国際・政治

お祝いムードが終わると見えてくるバイデン次期大統領の危機は3つ「分断・分裂」「白人・非大卒の喘ぎ」「国際的地位の低下」

勝利演説で民衆にこたえるジョー・バイデン(中央右)次期大統領、妻ジル・バイデン(右)、副大統領のカマラ・ハリス(中央左)2020年11月7日、米デラウエア州)Bloomberg
勝利演説で民衆にこたえるジョー・バイデン(中央右)次期大統領、妻ジル・バイデン(右)、副大統領のカマラ・ハリス(中央左)2020年11月7日、米デラウエア州)Bloomberg

 米史上最高の投票率を記録し、トランプ大統領とバイデン民主党大統領候補がデッドヒートを繰り広げた2020年の大統領選挙は、11月7日にバイデン氏が選挙人20名を抱える大票田のペンシルベニア州で勝利し、大統領当選に必要な270名以上の選挙人を確保して次期大統領となった。

 バイデン次期大統領は7日夜に地元デラウェア州で全国民に向けて、「団結」をテーマにした勝利演説を行い、「分断ではなく、団結をもたらす大統領になることを誓う。全ての国民の信頼を勝ち取りたい。私の政権は、この国を市民の手に取り戻し、アメリカが再び世界で尊敬される国にする」と述べた。

 だが、バイデン次期政権には大きな難問が立ちはだかる。

(1)団結より分断、分裂が進む

 まず、トランプ大統領とバイデン次期大統領がそれぞれ、米大統領選史上で最多の票を獲得し、その差が約430万票しかなかったことで、いやしや団結ではなく、分断や分裂がさらに進行する懸念である。

 たとえば、ニュース専門局CNNの中継で、首都ワシントンのホワイトハウス付近に集まった黒人権利運動「ブラックライブズマター(BLM)」の女性リーダーが「なぜここに集まったか」と聞かれ、「今回の選挙で、白人女性の55%がトランプに票を入れた。ここにいるのは、お祝いの気持ちと同時に、トランプ大統領に投票した彼らに抗議のメッセージを送るためだ」と回答していた。これは、米国人が人種やジェンダーによって複雑に分断され、さらに相互に対する感情も悪化していることを示すものだ。

動画サイトTokTokに見える社会分断の深さ

 また、若年層に人気の短編動画共有サイトTikTokのフィードには、バイデン当確直後からバイデン支持者とトランプ支持者がアップロードした対立的な動画があふれ、社会分断の深さをうかがわせる。

 バイデン氏が勝利宣言で「われわれはみな米国人であり、敵同士ではない」と強調した。また、共和党支持者に向けて「互いに妥協しよう」と呼びかけたのは、多くの人に希望を持たせる前向きなメッセージであった。

 だが、レーガン(共和党)、ブッシュ父(共和党)、クリントン(民主党)、ブッシュ子(共和党)、オバマ(民主党)、トランプ(共和党)の歴代政権を通して拡大の一途をたどってきた経済格差が団結を極めて困難にしている。

(2)白人・非大卒労働者の 喘ぎ

 第2の難題は、16年の選挙でトランプ大統領が民主党から奪った製造業の衰えた中西部諸州(ラストベルト)の労働者層を中心とする「白人・非大卒」の一部をバイデン次期大統領が奪い返したものの、新型コロナウイルス流行による都市封鎖(ロックダウン)がもたらした失業や給与減に苦しむ労働者たちの生活を救済できるかという問題だ。

12月末で切れる立ち退き執行猶予

 トランプ政権が打ち出した、住宅ローンや家賃が支払えない世帯の強制立ち退き執行猶予期限が切れる12月末には、コロナ感染が増える寒空の下で路頭に迷う家族が急増すると予想されている。

 対策は待ったなしだが、上院が共和党、下院が民主党の「ねじれ議会」となった場合、追加景気対策で合意を困難にし、経済再開を受けて回復し始めた各種経済活動の腰を折る恐れがある。

 コロナ対策を最優先課題とする民主党新政権は、秋口からの爆発的なコロナ再流行を受けて、フランス、ドイツ、英国などにならって再ロックダウンを各州当局と推進する可能性がある。だがそれにより、欧州諸国で高まる反政府運動のようなものがトランプ支持者によって組織され、一般労働者などを巻き込んで発展する事態につながるかも知れない。

(3)内政混乱と国際的地位の低下

 最後は、米国の内政が乱れることにより、同国の権威や影響力が国際社会の中で決定的に低下することである。

 バイデン氏は、「再び米国を世界中から尊敬される国にする」と約束したが、トランプ政権の「自国第一」やナショナリズムは米国社会に浸透しただけでなく、世界を覆っている。

 現状では、米国主導の秩序に反対する者も、そうでない者も、まるで「慣性」のように米国型の秩序に従い行動しており、それは簡単に崩壊することはないと思われる。

 しかし、米国内が真っ二つに割れ、国論が統一できない状況が長引けば、どれほどバイデン次期大統領が国際協調や多国間主義に基づく外交を追求しようとも、米国は不安定で指導力が削がれていると、地政学的に台頭する国々から見られる可能性がある。それは、回りまわって日本や東アジアなどにも少なからぬ影響を与えよう。

 バイデン次期政権の「いやしと団結」のメッセージを可能にするのは、経済回復を通した経済格差の縮小だが、すでに分裂した社会と、コロナ禍で大きなダメージを被った米経済、それに追い討ちをかけるように拡大するコロナ感染など、前途は極めて多難だ。お祝いムードが終わった後の、バイデン次期大統領の手腕が問われている。(岩田太郎・在米ジャーナリスト)

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