投資・運用まだまだ上がる金&貴金属

中国の富裕層はなぜパテック・フィリップよりロレックスを買うのか 金投資とリスクヘッジの基本

    富裕層の資産を守る意識が金購入に向かわせる(香港の貴金属店)
    富裕層の資産を守る意識が金購入に向かわせる(香港の貴金属店)

     金価格の上昇が続いている。1トロイオンス=2000ドルを突破した後、値動きに一服感は見られるものの、今後も堅調に推移すると予想する市場関係者は多い。急激な価格上昇で一般投資家も金への関心を高めているが、金は昔から富裕層にとって重要な投資対象であった。富裕層はなぜ金をポートフォリオ(資産構成)に組み入れるのか、その理由について考察する。

     金というのは特殊な商品で、保有しているだけでは利益を生まない。一般的な株式や債券は配当や利子というインカムゲイン(資産保有で得られる収益)が得られるので、インカムゲインをベースに適正な商品価値を算出できる。ところが金にはそうしたメカニズムは働いておらず、価値の根拠は非常に曖昧だ。あえて言えば、皆が価値があると思っていることが価値の源泉と言ってよいだろう。

    リスクヘッジに最適

     しかも金は利益を生まないどころか、保有に伴うコストもかかる。自宅で保管する場合には金庫やセキュリティーサービスなどが必要になるし、事業者に委託すれば保管料を徴収されるので、持っているだけでコストが発生する。

     では、富裕層はこうした根拠が不明瞭でコストがかかる資産を、なぜ積極的に保有しようとするのだろうか。その理由は、主力のポートフォリオを構成する株式や債券のリスクヘッジ手段として金が最適だからである。

     金の値動きを長期的に分析すると、価格を決める要因はほぼ一つに絞ることができる。それは貨幣の価値である。つまり、貨幣の価値が下落する(インフレが進む)と金の価格は上昇し、貨幣の価値が増大する(デフレが進む)と金価格は下落する。もっと具体的に言えば、金価格というのは世界の基軸通貨であるドルと正反対の値動きをすると考えればよい。

     金価格が貨幣価値と正反対の関係にあり、インフレ懸念によって価格が上昇するのだとすると、今回の価格上昇は何が背景だろうか。考えられるのは新型コロナウイルス対策による財政の悪化である。各国はコロナ危機に対応するため、国債を大増発して財政支出を強化している。マクロ経済の常識として、政府債務の増大は金利と物価の上昇リスクを高めるので、一部の投資家は今後のインフレを懸念している。オイルショックなど過去の危機とは状況が異なるものの、不景気下のインフレに対応するため、金を買い増している可能性が高い。

     富裕層とそうでない人の意識を比較すると、大きな違いを観察できる。現状、日本の経済状況についてほとんどの人がデフレであると認識しており、インフレなどあり得ないと断言する人も多い。財政についても同様で、日本の財政はまったく問題ないとの声高な意見もよく耳にするようになった。

    一般人と違う危機意識

     ところが、富裕層はまったく正反対の考え方を持っている。少なくとも筆者の実感では、富裕層の8~9割がデフレではなくインフレを心配しており、日本の財政についてもリスクが高いと認識している。つまり富裕層は一般の個人投資家と比較して危機意識が相当に高いのだ。

     一代で資産を築いた富裕層の場合、事業や投資で成功したというケースがほとんどであり、当然のことながらリスクに対する感覚は一般人とは大きく異なっている。親から資産を引き継いだ場合でも、資産を守る教育を子どもの頃から施されていることが多く、市場に対する感覚は一般人とは異なる。多くの人が見ようとしないリスクに目を向けてきたからこそ成功を勝ち取ったとも言えるだろうし、そうした価値観は投資にも存分に反映されている。

     資産額が一定水準を超えると、資産の増大ではなく資産の維持に関心が向くということも影響しているだろう。10億円の金融資産があれば、年2%の利回りでも年間2000万円の不労所得が得られるので、贅沢(ぜいたく)をしなければ、基本的に利子や配当だけで生活できる。こうした富裕層は無理に資産を増やしたりはせず、資産価値を守ることに力点を置く。こうした人たちがもっとも懸念するのは、インフレによって資産価値が毀損(きそん)してしまうことであり、購買力を維持するため金をポートフォリオに組み入れている。

     最悪の事態まで考える富裕層なら、国家破綻など確率的には極めて低いリスクについても考慮している。経済が完全に破綻してしまうと金融機関ですらあてにできなくなる。こうした時に力を発揮するのは、金をはじめとした実物資産である。

    世界のどこでも換金できるよう、高級腕時計を買う富裕層も少なくない
    世界のどこでも換金できるよう、高級腕時計を買う富裕層も少なくない

    実は持たない「金塊」

     中国の富裕層にその傾向が特に顕著だが、彼らは資産の一部を18金を素材としたロレックスなどの高級時計として保有している。興味深いのはパテックフィリップといった「超」のつく高級時計ではないという点である。ロレックスであれば、庶民も購入するし、世界中どこに行っても換金できる。しかし、レアものの超高級時計は換金できない店も多く、非常事態にはあまり役に立たない。

     その点では金塊(インゴット)も同じである。金のインゴットを持って飛行機にはまず乗れないし、正規のお店でなければ換金はほぼ不可能である。金塊を持っていればいざという時でも安心というのは、実は妄想でしかない。経済危機をリアルに心配している富裕層は、複数の国に生活拠点を構えた上で、換金性や移動の容易性を最優先に考え、時計やアンティークコインなどの形で金を保有している。以上のような金の特殊性を考えると、実際には金そのものではなく、金のETF(上場投資信託)という形で保有しているケースが多いだろう。

     こうした金に対する富裕層の考え方や投資行動は一般の個人投資家も参考にできる。

     金はあくまで主力資産のリスクヘッジとして活用されているので、単体で投資するものではない。今、金が値上がりしているからといって金だけに投資を集中するのは避けた方がよいだろう。リスクヘッジをするにしても、まずは株式や債券といった従来型投資でしっかりとしたポートフォリオを構築することが先決である。金は持っているだけでコストがかかる商品なので、それを上回るメリットがなければ保有する意味がない。

     最も重要なのは経済に対する基本認識だろう。皆がデフレを心配している時にインフレを懸念するという着眼点こそ重要だ。大勢の意見に流されず、発生する確率が低くてもリスクをしっかりと受け止めるスタンスは、多くの人が学ぶべきだろう。

    (加谷珪一・経済評論家)

    (本誌初出 富裕層と金 高級腕時計やコインで保有 インフレ恐れ換金性も重視=加谷珪一 20200922)

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