国際・政治菅人脈と手腕

携帯電話料金だけがスガノミクスではない! 「数が多すぎる」発言に戦々恐々の地銀 令和の銀行大再編の幕がいよいよ切って落とされる

    再編が加速するか(島根銀行とSBIホールディングスも資本・業務提携会見、2019年月)
    再編が加速するか(島根銀行とSBIホールディングスも資本・業務提携会見、2019年月)

     9月の第1週、地銀株に異変が起きた。1週間の株価上昇率は、福島銀行で53%、筑波銀行で37%に上り、2桁上昇した銀行は9行に上った。計算上は数十年に1度の上昇幅で、市場は“地銀株祭り”の様相を呈した。

     きっかけは、菅義偉官房長官が9月2日、自民党総裁選への出馬会見で地銀について「数が多すぎる」と発言したことだった。日銀との関係も維持する方針と見られ、異次元緩和を継続する公算が大きい。新型コロナウイルスの状況次第では、更なる緩和もあるかもしれない。それを可能にするには、地銀再編は不可避との読みが株価上昇を後押しした。

     一方、地銀は消極的だ。特に第一地銀は過去10年、持ち株会社による統合はあったものの、銀行数も従業員数も全く減らしていない。

    下落続く貸出金利

     しかし、平均新規貸出金利は2007年以降下がり続けている。16年以降は、政策金利も貸し出しの元になるプライムレート(優遇貸出金利)も下げ止まっているにもかかわらず、貸出金利の下落は続く。

     貸出金利はユーロ圏では、マイナス金利導入から6年で0・1%弱しか下がっていないのに対し、日本ではマイナス金利導入から4年で0・15%も下落している。地銀の利ざや低下は少なくとも政策金利のせいだけではない。

     背景にあるのは、金融機関同士の競争の影響だ。19年3月期の都道府県別の銀行の貸出金利と金融機関の店舗数をプロットすると、店舗が多い地方ほど厳しい競争にさらされ、利ざやが低い傾向にあることが分かる(図)。競争激化が利ざやを押し下げる構図が透ける。

     他方、足元のコロナ禍では地銀の多さが幸いしている。コロナの影響を受けた中小企業に対し、既存の貸し出しの条件を緩和したのは、累計で19・2万件。その84%が地銀によるものだ。この4~7月で、信用保証協会の保証債務は12兆円増加。その貸し出しの大半を地銀が請け負っている。

     これらの保証付き貸し出しは地銀にとってもプラスである。借り手の利払いを、政府が補充してくれるものが多い。借り手にとっては実質無利子だが、銀行側は平均より高い金利が取れる。これらの100%保証貸し出しのリスク量は原則ゼロとカウントされる。つまり、実質ゼロリスクで金利収益が享受できる。仮に12兆円の半分がこうしたフル保証案件で、平均1・5%の金利だと仮定すると、年間900億円程度の無リスク収益が受領できる。

     だが、借り手企業の多くは、銀行の既存取引先だ。借り入れは膨張しており、以前よりもリスクは高くなっている可能性が高い。保証付き貸し出しも数年で満期が来る。期限延長もできるかもしれないが、先々の取り扱いは不透明だ。その影響を最小限にとどめるためにも、今後数年間が地銀の財務基盤強化の最後の機会となる。

     こうした環境下では、地銀の再編はもはや「あるかないか」ではなく、「独立でいくつ残れるのか」というレベルではないだろうか。

     ある程度の経営規模があれば、独力で新規業務に挑戦することも可能だろう。例えば、山口フィナンシャルグループの地域商社や人材紹介などは興味深い。しかし、小規模行が単独で同じことができるか。新規業務を開花させるには「トライ&エラー」が必要なため、資本や人材などの資源が大きい方が有利だ。大規模化は金利競争の緩和や経費カットの方策というだけでなく、新しいことにチャレンジするためにも必要だろう。

    独禁法緩和も後押し

     ではどんな地銀から統合が進むか。企業の戦略次第でもあり、ピンポイントの予想は難しい。ただ、経済圏ごとの再編の必要性の濃淡は推測できる。

     表は、各都道府県の経済規模に対して金融機関の支店数が多い順に並べたものだ。例えば島根県は、その地域の域内総生産(GRP)に対し、金融機関の支店が全国で最も多い。県内の第二地銀の島根銀行には既にSBIホールディングスが34%出資しているが、第一地銀の山陰合同銀行や三つの信用金庫、隣県の鳥取銀行なども含めた整理が必要になる可能性がある。

     次に目立つのは、東北と九州だ。いずれも、経済規模の割に金融機関の拠点数が多く、整理の恩恵が大きい可能性が高い。なお、地銀同士の合併は、独占禁止法の観点から一定の制限を受けていたが、この規制から除外する特例法も11月に施行される。地銀は再編に向けて外堀を埋められつつある。

     もっとも、再編だけで全て解決するわけではない。これまで地銀が再編で得たシナジー効果も、貸出金額の1%にも満たない金額にとどまり、数年分の利ざや低下でかき消されてきた。再編は、地銀が地方経済とともに生き残るための長い道のりの一歩なのだ。

    (大槻奈那、マネックス証券チーフ・アナリスト)

    (本誌初出 地銀再編 「多すぎる」発言で株価急騰 山陰、東北、九州が発火点か=大槻奈那 20200922)

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