経済・企業エコノミストリポート

1時間で103万人が視聴し、ものの5分で数千万円を売り上げる……コロナ禍の中国で市場規模15兆円へ急拡大中のライブコマースとは一体何なのか

    「ライブコマースの女王」と称される薇婭氏
    「ライブコマースの女王」と称される薇婭氏

    “1時間で24億円分”効果も

     中国では、商品説明をインターネットでライブ配信し、視聴者と配信者がやり取りをしながら購入できる「ライブコマース」が伸びている。特に、新型コロナウイルスの流行後、店舗や対面での販売が回避されがちな中であらゆる商品に広がり、影響力の大きい「インフルエンサー」も出現している。

    15兆円超の市場へ

     ライブコマースは2016年ごろから始まり、その市場規模は爆発的に拡大している(図1)。中国の調査会社「iiMedia Reserch」によると、19年の市場規模は約4500億元(約7兆円)で、前年の約3倍に成長。電子商取引(EC)全体の4・5%を占めている。20年は新型コロナによる巣ごもり消費も加わり、その規模はさらに倍以上に膨らみ、1兆元(約15兆円)を超えると推計されている。ユーザー数も年々増え、20年3月時点で5・6億人に達している。

    市場拡大の背景には、中国語で「網紅(ワンホン)(=ネット上の著名人)」と呼ばれるインフルエンサーの存在が大きい。男性なら「口紅王子」と呼ばれる李佳琦(オースティン)氏、女性なら「ライブコマースの女王」こと薇婭(ウェイヤー)氏が有名だ。例えば、李氏は化粧品販売員で、男性でありながら自身で口紅をつけ、使用感や発色などをライブ配信したことで注目を集めた。「买它!买它!买它!」(「买」は日本語で「買う」、「它」は「それ」の意味)、「OMG」(「Oh My God」の略)などの決まり文句を連呼し、一つの商品をわずか5分ほどで数千万円分売り上げる。その影響力から、今や取り扱う商品は口紅にとどまらず、多くの商品に広がっている。

    1時間で103万人

     勃興するライブコマースの活用は、中国の保険業界でも始まっている。コロナ以前は、生命保険の保険料収入のおよそ半分はエージェント(保険代理人)、つまり“人”を介していた(図2)。しかし、コロナ後は対面での販売や手続きが難しくなり、当局からの規制もあって、オンライン化が加速。中でも、ライブコマースはスマホがあればすぐ始められ、経費がさほどかからないこともあり、コロナの影響が深刻化し始めた今年初めごろから、中小の保険会社やブローカー、代理店を中心に活用が広がり始めた。保険の基礎知識や商品説明などをライブ配信するのが主流だ。

     中小での活用が進む中、民間最大手の中国平安保険も5月、ライブコマースに本格参入した。例えば、5月9日~6月2日までは「518我要保」キャンペーンとして、自社の保険販売サイト「平安保険商城」で若者向けのライブ配信を実施。ちなみに、中国語の発音で「5・1・8」は「wu・yao・ba」で「我要保」(保険が必要)の発音「wo・yao・bao」と近い。国有生保で業界最大手の中国人寿も「518」でキャンペーンを展開しており、アリババ・グループが毎年11月11日を「独身の日」として仕掛ける大規模ネットセールを意識している可能性が高い。

     平安保険のキャンペーンでは、5月16日まではディズニーランドの入場券や口紅など景品があたる抽選やゲームなど参加型イベント、5月17日以降は保険料を従来の価格からディスカウントした保険商品の受け付けもしている。18日には、800万元の高額保障が得られる傷害保険(保険期間は1年間)についてそれまでの保険料44元(保険料が最も安いケース)を22元と半額にするとした。タイムセール形式で募集し、ライブ配信やチャットでのやり取りも公開しながら専用電話を通じた問い合わせ、申し込み説明を行っている。専用電話での受け答えについても、その時々でやり取りをライブ配信で流している。

    その場で質問やコメントができる
    その場で質問やコメントができる

     また、5月27日には別途、平安保険が提供する金融資産アプリ「平安金管家」で保険分野のトップが出演、保険の役割や商品についてライブ配信で実況した。同社によると、わずか1時間でおよそ103万人が視聴し、その効果はその後3カ月の間に今回の配信で獲得した顧客からおよそ1・6億元(約24億円)の保険料収入がもたらされると推計している。

     傘下の生命保険会社である中国平安人寿は4月、自社が抱える120万人のエージェントから優秀な100人を競わせ、インフルエンサーの養成を目指す「平安星(スター)学院」を開設した。コロナで対面販売が規制される中で、これまで時間をかけて育成した人材をどう活用するかは保険会社にとって大きな問題でもある。特に、保険料収入の8割をエージェントが占める平安生命保険にとっては、このような状況をチャンスに変えて、顧客との新たなタッチポイント(接点)の開拓に乗りだしたと言える。

    当局はピリピリ

     ただし、行き過ぎた宣伝や勧誘など問題も出てきており、監督当局は警戒感を強めている。多くの保険会社の本部が集まる北京市当局は6月に通知を発出。ライブコマースを通じた保険販売の問題点として、保険商品の販売停止や時間を制限した販売で加入を迫ったり、利回りを過大表示したり、そのほかの金融商品との混同を招く宣伝をしたりすることを挙げ、不適切な販売にくぎを刺した。

    中国平安保険が若者向けキャンペ―ンで行ったライブ配信
    中国平安保険が若者向けキャンペ―ンで行ったライブ配信

     当局は、保険会社がライブコマースを外部の業者に委託したとしても、その内容について責任を負うべきとするなど、盛り上がりを抑制する動きに出ている。保険は化粧品のように、ライブで目に見える商品ではなく、その場で効果を確認できない。その分、配信者側にも視聴する側にもより慎重な販売倫理や判断が必要となる。多くの問題はありながらも、ピンチをチャンスに変えようとする積極的な姿勢は、ウィズコロナの新しい販売のあり方を模索する各国の生保業界にも参考となろう。

     日本では、このような保険商品にまつわるライブ配信は可能なのだろうか。コロナで非対面式の新しい販売手法を模索しているのは、日本も中国も同じだろう。日本では、保険を販売する職員は、保険への加入意向を説明の前後に確認する「意向確認」、契約概要など情報を提供する「説明義務」、約款を渡す、本人確認をするなどの一連の義務がある。これらについてはオンラインでの手続きや郵送など非対面方式で対応できる。つまり、中国と同様に、ライブ配信で保険の重要性など宣伝をしつつ、加入にかかる手続きはオンラインや郵送で行うことは可能と言えよう。

     ただし、ライブ配信となると、保険加入への勧誘なのか宣伝広告なのかといった線引きはより難しくなってくる。中国と同様のライブ配信をする場合は、保険の販売資格をもつ職員が行うなど保険会社としての責任の所在を明確にするなど、ルール作りも必要となってくるであろう。

    (片山ゆき・ニッセイ基礎研究所准主任研究員)

    (本誌初出 中国で伸びる「ライブコマース」って? ネットの商品実況で保険も販売=片山ゆき 20200922)

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