国際・政治 上級国民のための東京2020
コロナ禍でも上級国民たちが「東京オリンピック来年強行」を目指すのはなぜか……電通とオリンピック「闇ビジネス」の真相を伝説のプロモーター康芳夫が激白
電通は1984年のロサンゼルス五輪で放映権以外の権利を獲得し、五輪ビジネスで飛躍した。
放映権を獲得しない理由は、「特定の放送局に仲介すれば、残りの局は怒る」(田原総一朗『電通』)としてきた。
だが、実はその陰で、80年のモスクワ五輪に続き独占放映権獲得に動いたテレビ朝日と電通・NHK・他の民放連合の暗闘があった。
テレビ朝日の交渉人を務めた国際的なイベントプロモーター、康芳夫氏が電通の圧力を証言した。
(2016年に「週刊エコノミスト」へ掲載された記事を再掲しています)
裏で手を回す
--交渉で電通はどんなことをしてきたか。
康 裏側で嫌がらせを受けた。はっきりとした嫌がらせなら「目には目を」で対抗した。しかし、こうしたことは大体、裏でやる。
--電通はなぜ妨害したのか。
康 じっこんだったテレビ朝日の三浦甲子二専務(故人)に僕から話を持ちかけ、独占放映権獲得に動いた。電通は、民放が手を組むのは理想的だが、1社単独で手掛けるなら仕方がないと考えていた。
ところが民放連合は、単独で独占放映権獲得を目指すテレ朝を「どうにかならないか」と、電通を抱き込んだ。
--交渉は進んでいたのか。
康 もちろん。ロス五輪組織委員長のピーター・ユベロス氏から「契約してもいい」という話をもらっていた。
だが、ユベロス氏も電通との関係を心得ている。ユベロス氏から状況を聞いた電通が焦って裏でいろいろとごね出したというわけだ。
--電通は誰が交渉したのか。
康 服部庸一氏(当時の東京本社連絡総務次長兼プランニング室長、故人)だ。彼はなかなかのタマだ。裏に手を回された結果、三浦氏と僕は撤退を余儀なくされた。電通と民放連合に三浦氏が妥協してしまったのだ。僕も三浦氏の依頼を受けて動いていたから、彼が「もうやめよう」と言えばどうしようもない。
2020年東京五輪招致疑惑の渦中にいる高橋治之元専務もその頃はまだ、服部氏の部下だった。
--どうやって交渉したのか。
康 僕はユベロス氏の顧問弁護士、ロバート・アラム氏と旧知だった。アラム氏はボクシング元ヘビー級世界王者モハメド・アリ氏の顧問弁護士を務め、その徴兵拒否を巡る裁判に勝ったことで有名になった。今年6月のアリ氏の葬儀を仕切った。
僕が1972年、極東地域で初となるアリ氏の国内試合をプロデュースした時、アラム氏を顧問弁護士とした。
アラム氏を通じてユベロス氏を紹介してもらった。僕は三浦氏から軍資金を受け取り交渉に臨んだ。
2020東京五輪招致の裏で不正行為はあったのか
--電通のスポーツビジネスをどうみるか。
康 ロス五輪前後に、服部、間宮聡夫(当時のスポーツ副部長、故人)両氏は特殊な聖域を築いた。
最高顧問まで務めた成田豊氏(当時はロス五輪担当役員、故人)や服部氏自身も、スポーツ利権がこんなに大きくなるとは思っていなかったのでは。
間宮氏は、僕がアリ氏を日本に呼んだ時の電通の担当者で、東京12チャンネル(現・テレビ東京)とのつなぎ役だった。
テレビ中継のスポンサーはサントリーだったが、試合の財政的な責任者だった僕にも個人的に手数料を要求してきた。
その時は「ふざけんなよ、俺のリスクでもうけているくせに」とはねつけた。
93年から社長を務めた成田氏も、スポーツビジネスについては彼らに任せるしかない。聖域と言える特殊な国際人脈だから。彼らがのさばった一番大きな理由ですね。日本政府の意向に従わなかった第二次世界大戦中の関東軍のようなものだ。
服部氏はウラ金でパリに料理店を開いたといううわさが立ったり、世界中をファーストクラスで飛び回ったりやりたい放題に振る舞っていた。
--2020年東京五輪招致疑惑で高橋氏の名前も挙がっている。
康 仏検察当局が高橋氏の身柄の引き渡しを要求するか、それとも、日本政府が泣きを入れ、仏当局が引き下がるかどうか。
問題は仏当局がどこまで証拠を握っているかだろう。
コミッションが高橋氏の下に確実に返ってきているといわれるが、現段階ではまだうわさに過ぎない。状況証拠はいくらでもあるけど、ファクト(事実)がない。
ただし、言えるのは、五輪業界が腐っているということだ。高橋氏が逮捕されるような事態になれば、東京五輪がつぶれかねない。
一方で今、五輪業界に大きなメスが入ったことで、こうした利権構造も壊滅状態に陥っている。これできれいになれば、よい方向に向かうかもしれない。
これからは監視の目も厳しくなるだろう。かつてのようにやりたい放題に動けるのは、高橋氏で終わりになるかもしれない。
--電通の圧力を耳にしたか。
康 それは腐るほど。電通のスキャンダルとか、ほとんどつぶされていますよ。大きな電通の組織的な力っていうのは、あらゆる方面に。非常に巧妙なマスコミ対策をやるんでね。なかなか当事者も口を割らないところがある。
昔は軍部、今総評っていう言葉があったけれども、今は電通ですよ。もうちょっと確固たる姿勢を大きなメディアは取ってほしい気持ちがありますね。
康芳夫
1937年東京都生まれ。東京大学卒業後、国内外でイベントプロモーターとして活躍。プロボクシング元世界ヘビー級王者、モハメド・アリ氏の日本での試合や「謎の類人猿オリバー君」の招へいなど、世間を驚かすイベントを数多く手掛け、「伝説のプロデューサー」と呼ばれる。TBS系テレビドラマ「ディアスポリス─異邦警察─」にも出演。79歳。