トランプ大統領の経済政策に「60点」しかつけられない理由 マクロではまずまずの成績だが、その他の面で大きなマイナスも
トランプ大統領1期目の任期が残り4カ月を切る中、これまでの経済政策に関する通信簿をつけてみたい。
米国経済は新型コロナウイルスの影響で深刻な打撃を受けた。経済政策の評価に当たって悩ましいのがトランプ大統領の新型コロナ対策の扱いだ。初動対応の遅れから感染拡大を招き、経済の傷口を広げたことは否定できないが、経済の落ち込みは世界的な傾向となっているほか、早期に経済活動の再開にかじを切ったことが景気回復を早めたとみられるからだ。このため、評価に当たっては2017年1月の大統領就任から新型コロナ流行前の20年2月までで判断したい。
結論から言えば、当該期間の良好な経済状況(表)を踏まえれば、100点満点中、60~70点の及第点と評価できるだろう。
トランプ氏が経済政策の成果としてきた株式市場は、主要な株価指数であるS&P500指数が20年2月中旬に史上最高値をつけたほか、就任からの上昇率が3割超となった。
また、大統領就任以来3年間の経済成長率は年率2.6%増である。これは目標としていた3%増を下回ったが、米議会予算局が推計する潜在成長率の1.7%増を1%近くも上回る水準だ。
トランプ氏が重視する雇用も、就任以来3年間で702万人の増加となった。これは目標としていた10年間で2500万人増(年間平均250万人増)に近いペースと言えよう。さらに、失業率も就任時の4.7%から、およそ50年ぶりとなる3.5%へ低下した。トランプ氏は労働市場を順調に回復させたと評価できるだろう。
このように経済が好調な要因としては、トランプ大統領が実現した10年間で1.5兆ドル(約160兆円)規模となる大型減税や、環境・金融規制の緩和などが挙げられる。
大型減税では、個人所得税や法人税率などが引き下げられた。とくに、法人税率は35%から21%に下げられた結果、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中最も高かったのが、12位まで改善した。これにより米企業の国際競争力が向上したのは間違いない。
再選は五分五分
規制緩和では、新たな規制を1件導入する際には、既にある規制を2件以上撤廃することを求めたほか、乗用車の燃費基準の緩和やアラスカでの原油・天然ガスの採掘を可能にする環境規制の緩和、中小金融機関に対する金融規制の緩和などを実現した。
トランプ大統領の減税や規制緩和はビジネスコストを引き下げる効果があり、製造業をはじめ実業界では高く評価されている。実際に全米製造業協会の調査では、税制や規制などの「不利なビジネス環境」が事業上の課題であると回答した企業の割合は、トランプ大統領当選前の16年7~9月期に73.6%と高水準であったが、20年1~3月期には僅か16.7%へ大幅に低下した。これは製造業のビジネス環境が顕著に改善したことを示す。
一方、トランプ大統領の通商政策は減点要因だ。就任直後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱したほか、これまで関税を多用する保護主義的な通商政策を推進してきた。とくに、対中政策では知的財産権の侵害を理由に、19年の対中輸入額の4割超に相当する2000億ドル弱に7.5~25%の関税が賦課されている。
最近の実証研究では、対中関税が相当程度最終価格に転嫁され、家計や企業の負担増につながっていることが示されており、経済にはマイナスだ。トランプ大統領の関税引き上げや相手国からの制裁関税などにより、大型減税による景気押し上げ効果のおよそ3分の1が相殺されるとの試算もある。
一方、有権者を対象にした最近の世論調査で、投票で重視する項目として「経済」を挙げる回答が79%となった。これは「医療保険」の68%などを抑えて全12項目でトップであり、経済が選挙結果を左右することが示された。
米国経済は回復に転じており、選挙直前の10月下旬に発表される7~9月の成長率は前期に大幅なマイナスとなった反動もあって、前期比年率で20%超の高成長が見込まれている。
バイデン前副大統領が足元の支持率ではトランプ大統領をリードしているが、景気回復は現職に有利に働くため、同大統領の再選確率は支持率が示すより高く、現状で五分五分だろう。
(窪谷浩・ニッセイ基礎研究所主任研究員)
(本誌初出 トランプの通信簿 コロナ除けば、60~70点=窪谷浩 20200929)