経済・企業

失業保険の受給者「わずか3割」の衝撃……「自助」をかかげる日本で非正規雇用者に厳しい雇用制度がまかり通る理由

失業者の救済は?(ハローワーク)
失業者の救済は?(ハローワーク)

新型コロナウイルス感染拡大による雇用への影響が長期化しつつある中、雇用調整助成金の特例措置を延長するかどうかが議論されている。

雇用調整助成金(以下、雇調金)とは、不景気などによって売り上げが減少した際に、従業員を解雇せずに、休業や教育訓練・出向といった形で雇用を維持した企業に対して、休業手当を助成する制度である。

今回は「新型コロナ特例」として、助成率や上限額の引き上げが行われ、アルバイトなどの非正規雇用を維持した場合にも同様の助成がなされている。

更に、休業させられたにもかかわらず休業手当が支払われていない労働者に対して給付を行う休業支援金・給付金も、雇調金を補う形で導入されている。

申請手続きが煩雑過ぎて利用しづらいといった批判も含めて、働く者のセーフティーネットとして、雇調金がこれほど注目を集めたことも近年なかったのではないか。

しかし、働いている者が仕事を失うリスクに直接的に対応するセーフティーネットとして、本来、まず挙げられるべきは、雇用保険の失業給付だろう。

失業給付は、雇われていた労働者が失業した際に、次の職を見付けるまでの間、所得保障を本人に対して行うものである。

雇調金が失業の予防を目的としたセーフティーネットだとすれば、失業給付は、実際に失業した際の事後的なセーフティーネットであると整理することもできる。

本稿では、両者の性格の違いを念頭に置きながら、労働市場におけるセーフティーネットのあり方について考えてみたい。

「一定期就労」満たさず

そもそも、どれくらいの失業者が失業給付を受給できているのだろうか。

実は、失業者のうち、失業手当を受給している者は3割以下である。

失業者の5割以上が受給していた1980年代から、一貫して低下し続けてきたというのが実態である(図)。

それでは、なぜ失業者は失業給付を受給していないのか。

以前は受給していたが、失業が長引いた結果、給付期間が終了してしまっている者がいることは事実である。

しかし、それだけでなく、受給の要件を満たせない者の存在も大きい。

では、受給資格を満たせない者とはどのような者だろうか。

失業給付は、一定の期間(倒産・解雇によって失業した場合、6カ月)、勤続して雇用保険料を支払った者が離職した際に給付される。

しかし、就業が断続的になりがちな非正規雇用の人びとは、「一定期間」の勤続をすることなく辞めてしまうことがしばしばであり、失業給付を受けることができない。

また、そもそも勤めたことがないままに失業している、いわゆる「学卒無業」のような人びとにも、失業給付は給付されない。

このように言うと、雇用保険制度が非正規雇用の人びとを、はなから除外してきたように思われるかもしれないが、そうではない。

実は、雇用保険は、比較的早い時期から、就労時間が短かったり、雇用契約期間が短かったりする非正規労働者についても、被保険者として取り込んできた。

非正規労働者は、雇用保険の被保険者ではあっても、それを受給することができていないのである。

逆に言えば、正規雇用のような雇用が安定した者でなければ、失業時のセーフティーネットを享受しにくいということだ。

これは、本当にセーフティーネットと言えるのだろうか。

とはいえ、筆者は、失業給付が非正規雇用の人びとに届いていないことを、今更、批判するつもりはない。

保険料の拠出、すなわち勤続の実績に基づいて給付を行う社会保険という枠組みに依拠する以上、非正規雇用に給付が届きにくくなるのは仕方がないからだ。

全額公金での救済も

雇調金には、これまで、市場から退出するはずの企業を存続させることで、産業の新陳代謝を遅らせる「副作用」が指摘されることが多かったが、以上のように見れば、今回の拡充措置には、現行のセーフティーネットの穴を塞ぐという意味があったと考えることもできる。

159万件という利用実績からしても、雇用の下支えとなっていることは間違いないだろう。

もっとも雇調金がセーフティーネットとしての役割を最後まで果たすためには、雇調金によって廃業自体が回避されることが前提となる。

企業が雇調金を受給しても、受給終了直後に倒産してしまえば、失業の発生を先延ばししているだけに過ぎず、セーフティーネットとしての意義は見直さざるを得ない。

拡充された雇調金については、今後、その効果や副作用についてしっかりとした検証が必要だろう。

ところで、失業給付からの「漏れ」を防ぐものとしては、2011年に開始された「求職者支援制度」もある。

これは、雇用保険の加入期間が足りずに失業給付を受給できない者や学卒未就業者といった、文字通りこれまで雇用保険から漏れ落ちてきた人たちを対象として職業訓練を行うものであり、収入や資産などの点で一定の要件を満たす場合には、訓練期間中の所得保障も行うものである。

この求職者支援制度は、「第一のセーフティーネット」である生活保護と社会保険の中間的な仕組みとして、「第二のセーフティーネット」と呼ばれるものの一つとされる。

結局のところ、社会保険から漏れ落ちた人たちを救うには、保険料の拠出を条件としない給付を行うしかなく、その意味で、「第二のセーフティーネット」というコンセプトは、今後も必ず重要になってくる。

ただし、保険料に依存しないのだから、なんらかの公的支出に頼らざるを得ず、財源の問題は新たな悩みの種だ。

現行の求職者支援制度についても、「第二のセーフティーネット」の名に恥じない役割を果たしてるかどうかは、議論が必要だろう。

もちろん、中長期的に産業構造の転換を促すという点で教育訓練が重要であることは言うまでもなく、求職者支援制度は雇調金よりも副作用が少ないと言えそうだ。

だが、現下のように、圧倒的に労働需要が減少している状況においては、教育訓練を受けても、すぐに就職できることはまれであり、セーフティーネットとしては即効性に欠ける。

とはいえ、これは求職者支援制度の問題というよりは、職業訓練そのものに内在する課題かもしれない。

はたして、職業訓練はどのようなリスクに対処するものなのだろうか。

これについては、稿を改めて議論できる機会があればよいと思う。

(酒井正・法政大学教授)

(本誌初出 失業給付の受給者、わずか3割 非正規に冷たい「安全網」=酒井正 20201110)

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