経済・企業 インタビュー
オリックス銀行 錦織雄一社長 「投資用不動産に目利き力 コロナ禍でも融資は回復」
個人向け投資用不動産に強いオリックス銀行。コロナ禍にどう対処するのか。今年6月に就任した錦織雄一社長に聞いた。
(聞き手=金山隆一・編集部)
── オリックス銀行とはそもそもどんな銀行ですか。
■1993年8月に山一証券が設立した山一信託銀行が母体で、オリックスが98年に買収し、銀行業に参入しました。ATM(現金自動受払機)、店舗網、決済機能を持たない銀行の強みを生かし、貸し出しと利益の約8割を個人の投資用不動産向け融資に特化するニッチな銀行です。貸出残高の大半はワンルームマンションです。
── 経営の特徴は?
■融資に必要な分だけ預金で調達しているため、預貸率(預金に対する融資の比率)が96.7%と高いのが特徴です。また、経費率(業務粗利益に占める経費の比率)も36.8%と低く、ROA(総資産利益率)は0.76%と、銀行業としては非常に高い水準にあります(注:地銀上位行で0.3%台)。2020年3月期まで7期連続で当期純利益の最高益を記録しています。
── 個人向け投資用不動産への融資は、スルガ銀行の不正融資事件が社会問題になりました。スルガ銀行事件の影響は?
■19年3月期は事件の影響を受けましたが、投資用不動産向け融資はオリックスが80年代に乗り出している事業。開発デベロッパーの体制や投資対象物件の収益性などを目利きする力があり、情報弱者になりがちな個人投資家にデベロッパーがどんな説明をしているかを踏み込んで見ています。特に、土地の仕入れから建物の仕様、駅からの距離など、物件の評価には自信を持っています。
ソニー銀行と提携
── 新型コロナウイルス禍による投資用不動産市場への影響は?
■今年4、5月は市場全体が落ち込みましたが、6月から回復し、現状(9月時点)では通年並みに回復しています。個人投資家はコロナ禍によって漠然とした将来への不安を抱いており、さらに個人投資家自身が在宅勤務によって将来のことを考える時間が増えたようで、これらが市場の急速な回復につながっていると考えています。
東京オリンピックに向けて業務のデジタル化を進めていたのも奏功しました。ローン契約はまだ紙で締結していますが、来年5月には契約を含めて完全デジタル化する予定です。
── 新社長としてどんな点に力を入れていきますか。
■80年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、プロジェクトファイナンス(事業収入を返済原資とする融資)のほか、アジアや米国でエネルギーやインフラ向けのファイナンスを長く手掛け、事業者の側に立ったアドバイザーも多く経験しました。貸す側と借りる側双方の視点からオリックス銀行のビジネスモデルを変えていきたいですね。
オリックス銀行の総資産は2.6兆円と、今後も拡大させる余地があります。とはいえ、ただ倍増させるのではなく、保有資産や新たに開発した案件を証券化して投資家に販売したり、個人向け信託商品の開発も進めたりするほか、再生可能エネルギーやインフラの証券化も広げたいと考えています。
今年8月にはソニー銀行とも提携しました。住宅ローンに強いソニー銀行と、投資用不動産に強い当社それぞれの特徴を生かしながら、遺言代用信託(遺言と同様の機能も持たせた財産の信託)の代理店ビジネスを相互に行うことも考えています。
── 菅義偉新首相が地銀再編の方針を打ち出しています。
■同業のM&A(合併・買収)は考えていません。地域の金融機関は我々の運用商品を買ってもらう関係なので、相手のニーズを聞きながら、ニーズに応じた商品を販売していきます。また、大型の不動産開発でもPFI(民間によるインフラ開発)でも、資金調達がその地域で完結するよう、クラウドファンディング(ネットを介した資金調達)の活用などを考えていきたいですね。
■人物略歴
にしごり・ゆういち
1957年生まれ、80年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、2003年オリックス入社、事業投資本部長、環境エネルギー本部長、取締役専務執行役、環境エネルギー本部統括役員などを経て20年6月から現職。