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法務・税務エコノミストリポート

「日本企業はEU法違反の筆頭」ヤマハやローランドなど日本企業の摘発が欧州であいついでいる理由と背景

摘発対象の楽器でバンドが組める?(Bloomberg)
摘発対象の楽器でバンドが組める?(Bloomberg)

「我々は、貴社が再販売価格維持を行い、競争法(独占禁止法)に違反したと疑うに足りる十分な証拠がある。我々からの警告を真剣に受け止めなさい」

これは、日本の公正取引委員会に相当する英国の競争・市場庁(CMA)が今年6月、楽器業界に関係する会社宛てに出した公開書簡からの抜粋である。

CMAがこうした書簡をウェブサイトに掲載したのは、英国でここ数年、楽器業界での再販価格維持行為の摘発が続いているためだ。

摘発対象には、日本の大手楽器メーカーも含まれている(表1)。

CMAは過去に同様の警告を出し、無視した事業者には制裁金を25%増額したという事例もある。

日本でも規制されている再販価格維持行為とは、メーカーなどのサプライヤーが小売店などの再販業者に製品の最低販売価格などを指定し、再販業者が自由に販売価格を設定することを制限する行為である。

消費者にとっては、小売店などが自由に割引価格を設定できなくなると、より安い価格で製品を購入できなくなる。

そのため、英国では、競合事業者同士が手を組んで価格を調整する「カルテル」と同様、競争法の重大な違反と考えられている。

ただし、サプライヤーが小売店などに対して再販価格をレコメンド(推奨)することは認められている。

もっとも、推奨を超えて、それが実質的に再販価格を固定したと認められるような場合には違法とされる。

サプライヤーが推奨したに過ぎないと考えていたとしても、推奨価格を順守する小売店に経済的なインセンティブを与えたり、逆に順守しないと製品の供給を遅延・停止したりするような制裁行為があれば、実質的に再販価格の固定とみなされるので注意が必要だ。

監視ソフトで割引阻止

割引価格で販売されることによる自社製品の値崩れを防ぐため、サプライヤーが小売店などに小売価格を指定するといったことは昔から行われてきた。

しかし、ネットでの販売活動が増えてきた最近では、サプライヤーは、自社製品や競合製品がネット上でいくらで販売されているかを調べるため、価格監視ソフトウエアを利用していると聞く。

CMAが摘発した事案では、サプライヤーは、価格設定方針に違反してネット上で割引価格で販売していた小売店を特定するため、価格監視ソフトウエアを利用していた。

こうした状況に対応しようと、CMAも自前の価格監視ソフトウエアを開発し、市場におけるイレギュラーな価格設定活動が行われていないかを監視していると公表している。

今後は、楽器業界だけでなく、他の業界にも利用することを明言しており、幅広い業界で注意が必要である。

なお、価格監視ソフトウエアを利用して市場調査をすることが問題とされているのではなく、それにより得られた情報を企業がどのように利用していたかが問題とされている。

現時点でCMAが摘発した楽器の種類だけでも、すでにバンドぐらいは組める状況である。

同じ業界内であれば、異なる製品であっても同じような態様で販売されていることが多く、CMAは、まだ摘発していない楽器についても調査を開始する可能性がある。

今後、オーケストラを作れるような状況になるかもしれない。

英競争・市場庁が出した公開書簡では、日本の大手楽器メーカーの実例にも言及
英競争・市場庁が出した公開書簡では、日本の大手楽器メーカーの実例にも言及

制裁金2500億円

日本企業の摘発は英国にとどまらず、欧州全体で続発してきた。

英調査会社PaRRによると、日本企業は2003年から16年までの13年間で、欧州連合(EU)当局からEU競争法違反で、総額約20億ユーロ(約2500億円)もの支払いを命じられている。

これは、競合事業者とEU競争法に違反する合意をした場合、いわゆるカルテルだけに関する数字である。

ここ数年、日本の企業はカルテルに限らず、取引先である販売店などとの関係でもEU競争法に違反する合意をしたとして、EU当局から制裁金を科された事案も目立つ(表2)。

ネット販売が活発になることに伴い、特に販売店など再販業者の再販価格を維持したり、販売地域を制限したりするような合意や慣行が問題とされている。

EU競争法は、カルテル行為や、販売店などの再販事業者に対する再販価格を維持する行為などを禁止している。

EU競争法は、欧州機能条約という「条約」の中で規定されている。

数年前に日本で話題になった欧州の個人情報保護法である、General Data Protection Regulation(GDPR)は「規則」であるため、EUでの法規範の格としては競争法の方が上位である。

市場における競争を確保することを目的とする競争法がEUではいかに重要視されているかが分かる。

そのため、EU競争法に違反した場合の制裁も厳しい。

GDPRに違反した場合、制裁金は全世界売上高の4%が上限とされているのに対し、EU競争法に違反した場合、グループ全体の全世界売上高の10%を上限とする制裁金が科される可能性がある。

EU競争法を所管する欧州委員会(Bloomberg)
EU競争法を所管する欧州委員会(Bloomberg)

カルテル違反の筆頭

先の調査会社PaRRによれば、03年から16年までの間、カルテル違反によりEUレベルで科された全ての制裁金のうち9・9%が日本の企業に対するもので、米国、韓国、台湾の企業を抑えてトップになっている。

いわば日本の企業は、EU競争法違反のリピーターなのである。

ここ数年、グーグルやアマゾンといった米国のIT企業も、EU競争法違反で欧州委員会から多額の制裁金を科されているので、特に日本の企業がターゲットとされているとは思わないが、海外で事業展開をする日本の企業は、これまで何度も海外で競争法違反により摘発されている。

特にEUでは、10年ごろから自動車部品カルテルに関連して数多くの日本の自動車部品メーカーが競争法違反でEU当局により摘発されている。

カルテルの対象とされた自動車部品だけで自動車が一台完成できるのではないか、と冗談を言っていた欧州の弁護士もいる。

EU競争法は、欧州レベルでは欧州委員会というEUの行政機関が執行している。加えてEUでは、EUレベルでの競争法のほかに、各加盟国でほぼ同様の内容の競争法が国内法として制定されている。

先述の英国では1998年英国競争法(Competition Act 1998)という法律があり、執行しているのがCMAというわけだ。

コロナ禍の影響で今後、ネットで物を売る機会が増えてくることが予想される。

企業にとっては、ネットでの販売活動を増やすと同時に、競争法に違反しないで自社の製品がネット上で適正な価格で販売されるようにできるかが大きな課題になってくるだろう。

(工藤明弘・TMI総合法律事務所ロンドンオフィス弁護士)

(本誌初出 法律 巨額の制裁金 日本企業が欧州で“独禁法”違反 楽器メーカーなど摘発相次ぐ=工藤明弘 20201103)

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