確定申告書の公開を拒み続け、政治問題化している。ぜひ公開してもらって、その内容を精査し、バイデン候補たちと比較したいと考えているのは、筆者だけではあるまい。

(成田元男・米国税理士)

(本誌初出 懐具合 バイデンは億万長者 ハリスは結婚後セレブ=成田元男 20200929)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事