「グローバル化の死」なのか コロナ禍の米国で議論活発=岩田太郎
新型コロナウイルスの流行で、それ以前から進行中であったグローバル化の巻き戻しが加速しているとの見方が米論壇では大勢を占める。どうすればグローバル化を修復できるのか。過去数カ月の米論壇における議論の方向性は多様である。
ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は6月3日付の評論サイト「プロジェクト・シンジケート」に寄稿し、「コロナ後の世界経済はグローバル化が大きく後退したものになる」と予想。「その結末はより遅い経済成長にとどまらず、一部の経済大国や多様化された経済を除き、顕著な国民所得の低下となって表れるだろう」との見解を表明した。
その上でロゴフ教授は、「米中関係の悪化に見られるような、今日における1930年代に類似した脱グローバル化は、高度に多様化され世界最先端の技術と天然資源に恵まれた米国経済においてさえ、深刻な実質国内総生産(GDP)の減少をもたらす」とした。
一方、「グローバル化は終わっておらず、この先も進行する」との見方もある。米経済専門局CNBCは9月15日付の解説記事で、「著名エコノミストのジム・オニール氏やコロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、コロナ禍でグローバル化が停止するとは考えていない。オニール氏は、『IT大手の米アップルが中国でスマートフォンを販売することはやめないだろう』と話し、サックス教授も『コロナ流行で急増したリモートワークは、最も優秀な人材をより多くのグローバルな仕事に引き付けることになる』と語った」と伝えた。
惨劇にしない処方箋
有力シンクタンクの米ブルッキングス研究所のジェフリー・ガーツ研究員は7月24日付の外交サイト「フォーリン・ポリシー」で、「世界的なサプライチェーンは極めて複雑に絡み合っており、脱グローバル化は成功しないだろうとの見方が多い」と前置きした上で、「政治が脱グローバル化を決断すれば逆らえない」との現実的な見解を表明した。
ガーツ氏はさらに、「もし脱グローバル化が避けられないのであれば、サプライチェーンで商品不足が始まるより前に、幅広い産業のグローバルな相互関係を調べ上げ、どの産業が国家安全保障にとって必須であるかを討議し、意図しない結末を回避すべきだ」と主張した。
また、ケマル・デルビシュ元国連開発計画(UNDP)総裁は6月10日付のブルッキングス研究所の記事で、「世界銀行の副総裁であるカーメン・ラインハート氏は、『コロナはグローバル化の死を決定的なものにした』と述べたが、脱グローバル化を経済的な惨劇にしないためにも、新たな多国間主義で効率的な国際協力を樹立すべきだ」と論じ、脱グローバル化に対する処方箋は修正されたグローバル化だと示唆した。
翻って、独保険大手アリアンツの首席経済顧問であるモハメド・エラリアン氏は5月11日付の「プロジェクト・シンジケート」の記事で、「グローバル化の支持者は勝利の見込みのない闘いを続けて混乱を招くよりも、秩序があり、段階的な脱グローバル化を管理された方法で追求すべきだ」と言明。そして、「より包摂的で持続性のあるグローバル化の基礎を固め、民間セクターがその計画と実行でより大きな役割を果たすように導くべきだ」と締めくくった。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)