投資・運用まだまだ上がる金&貴金属

金の地政学 ロシアが公的購入を突如停止 米ドル依存脱却で中国と協調=豊島逸夫

    突然、公的金購入を停止すると発表した(ロシア中央銀行)(Bloomberg)
    突然、公的金購入を停止すると発表した(ロシア中央銀行)(Bloomberg)

     今年4月1日、ロシア中央銀行は突然、公的金購入を停止すると発表した。近年、公的金準備を増加させる傾向の先鋒(せんぽう)がロシアであった。ほぼ毎月のように数トンから数十トンの金購入を発表してきた。金は米ドルの代替通貨ゆえ、ドルへの不信任票とも理解される行動だ。ロシア流の米ドル覇権への挑戦でもあった。それが、なぜ急に停止されたのか。そのヒントは中国との関係にありそうだ。(まだまだ上がる金&貴金属)

     ロシアと中国は米国の経済制裁の対象とされがちで、ドル決済システムから独立する必要性を共有する。それを裏付けるように、ロシアの外貨準備は昨年初め、ドル建て資産を大幅に減らしたうえで、その一部を中国・人民元に振り向けた。外貨準備のうち5%だった人民元の割合は、15%へ上昇したとみられている。中国との貿易決済でも、2015年には8割超だったドル建ての割合が、昨年には5割程度にまで下がった。

     つまり今回、公的金購入を停止した分は、人民元購入に切り替えたとみるべきではないか。通貨面での協調の本気度を中国側に印象づける一手でもあり、米国へのけん制にもなる。これは中国側も大歓迎だ。習近平政権は人民元の国際化戦略を進める中で、16年には国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引き出し権)の構成通貨として、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に次ぎ、人民元を加えることを認めさせてもいる。

     中国も公的金準備増強に動き、今年6月時点で1948トンを保有するに至った。こちらは長期的に金買い続行の姿勢だ。中国の外貨準備は3兆ドル以上と断トツの世界一であり、中期的な脱ドル戦略として5000トンに増やすと筆者は見ている。それでも同国の外貨準備における金のシェアは5%程度に過ぎない。欧米諸国の60~80%に比し、微々たるものである。しかし、年間生産量が3400トン規模の金市場へのインパクトは大きい。筆者が中期的に金価格1トロイオンス=3000ドルを予測する理由の一つになっている。

    イランの制裁回避策

     ここまでは中露対米国の通貨対立の構図について述べてきたが、そもそも一国の通貨を国際基軸通貨とする制度は、現在の分断された世界情勢にはなじまなくなってきている。そこで注目されるのが、ノーベル賞経済学者ロバート・マンデル氏が提唱してきた「最適通貨圏構想」だ。地域ごとに統一基軸通貨を決めるという発想だ。そもそもユーロ誕生の理論的裏付けともなった経済理論でもある。

     具体的には、北南米大陸は米ドルで、アジアでは日本円と人民元が地域通貨覇権を争うという想定になる。さらに、中東では金という「無国籍通貨」が浮上する。そもそもイスラム教は金利を不労所得として認めない。それゆえ、イスラム金融では金利を生まない金が重視される傾向がある。

     さらに、マレーシアのマハティール前首相は09年、中東内での貿易決済に「ゴールド・ディナール」という金を裏付けにした新通貨使用を提唱した。そのとき試験的に応じたのがイランであった。今後、イランへの経済制裁が強化された場合、この構想は現実的な選択となろう。

     実は足元でも、対岸のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイからイランへホルムズ海峡を渡る小型船舶によって大量の金が持ち込まれ、経済制裁の抜け道になっていることは現地では公然の事実だが、言及することはタブー視されている。

    「性善説」の限界露呈

     なお、国際基軸通貨ドルへの不信任票として金が官民で買われていることは、国際通貨制度における金の役割が見直されつつあることも意味する。

     そもそも、ニクソン・ショック(1971年)で金とドルの交換が停止され、米国は「金廃貨」を唱え、ドルを中心とする「信用通貨制度」に移行した。金本位制から管理通貨制度へ振り子が180度振り切ったところで、08年にリーマン・ショックが起きた。通貨発行の総量を中央銀行総裁の裁量に任せるという「性善説」の限界が露呈された。

     そこで「性悪説」に基づき、人間の支配が及ばぬ独自の価値を持つ金を見直す動きが顕在化しつつある。金の方向へ振り子の振り戻しが起きているのだ。とはいえ、通貨を弾力的に供給できない金本位制は過去の遺物だ。そこで、せめて外貨準備としての金保有を増やす動きが、現実的な選択肢として中央銀行家の共感を得ているわけだ。

     誇り高き中央銀行家も所詮は人の子。筆者の周辺で金を個人的に買いたがるのが日銀OBたちなのだ。こともあろうに「円という通貨の番人」として40年働いた人物が、虎の子の退職金を「円」では持ちたがろうとしない。量的緩和で円がばらまかれる現場を見てきたので、もはや「1万円札」がペーパーにしか見えないようだ。

     財務省OBにも金好きが多い。国の借金の帳簿を作成してきた人間が、平然と「日本の財政は『ジンバブエ化』(アフリカ南部の国で起きた経済破綻とハイパーインフレ)するから、退職金で金を買いたいのだが、何を買えばよいのか」と語り資産運用の相談に来る。

    金ETFは秋に売り

     最後に、今年話題の金ETF(上場投資信託)について付言する。筆者は金の国際的調査機関「ワールド・ゴールド・カウンシル」に在職していた2004年、世界初の本格的な金ETF「SPDRゴールド・シェア」の組成に直接的に関与した。米国証券取引委員会(SEC)に日参し、1年半をかけて上場の認可を取り付けてもいる。金ETFの実態を知り抜いている立場から、一つ警鐘を鳴らしておく。

     当時の上司は米国最大の公的年金カルパースの元CEO(最高経営責任者)ジェームス・バートン氏で、金ETFはバートン氏の指揮下でもともとは長期投資の年金基金向けに商品開発された。しかし、現在の金ETFの主たる買い手は短期売買が中心のヘッジファンドだ。それゆえファンドの決算期が集中する今年11月までには利益確定売りの大波にさらされるリスクがある。

    (豊島逸夫・豊島&アソシエイツ代表)

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