今井尚哉、長谷川栄一両首相補佐官が失権、新メンバーには「財政タカ派」がずらり……菅新政権を牛耳る新・官邸官僚の顔ぶれはこうなる
菅義偉氏が首相に就任した場合、霞が関で重用されるとみられるのは、内閣府の林幸宏政策統括官(旧経済企画庁88年入省)と財務省の矢野康治主計局長(旧大蔵省85年入省)だ。
林氏は、竹中平蔵経済担当相や菅官房長官の秘書官を務め、現在は経済財政運営担当の局長級ポストを務める。オーソドックスな経済分析に定評がある。菅氏は、携帯電話料金など個別政策には意欲をみせるが、金融や財政政策など経済を俯瞰(ふかん)するような政策では安倍路線を継承するとみられる。その理論付けや分析を行うのが林氏と目されている。矢野氏も菅氏の官房長官秘書官を務めた。財政収支や規律に厳しい「財政タカ派」として知られる。
安倍政権では、今井尚哉、長谷川栄一両首相補佐官ら経済産業省出身の「官邸官僚」が経済政策を担い、財務省の訴える財政規律がないがしろにされてきた。新型コロナウイルス対策での大型予算などは、今井氏、経産省の新原浩朗経済産業政策局長(旧通商産業省84年入省)、財務省の主計局長だった太田充事務次官(旧大蔵省83年入省)の協議で基本方針を決めたとされる。
この過程で、財務省内には太田氏への風当たりが強まった。「GoToキャンペーン」などで費用対効果などを十分に査定せず、官邸や経産省の言いなりだったとの批判だ。
今井氏と長谷川氏は安倍政権終焉(しゅうえん)と共に官邸を去り、太田氏や新原氏の影響力も弱まることが予想される。財務省内には「経産省の勢力がそがれ、財政タカ派の矢野氏が重用されれば、政権も財政規律を重視するのでは」との待望論もある。しかし、コロナ禍や相次ぐ災害で財政出動圧力が高まる中、かつて仕えた菅氏に財政規律を説くことはたやすいことではないだろう。
携帯料金は総務・谷脇氏
今井氏に代わって官邸で権力を掌握しそうなのが、和泉洋人首相補佐官だ。その和泉氏に重用されているのが経産省出身の赤石浩一内閣審議官(旧通商産業省85年入省)で、イノベーション推進を担当している。経産省で産業や通商政策にかかわり、民間企業の動向に詳しい。
赤石氏は第2次安倍政権発足直後に内閣官房に呼ばれ、アベノミクスの成長戦略策定にかかわった経歴を持つ。アベノミクス三本の矢では、第一の矢(金融政策)、第二の矢(財政政策)頼みで、第三の矢(成長戦略)が未完だったと指摘される。菅氏・和泉氏の下で、成長戦略に当たる重要人物になりそうだ。
菅氏が意欲を示すのが、地方振興と携帯電話料金改定だ。いずれも、かつて菅氏が副大臣、大臣を務めた総務省が担当する。携帯電話料金関係は、郵政系トップを務める谷脇康彦総務審議官(旧郵政省84年入省)が担う。担当課長や局長として格安スマートフォンの事業活性化や携帯大手3社の料金引き下げを主導してきた。
地方振興の指揮を執るのは黒田武一郎事務次官(旧自治省82年入省)。菅氏の地方振興は、一律に金をばらまくのではなく、努力する自治体に手厚くするのが基本路線だ。黒田氏は課長時代、菅総務相の下で地方交付税に「頑張る地方応援プログラム」を導入した。農業産出額増や行革に取り組む自治体へ交付税を多く配分する仕組みで、菅氏の地方振興の考えを具現化した初期の事例だ。菅氏の描くデザインを、「緻密な仕事ぶり」との評がある黒田氏が具体化することになりそうだ。
(編集部)
(本誌初出 菅政権の官僚人事 内閣府・林氏ら重用へ 経産・赤石氏は成長戦略=編集部 20200922)