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マーケット・金融 まだまだ上がる金&貴金属

「そもそもインゴットとは何か」「なぜパラジウムは重要なのか」経済のプロでも意外に知らない、貴金属の基礎知識

Q1 そもそも貴金属って?

 A まず、金属の一般的な定義として「常温ではほとんどが固体で、光沢があり、電気や熱を伝えやすい。また丈夫で、外部の力により引き延ばされやすい性質があり、加工成形がしやすいもの」とされている。私たちが金属と認識しているのは「鉄」、鉄以外の「非鉄金属」と呼ばれる銅やアルミニウム、ニッケル、すず、鉛、亜鉛、そして「貴金属」と呼ばれる金や銀、プラチナなどが代表的だ。

 貴金属は化学的に安定し、化合物を作りにくい特徴があるほか、希少性の高さの点で鉄や非鉄金属とは大きく異なる。金属の中で「貴金属」に分類されるのは8種類あり、元素周期表ではちょうどほぼ真ん中に位置する(表)。元素番号の44~47、その真下の76~79に8種類が並んでいる。

  このうち、一般的に知られているのは金(元素記号Au)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、そしてパラジウム(Pd)だろう。この4種類の貴金属は世界の取引所に上場しており、私たち個人投資家も取引することができる。貴金属の中でも産出量が相対的に多く、市場規模が大きいためだ。

 貴金属は他に4種類ある。プラチナやパラジウムの仲間で白金族(PGM)と呼ばれるロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)だ。ただし、上場している金などの4種類以外は、いつでも売ったり買ったりできる「市場性」のある金属ではない。生産者と産業用の需要家の間の直接取引が基本であり、個人投資家がこれらの金属を目にする機会はめったにない。

 Q2 貴金属の用途は?

 A 貴金属の中でも金と銀、そして白金族は大きく需要分野が異なる(図1)。基本的に「金」以外の貴金属は工業用であり、実際に半分以上が工業用途に使われている。金だけがまったくの例外で、工業用需要は8%に過ぎない。このため金だけが特別な貴金属であり、「投資家のための貴金属」と言える。

 金は需要の約半分が宝飾品需要で、22%が金地金などの投資用、16%が世界の中央銀行による金準備となっている。つまり、需要の9割がそのままの形で保存するためのものなのだ。宝飾品も投資の一形態と考えると、金はまさに「投資」のための金属と捉えられる。

 銀は需要の6割が工業用需要だ。工業用需要の内訳で最も多く用いられているのが電子材。また、太陽光発電パネルに塗るペースト材としての用途のほか、いまだに写真のフィルム需要もある。自動車1台当たり、数百個もの部品に銀が使われているとも言われている。

 プラチナの最大の需要は、約4割を占める自動車のディーゼルエンジンの触媒用だ。石油化学やガラスなど各分野の需要も合わせると約7割が工業用である。宝飾品需要と投資用需要はわずか約3割に過ぎない。

 パラジウムに至ってはもっと極端で、需要の8割がガソリン車の触媒用途だ。欧州などで環境規制の厳格化が進み、ディーゼル車からガソリン車へシフトが進むことによってパラジウムの需要は年を追って増加している。これが、パラジウムの近年の価格高騰の原因になっている。

Q3 各貴金属の市場規模は?

 A 市場規模を比べるうえで最も分かりやすいのは、毎年どのくらいの供給があるかを考えればいい。2019年の各貴金属の市場規模(供給量の総額)を比べると、金が32・5兆円で圧倒的に大きく、銀が3・1兆円▽パラジウムが2・5兆円▽プラチナが8200億円──と続く(図2)。トヨタ自動車の時価総額が約23兆円であることと比べても、貴金属の市場規模は他の金融商品と比べると非常に小さい。

Q4 どこで産出されるの?

 A 金の生産は国別では中国がトップの383トン(19年)で、世界の産出量の約1割を占める。国内の金鉱開発に力を入れており、内モンゴル自治区や湖南省、山東省、福建省に主な採掘場がある。ロシア、オーストラリア、米国、カナダと続き、上位5カ国でシェアは約4割にのぼる(図3)。金は00年代半ばまで南アフリカが産出量のトップだったが、採掘コストの上昇などによって産出量が減少した。

 銀はメキシコが5918トン(19年)とトップで、世界の産出量の2割強を占め、ペルー、中国と続いている。プラチナは南アフリカが約7割を占める一大産出国。ロシアやジンバブエでも産出するが、シェアはそれぞれ1割前後にとどまる。パラジウムは南アフリカとロシアが2大産出国で、年によって産出量に変動はあるものの、2カ国で約8割のシェアを占めている。

Q5 「トロイオンス」とは?

 A 世界で貴金属の質量を表す際に使われる独自の単位のこと。1トロイオンスは「31・1035グラム」。そもそもはフランス中部のシャンパーニュ地方で中世、金・銀と商品とを交換する際に使われた単位だ。それが現在も国際的な取引で使われており、例えば「金が2000ドル」と表される場合、1トロイオンス当たりの価格という前提がある。ちなみに、ヤード・ポンド法の質量の単位である「オンス」(1オンス=28・3495グラム)とは全く違った単位だ。

Q6 インゴットって何?

 A 日本語では「地金(じがね)」と訳され、金や銀、プラチナ、パラジウムを持ち運びしやすくした塊を指す。さまざまなサイズがある中で、金の国際的な大口取引には「ラージ・バー」という大きな400トロイオンス(約12・5キロ)のインゴットが使われており、個人投資家向けには1キロ、500グラム、200グラム、100グラム、10グラムと小さなサイズがある。

 これらのインゴットは基本的に99・99%の純金。品質を保証するため、世界の貴金属の取引の中心地であるロンドンの自主規制団体「ロンドン・ブリオン・マーケット・アソシエーション」(ロンドン貴金属市場協会、LBMA)が認めた公認マークが刻印される。LBMAの厳しい基準に合格したインゴットは「グッドデリバリーバー」と呼ばれ、世界中でその価値が認められているため、どこでも問題なく売買される。

Q7 価格はどこで決まる?

 A 貴金属の価格は、ドル・円などの為替相場と同じと考えるのが一番簡単だ。例えば、ドル・円相場は「1ドル=100円」と、異なる通貨との交換比率で表される。金の価格も同様にドルとの為替相場だと言え、この「1トロイオンスの金とドルの為替」が世界の金価格の基本である。

 金の取引は世界の主要都市で行われているが、金の帳簿上での付け替えはロンドンを中心とする「ロコ・ロンドン」市場で行われるのが標準ルール。2営業日後決済の「スポット取引」となる。LBMAがロンドン時間の午前10時半と午後3時の1日2回、金のスポット価格を決めるフィキシング(値決め)をしており、この価格が世界的な金現物価格の指標となっている。

 これに対し、金には先物取引もあり、米ニューヨーク商品取引所(COMEX)の先物取引が金価格を最もコントロールしていると言っても過言ではない。先物取引とは将来の価格を取引するもので、中でも期近の取引が指標価格となっている。金先物取引の規模は金現物に比べて圧倒的に大きく、金市場全体への影響力の大きさは通貨先物取引などとは比べものにならない。

 LBMAの金現物価格とニューヨークの金先物価格は通常、ほぼ連動するが、新型コロナウイルスの感染拡大によって今年3月下旬以降、先物価格が現物価格を数十ドル上回って取引される異例の状態が一時生じた(図4)。先物取引は基本的に相殺取引により決済するが、実際に現物の受け渡しもできる。コロナ禍によって金の精錬業者の操業が止まったり、空路が途絶えたりしたことでニューヨークで現物不足となり、ニューヨークとロンドンで大幅に価格が乖離(かいり)した。これだけの先物市場と現物市場との乖離が生じると、高い先物を売ってはるかに安い現物を渡せば大きな利益を得られることになる。

 日本での金地金の小売価格は、大手地金商が毎営業日の午前9時ごろから、円建て価格を発表している。この円建て価格は、ドル・円相場を考慮した現物価格を基に、手数料や地金商のコスト、消費税率10%を上乗せした価格で、その日1日の有効な売買価格として定着している。マーケットの価格の仕組みは、銀、プラチナ、パラジウムも金と全く同じになっている。

(池水雄一・日本貴金属マーケット協会代表理事)

(本誌初出 Q&A 意外に知らない?! 貴金属の基礎知識=池水雄一 20200922)

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