国際・政治大予想 米大統領選

もしバイデン大統領が誕生すれば米国はこうなる……いずれにせよ経済復興優先、国際的リーダーシップは二の次?

    Bloomberg
    Bloomberg

     バイデン政権への政権交代の影響を考える際には、バイデン氏の公約の全体像と、新政権を取り巻く環境を見極める必要がある。増税や規制強化などの個別の公約だけを、過剰に意識するのは禁物だ。(大予想 米大統領選)

     民主党のバイデン氏への政権交代には、増税や規制強化のように、景気に逆風となる政策への懸念が先立ちやすい。実際にバイデン氏は所得税、法人税の双方で大規模な増税を提案している。10年間の増税額は4兆~5兆ドル(424兆~530兆円)とされ、2016年の大統領選挙で、民主党の指名候補だったクリントン元国務長官の提案と比べると、約2倍の規模となる。規制に関しては、発電所の排ガス規制や自動車の燃費基準の強化が公約となっている。

     もっとも、これらの提案を個別にとらえ、負の側面だけを過剰に警戒するべきではない。公約の全体像を理解するのが先決だ。

     増税に関しては、歳出に関する提案をあわせて考えれば、バイデン氏の財政政策は拡張的である。インフラ投資や国内製造業の振興策などに、10年間で5兆ドル以上を投入する方針だ。歳出増の規模は増税を上回っており、財政全体では景気に逆風になるとは限らない。

     増税や規制強化が、どのような文脈で提案されているかも重要だ。バイデン氏の公約が実現すれば、歳出・歳入の双方で、政府の規模が拡大する。大きくなった政府の力を使い、米国が直面する構造問題に挑む点が、バイデン氏が目指す大きな政府の神髄である。

    パリ協定に復帰

     構造問題への対応が進めば、米国経済の中長期的な強靭(きょうじん)性は高まる。短期的な視点で、景気への悪影響だけを警戒するのはバランスを欠く。

     バイデン氏による規制強化は、気候変動への対応が主眼である。公約の目玉であるインフラ投資でも、クリーンな公共交通の実現や電気自動車を支える交通インフラの整備など、気候変動対策としての役割が重視されている。

     格差の是正も、バイデン氏が重視する分野だ。同氏が提案する増税は、富裕層や大企業が標的である。バイデン氏は財政赤字に強い懸念を示しているわけではない。増税は歳出増を賄うための財源というよりも、所得再配分による格差是正策としての性格が強い。格差とは無縁にみえる気候変動対策や国内製造業の振興策などでも、貧しい国民やマイノリティーが不利にならないよう、支援先の選定などで細心の注意を払うという。

     構造問題への挑戦は、トランプ政権からの大きな転換となる。トランプ政権は構造問題への危機感が低く、減税や規制緩和による経済成長の促進を優先してきた。気候変動に関しては、環境規制の緩和などによって、国内でのエネルギー開発が進められた。格差についても、17年に成立した大型減税は富裕層に有利であり、財政による所得再配分機能は低下している。

     トランプ政権との対比では、外交・通商政策においては、変化と継続が交錯しそうだ。2国間交渉を多用し、同盟国との摩擦すらいとわなかったトランプ政権と比べると、バイデン氏は同盟国を重視し、気候変動におけるパリ協定への復帰に象徴されるように、多国間の枠組みでの指導力回復を目指す。

     その一方で、米国の国益を重視する視点は、トランプ氏と変わらない。バイデン氏は、通商政策では米国に雇用増をもたらす公正貿易を主張し、安全保障では同盟国に責任の分担を求める。公共調達で国内製品を購入し、中国などからの雇用の国内回帰を目指す点も、両氏に共通する政策である。

    反トランプ票

     見逃せないのは、バイデン政権の公約が、そのまま実行されるわけではないことだ。政策の行方を決めるのは、発足時の政権を取り巻く環境である。

     新政権の発足直後には、大規模な増税を断行する環境は整わないだろう。新政権の最初の課題は、新型コロナウイルスからの経済復興になりそうだ。構造問題への対応を意識しているとはいえ、景気の足かせになるような増税の実施は後ずれを余儀なくされ、インフラ投資などによる景気刺激が優先されやすくなる。実際に、バイデン陣営には、公約の実行に移る前に、1兆ドル規模の復興策を手掛ける構想があるという。

     経済復興の着実な進展は、バイデン氏が公約を実現させるための前提条件となる。バイデン氏への支持は、トランプ氏への反感の裏返しとしての性格が強い。大きな政府を目指す公約が、世論に浸透しているとは言い難い。世論調査では、バイデン氏の支持者のうち、支持の理由に「政策」をあげる割合は、わずか1割に満たない。

     経済復興が進まなければ、世論は大きな政府に背を向けかねない。08年のリーマン・ショック直後にも、世論には大きな政府を求める機運があった。しかし、次第に金融機関救済策などへの批判が高まり、過激に小さな政府を求めるティーパーティー(茶会)運動が盛り上がる結果となった。

     外交・通商政策でも経済復興の進展が、バイデン氏の公約である国際的な指導力回復の前提となる。経済復興が進むまでは、バイデン政権が外交に本腰を入れる余裕はない。世論調査では、民主党支持者の8割弱が、次期大統領に外交よりも経済復興を優先するよう求めている。

    次の主は?(Bloomberg)
    次の主は?(Bloomberg)

    議会選挙の行方

     政策の行方を見極めるうえでは、大統領選挙と同時に行われる議会選挙の結果が重要である。民主党が上下両院の多数党を獲得すれば、バイデン氏は公約を実現しやすくなる。共和党との議席の差が開くほど、民主党内で大きな政府による構造問題への対応を急ぐ勢力の声が強まり、増税の実施時期が早まりやすくなる。

     議席の差が少ない場合には、党内の穏健派を取り込む必要性が高まり、大きな政府への歩みは遅くなる。特に定数100人の上院は、少数党の権利を守る伝統があり、インフラ投資などの歳出拡大を進めるには、過半数ではなく、60票以上の賛成を必要とする規則がある。

     上院での民主党の議席数が過半数を辛うじて上回る程度であれば、構造問題への対応を大胆に進めるのは難しい。議会の規則を変更し、過半数で議事を進行できるようにする強硬策が検討されそうだ。少数党となった共和党は、バイデン政権への協力を拒み、全力で政策運営を妨害する可能性が高い。

     政権発足から2年間での経済復興の進展が、バイデン政権の命運を決める。大統領選挙から2年後の22年11月には、議会の中間選挙が行われる。それまでに世論の支持を失えば、議会で民主党が議席を減らし、大きな政府で構造問題への対応を進める余地は小さくなるだろう。

    (安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長)

    (本誌初出 バイデン勝利なら 大きな政府で挑む格差是正&気候変動=安井明彦 20200929)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    11月3日号

    コロナ株高の崩壊14 金利上昇で沈むハイテク株 11月にダウ5000ドル暴落も ■神崎 修一17 リスク1 米バブル 下落局面への転換点 ■菊池 真19 リスク2 GAFA 米IT潰し ソフトバンクも試練 ■荒武 秀至20 米大統領選 勝敗予想 バイデンの「雪崩的勝利」も ■中岡 望23 失業率が示 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事

    ザ・マーケット