経済・企業

FRBの緩和政策が今後も支える米株価  バイデンの左傾化懸念よりワクチンで爆騰

図 FRBの資産拡大と軌を一にする米株のバリュエーション(企業価値の評価)=FRBの総資産とS&P500の予想PER(株価収益率)
図 FRBの資産拡大と軌を一にする米株のバリュエーション(企業価値の評価)=FRBの総資産とS&P500の予想PER(株価収益率)

 11月9日の米市場でダウ平均は終値800ドル高、「フル・リスクオン(リスクの高い資産を増やすこと)状態」(市場参加者)となった。

ダウ最高値3つの要因

 好感された材料は3つある。

(1)バイデン陣営の暫定勝利で、選挙に伴う不透明感が後退したこと。

(2)上院では共和党、下院では民主党が多数党になることが予想され、ねじれ議会によって政策の左傾化が限定されるという予想。

(3)大手製薬会社ファイザーがコロナ・ウィルスのワクチンの治験で、90%を超える有効性が得られたと発表したこと--。このうち、もっともインパクトがあったのはワクチンのニュースだったようだ。

在宅銘柄が売られ、景気循環銘柄が買われた

 株式市場の「在宅勤務取引(Work From Home Trade)」で恩恵を受けてきたウェブ会議サービス、動画配信サービス、消毒剤メーカー、料理器具メーカー、家庭内事務機メーカーなどが売られ、反対に景気回復を見込み、航空会社やクルーズ船銘柄などの景気循環銘柄が買われたようだ。「無難なものを売って、景気循環銘柄やコロナショックで暴落したディープバリュー銘柄(“超”割安銘柄)が買われるだろう」(市場参加者)との声もあった。

 選挙直後のワクチン発表で「トランプは激怒しているのではないか」という冗談も聞かれた。ワクチン期待が高まったことで、米議会で議論されてきた追加コロナ・ショック対策「フェーズ4」への期待は低下するだろう。

ブルーウェーブの可能性はまだあり

 市場はねじれ議会を予想しているようだが、上院議会選挙の結果は非改選を含む100議席中、現在民主党48vs共和党50になる見通し。

 ジョージア州で勝者が決まらなかったため、残り2議席の結果は1月5日のジョージア州決選投票まで不明。黒人牧師(民主党)vs超保守派ビジネスウーマン(共和党)と、若手メディア幹部(民主党)vs元大企業CEO(最高経営責任者)のベテラン上院議員(共和党)と、ジョージア州の候補は対照的。

 保守色の強いジョージア州で2議席とも民主党が獲得することは難しいとされているが、もし獲得すれば、民50vs共50のタイとなり、上院議長を兼ねるハリス副大統領の1票で民主党が多数党になる。つまり、大統領、上院、下院ともに民主党が制する、「ブルーウェイブ」の可能性はまだ消えていない。

市場は中道回帰を織り込んだ

 だが、市場は「最もプログレッシブ(左派的)な政権を目指す」と宣言してきた、中道のバイデン氏の左傾化(ニューセンター、新・中道)は実は限定的で、「中道」回帰を概ね織り込んだようだ。

 よって選挙結果よりも、ワクチンへの期待が今後大きなドライバーになりそうだ。そして米連邦準備制度理事会(FRB)の総資産に表れる緩和的な金融政策もバリュエーションを押し上げたことで、引き続き株価を支えている模様だ(図)。

(石原哲夫:みずほ証券・USマクロ・ストラテジスト)

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