東京オリンピックの2・5倍!バカにしている人が知らない大阪万博の驚くべき経済効果の真実
新型コロナウイルスによって大阪・関西経済も大きなマイナス影響を受けている。
しかし大阪を中心に大型開発が続き、スタートアップ・エコシステム(優れた新規事業を次々を生み出す取り組み)のグローバル拠点にも選定され、2025年日本国際博覧会(25年大阪・関西万博)が開催予定だ。
そのため、過度な悲観は禁物である。
一方で課題もある。
それは25年万博を一過性のお祭りに終わらせるのではなく、その先も見据えた成長戦略の一環と捉えて取り組むことだ。
強烈な成功体験
大阪・関西経済はインバウンドが成長の柱になっていたので、入国規制による外国人観光客の消滅が厳しいのは事実だ。
しかし大阪・関西の人々に会うと、困難な現状を嘆きつつも、意外と前向きなことに気づく。
大阪・関西にとって強烈な成功体験である万博が、25年に開催されることになっており、それが大きな希望となっているからである。
そこで、25年大阪・関西万博の経済効果とその意義、万博後に大阪・関西経済を伸ばしていくにあたっての課題について意見を述べたい。
近年、大阪・関西経済では明るい話題が多かった。
大阪駅近辺の「うめきた」開発が進展したほか、日本一の高さ300メートルを誇る超高層ビル「あべのハルカス」も開業した。
大阪の一等地にありながら、空き地となっていた中之島の大阪大学病院跡地には、世界の最先端医療の研究拠点である未来医療国際拠点が23年度中に整備されることになっている。
これは、再生医療をベースにゲノム医療や人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)の活用等、今後の医療技術進歩に対応した最先端医療の産業化を推進することを目的としている。
今後のわが国の成長のエンジンとして期待されるスタートアップについても大阪・関西は勢いが出てきている。
今般、政府によるスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略において、大阪市・京都市・神戸市で構成される「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」がグローバル拠点都市に選定された。
わが国の成長戦略において、観光分野の重要な施策であるカジノ付きリゾート、いわゆる統合型リゾート(IR)についても大阪は有力な開業候補地となっている。IRというと巨大なカジノができるイメージがあるが、実際、カジノは全体面積の3%に過ぎず、残りは映画館、会議場、ホテルなどの施設である。
新型コロナによって開業が遅れているうえ、IR事業者も厳しい状況に置かれており、先行きは予断を許さないが、海外IR事業者は、精力的に準備を進めており、過度に悲観する必要はないだろう。
大阪府と大阪市は、IRを25年大阪・関西万博と同様に、大阪の都心部に近い夢洲(ゆめしま)という島に誘致を目指している。
ここは大阪オリンピックの選手村となる予定であったが、大会の誘致に失敗し、現在は寂しい場所となっている。
大阪・関西の地盤沈下の象徴となっていたが、ここがIRとして開発されれば、空き地がリゾート地に変貌するため、関西経済に大きなインパクトを与えよう。
こうした勢いを映じて、さまざまな都市ランキングで大阪は世界で上位を占めている。
例えば、米国の大手旅行雑誌『コンデ・ナスト・トラベラー』が、毎年秋に発表する読者投票ランキングでは、19年度は「世界で最も魅力的な大都市ランキング」で、1位に東京、2位に京都、5位に大阪が入った。
最新版では大阪がトップテンから漏れてしまったが、京都がついに1位になった。
英『エコノミスト』誌の世界で最も住みやすい都市ランキング2019では大阪が第4位(東京は7位)、同誌の世界の都市安全性ランキングでは東京が1位で大阪は3位だ。
さらに、米国総合不動産サービスのJLL(ジョーンズラングラサール)が、19年4月に発表した「都市活力ランキング」によると、ホテルやオフィスなどの商業用不動産のカテゴリーの勢いにおいて、大阪は世界131都市中、1位にランキングされた。
経済効果1・5兆円
こうした話題だけでは新型コロナによる不透明感を払拭(ふっしょく)するのは力不足であったかもしれない。
関西人の気持ちを前向きにさせているのはやはり25年大阪・関西万博だ。
万博の経済効果のうち、建設部分を除いた主に開催期間中の経済効果は1・5兆円と政府は試算している。
日本総研では当初想定通りに開催された場合の東京オリンピック・パラリンピックの開催期間中の経済効果が約6000億円とみており、開催期間中に限ってみればであるが、万博の方が大きい。
オリンピック・パラリンピックの来場者数は約1000万人であるが、万博は約2800万人を見込んでいる。
オリンピック・パラリンピックの開催期間が約1カ月間であり、競技時間等も限定的である一方、万博は半年間毎日、朝から晩まで開催される。
堺屋太一氏は万博を「地上最大のイベント」と喝破(かっぱ)したが、あながち誇張ではない。
25年大阪・関西万博は5年後に開催される。
つまり、ポストコロナの世界がある程度見えてきたときの万博である。
まさにポストコロナの社会とはどのようなものであるかを示すイベントであり、世界中から注目されるであろう。
25年大阪・関西万博は実際の来場者だけでなく、バーチャル空間でもさまざまなイベントを開催して、世界中からネットを通じて参加者を募る予定である。
ネットとリアルが融合した夢のある世界をうまく提示できれば、新たな万博像を示せるだろう。
もう一つのポイントはSDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしているということだ。
SDGsは30年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、17のゴール・169のターゲットから構成されている。
SDGsについては、関心が高まりつつあるが、まだ具体的な取り組みが十分に進展しているとは言えない状況である。
25年はSDGsの目標達成期限の5年前であり、万博の準備を通じてSDGs達成に近づいていくことに加えて、大阪・関西がSDGs先進地域となっていくことが重要だ。
「ミニ東京」から脱却を
25年までに万博開催を間に合わせるというのが大阪の最優先の課題ではあるが、もう一つの重要な課題は、それと並行しながら25年以降の成長ストーリーを作ることである。
この二つはリンクして考えるべきものである。
好事例はバンクーバー(カナダ)であろう。
バンクーバーは港湾都市・物流拠点として発展してきたが、それでは成長が早晩止まると考え、コンベンション都市・情報都市に生まれ変わるという長期ビジョンを作成した。
その総仕上げとして万博を開催することで、万博を都市の構造改革に上手に活用した。
万博やオリンピックのようなイベントの際にはレガシーが話題になるが、その議論は往々にして跡地利用ばかりが取り上げられる。
しかし、レガシーをその都市の成長に生かしていくためには、バンクーバーのように長期戦略を作成し、その中で万博を位置づけていくという手法を大いに参考にすべきだろう。
都市ビジョン策定にあたっては、大阪府の「万博のインパクトを活かした大阪の将来に向けたビジョン」ワーキンググループのベンチマーク分析が参考となろう。
そこでは、
(1)重工業等からの産業構造転換などにより、都市再生に成功した都市、
(2)都市における成長産業等が大阪と類似、
(3)寛容性・多様性に富み、生活の質が高く世界から多くの人が集まる都市
という観点から、コペンハーゲン(デンマーク)、シアトル(米国)、バルセロナ(スペイン)、ピッツバーグ(米国)、マンチェスター(英国)、ポートランド(米国)をベンチマークとして議論した(図)。
これらの都市をみると、
(1)大学や研究機関が都心に存在する、
(2)スタートアップを包括的に支援する、
(3)革新的な企業の集積と、大学・ベンチャー企業などが連携したイノベーションを促進する、
(4)良質な生活環境および移住しやすい環境がある、
(5)重点となる産業を五つくらいに絞り込む、
(6)時代の変化に合わせて地場産業を変えていく
という特徴がある。
大阪・関西はこの6点を念頭に置いて成長戦略を考えていくべきである。
各都市の個性も大変参考になる。
具体的には、
コペンハーゲンは住みやすさを重視、
シアトルはハードからソフトまで地場産業のバランスの良さ、
バルセロナは五輪等の国際的なイベントを町づくりに活用、
ピッツバーグは従来の鉄鋼業から医療産業へ産業構造をうまく転換、
マンチェスターはICTを活用した町づくり、
ポートランドは「住みたい町 全米ナンバーワン」を実現した職住近接
などであり、これらのコンセプトは今後の大阪・関西の町づくりに活用できる。
万博を一過性のお祭りに終わらせないためにも、これらの事例を参考にして、しっかりとした長期ビジョンを作り、着実に実行していくことが求められる。
わが国の都市戦略を振り返ると、多くの地方都市は東京を目指すあまり、「ミニ東京」となってしまう傾向があった。
これからは、自らの強みをよく考えて、東京とは異なる個性を持つ都市であることを前面に打ち出していくことが求められている。
大阪・関西もその方向で長期の成長戦略を作成し、長期戦略と万博をうまく関連付けていくことが、持続的な成長に寄与していくと考えられる。
そして大阪・関西が持続的に成長していけば、東京・関西と二つの極ができることとなり、東京一極集中の是正にも寄与しよう。
(石川智久・日本総合研究所 マクロ経済研究センター所長)
(本誌初出 関西経済 2025年大阪万博 「コロナ後」未来像がカギ 関西復活の起爆剤に期待=石川智久 20201110)