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移民解禁から1年……コロナで仕事がなくなり困窮する外国人労働者 切羽詰まった彼らに突きつけられる「生活保護は3割」の壁
外国人労働者の生活が困窮している。自治体やNPO(非営利)法人などの相談窓口には、生計が立たなくなった外国人労働者から数多くの相談が寄せられている。景気拡大のもと、外国人労働者への需要は拡大を続けてきたが、コロナ危機で一変した。
永住者や定住者以外の外国人労働者は、在留資格によって就労可能な業務が限られている。そのため一度仕事を失うと、すぐに新たな仕事に就くことは難しく、収入源を確保できない。日本での就労を諦めて帰国しようにも、海外との往来はコロナ危機で制限されたまま。
さらに来日時に就労先のあっせんのために支払った手数料が借金として残り、身動きが取れなくなるケースも多い。2008年のリーマン・ショック時には、職を失った外国人労働者を母国へと送り返す政策が実施されたこともあり、今後の日本政府の対応に恐々としている。
国内の雇用は少子高齢化と人口減少を背景に、外国人労働者への需要はコロナ前まで拡大を続けていた。厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、19年10月末時点の外国人労働者数は約166万人(対前年比13・6%増)と過去最高を更新している。国籍別には、中国出身の労働者が約42万人(構成比25・2%)と最多であり、次に多いのが約40万人(同24・2%)のベトナム出身の労働者だ。
大半は就労資格なし
近年、増加の著しいベトナム出身の労働者は、その8割以上が技能実習または資格外活動の在留資格で就労しており、高度な専門知識や技術を必要としない「単純労働」に従事している。これまで日本は、外国人の単純労働分野での就労を認めない方針を取ってきたが、実際には就労資格ではない「身分に基づく在留資格」「技能実習」「資格外活動」で多くの労働者を受け入れてきた。
就労を目的とする「専門的・技術的分野の在留資格」や「特定活動」で就労しているのは、外国人労働者全体の2割ほどに過ぎない(図1)。このような制度と実態が乖離(かいり)した状態を是正するため、政府は18年12月に出入国管理法を改正。新たな在留資格の「特定技能」を創設し、5年間で最大34万5000人を受け入れる計画だ。
その結果、すでに外国人労働者は、国内産業にとって必要不可欠な存在となっている。就業者全体に占める外国人労働者の割合は2%弱に過ぎないが、特定の産業では、相当数を外国人労働者に依存するケースも見られる。
直近10年間では特に、卸売業・小売業、サービス業、製造業に外国人労働者が大幅に流入している(図2)。外国人が占める割合は、ビルメンテナンスや自動車整備業などに従事する「サービス業(他に分類されないもの)」5・9%や「宿泊業・飲食サービス業」4・9%など、人手不足が深刻な業界で高くなっている。
また、中小零細企業は人手不足を外国人労働者で補っているケースが多い。30人未満の小規模事業所で働く外国人労働者の割合は35・4%と、雇用者全体の25・6%よりもはるかに高い。
政府は生活に困窮する外国人労働者を支援するため、さまざまな支援政策を打ち出している。
例えば、実習継続が困難となった技能実習生などに対しては、特別措置として異業種への転職を認め、最大1年間「特定活動」の在留資格を与える措置を講じている。
また、1人当たり一律10万円を支給する「特別定額給付金」は、留学生を含む外国人労働者も支給の対象であり、雇用維持に努める事業者に支給される「雇用調整助成金」も、外国人労働者が適用対象に含まれている。
生活保護に制限
一方で、制度を利用するにはさまざまな条件が課されている。例えば、住民税非課税世帯の学生には20万円を、それ以外の学生には10万円を支給する「学生支援緊急給付金」制度では、留学生などへの適用には「前年度の成績評価係数が2・30以上」「1カ月の出席率が8割以上」といった要件が追加されている。
生活資金の貸し付けを行う「緊急小口資金等の特例貸付」は、貸付上限額を20万円と2倍に引き上げたうえで、その対象を低所得世帯から感染拡大の影響で減収となった世帯まで広げているが、同制度を運営する都道府県社会福祉協議会によっては「在留中に返済できること」「永住者や定住者」に限定するなど、条件が付されている地域もある。
最後の砦(とりで)となる「生活保護」についても、外国籍で対象となるのは永住者、定住者、日本人の配偶者など、特別永住者、難民認定を受けた者等に限定され、在留期間に制限のある留学生や技能実習生などは対象外となっている。適用対象となり得る外国人労働者は19年時点で3割程度にとどまる。
コロナ禍における生活困窮者への支援は、何よりもスピード感が求められる。
支援策の周知徹底を図り、申請手続きを簡素化し、多言語対応の相談窓口を設置するなどの取り組みを進めなければならない。外国人労働者はSNS(交流サイト)を通じた結びつきが強いことから、個人間のネットワークに働きかけることも効果的だ。
また、自治体の業務はコロナ対応で逼迫(ひっぱく)しているため、自治体単独での支援には限界がある。NPO法人や国際交流協会など、外部組織との連携を強化していくことも必要だ。
そもそも現時点では、雇用実態を把握できる速報性のある情報がない。そのため効果的な対応策が取れなくなっており、まずは外国人労働者の実態を把握するための統計整備から進めていかねばならない。
外国人労働者の雇用が、国内労働者と同水準に引き上げられるまでの道のりは険しい。
(鈴木智也・ニッセイ基礎研究所研究員)
(本誌初出 困窮する外国人労働者 置き去りにされるコロナ対策=鈴木智也 20200922)