国際・政治菅人脈と手腕

「菅僚」「自公維」がキーワード “暫定”脱却へ強まる早期解散論=人羅格

    自民党総裁選に向けて準備する党神奈川県連関係者に手を振る菅義偉官房長官。党内での足場は脆弱なだけに、基盤強化のための早期解散が取り沙汰される(横浜市中区で9月5日)
    自民党総裁選に向けて準備する党神奈川県連関係者に手を振る菅義偉官房長官。党内での足場は脆弱なだけに、基盤強化のための早期解散が取り沙汰される(横浜市中区で9月5日)

     <緊急特集 菅人脈と手腕>

     7年8カ月にわたった安倍内閣を継承する見通しとなった菅義偉官房長官の「新内閣」は暫定政権色の払拭(ふっしょく)が課題となる。「官僚統治」「自公維路線」が菅流ガバナンスのキーワードだ。政権基盤の強化に向け、早期の衆院解散を探る展開となる。(菅人脈と手腕)

    「安倍マジック」で浮上

     進退と引き換えの「安倍マジック」と言っても過言ではあるまい。新型コロナウイルス対策で行き詰まっていた安倍晋三首相が退陣表明で逆に求心力を取り戻した。そして、事実上「菅後継」のレールを敷いた。

     消去法的選択の結果できた、菅氏支持の雪崩現象である。身を引く判断をした安倍首相にとって、最悪の展開は石破茂元幹事長が後を継ぎ、長期政権の「暗部」を暴くことだったはずだ。

     今回、石破氏が敗れても党員投票で健闘すれば、来秋の任期満了に伴う総裁選に向けた足場を築く。このため、総裁選のルールを決める二階俊博幹事長と手を組む必要があった。

     一方、二階氏は刑事事件にまで発展した昨年の参院広島選挙区の保守分裂を巡り、岸田文雄政調会長との関係に深い溝を生んだ。首相が岸田氏を後継指名すれば、二階氏との亀裂は必至だ。結局、安倍氏は石破氏、二階氏は岸田氏というそれぞれの政敵を封じ込めるため手を組んだ。

     ただし、安倍政権と一体だった菅氏は政権批判の逆風を浴びる恐れがあった。それだけに、首相の退陣が世論にどう受け入れられるかが不安要因だった。

     だが、共同通信の世論調査によると、首相退陣表明後の内閣支持率は56・9%と前週より20・9ポイントも跳ね上がった。おそらく長期政権への慰労の意味合いもこもった数字だろう。これで「禅譲」の環境は整備された。

     菅氏を後継指名したも同然だけに、安倍首相は一定の影響力を維持しそうだ。菅氏は外交が弱点と見られている。今後の体調次第ではあるが、日露関係や拉致問題で安倍氏を特使に起用するような展開もあり得るのではないか。

     菅流ガバナンスが軌道に乗るか、二つのポイントを指摘したい。官僚統制の強化と、日本維新の会との関係である。

     安倍官邸で、菅氏はあえて官界のルールを崩す人事を断行し、統制を強めてきた。「菅さん系の官僚は『菅僚』」とある省庁幹部は揶揄(やゆ)する。出馬表明にあたり「官僚の縦割りをぶち破る」と強調した。厚生労働省再編や「デジタル庁」新設に加え、「菅人事」の徹底宣言と霞が関には受け取られた。

     官房長官時代の「菅人事」と見られているのが、国土交通事務次官人事だ。同省は旧建設省技官、同省事務官と旧運輸省のたらい回し人事を続けていたが2016年、本命視された旧建設事務系、西脇隆俊氏(現京都府知事)が復興庁次官に回り、旧運輸官僚が起用される異変があった。今年も「エース」由木文彦氏が復興次官となり、「穴馬」の栗田卓也氏が次官に昇格した。一連の人事には菅氏と近い国交省OB、和泉洋人首相補佐官の影響も官界では指摘されている。

     菅氏が閣僚を務めた総務省でも旧自治系の黒田武一郎事務次官など着々と「菅系」統制が進む。菅氏は総務相時代、旧自治省行政系の幹部をあえて自治財政局長に起用する慣例破りの人事をしたこともある。

     だが、場合によっては更迭も辞さない人事はともすれば「えこひいき人事」と映る。

     官僚人事ではないが、自身に近い菅原一秀前経済産業相、河井克行前法相らの不祥事による辞任で「菅人事」には疑念符がついた。とりわけ、安倍内閣時代に不倫疑惑などが報じられた和泉氏の動向を官界は注目している。

     また、菅新政権の誕生で与党と日本維新の会の距離はいっそう接近し、事実上の「自公維」体制を現出しそうだ。

    路線は新自由主義

    大阪都構想の住民投票を控えた松井一郎大阪市長(中央)や吉村洋文大阪府知事(左)は「菅新政権」への流れを歓迎(大阪市で2019年6月22日)
    大阪都構想の住民投票を控えた松井一郎大阪市長(中央)や吉村洋文大阪府知事(左)は「菅新政権」への流れを歓迎(大阪市で2019年6月22日)

    「たたき上げ」の菅氏は、競争重視の構造改革論者だ。総裁選でモットーに「自助・共助・公助」を掲げたが、基本はあくまで自助。政策路線で維新勢力とは共通点が多く、大阪を拠点に進む「大阪都構想」やカジノを含む「統合型リゾート」(IR)構想を支援し続けてきた。とりわけ松井一郎大阪市長との関係は良好で、頻繁に連絡を取りあっている。

     それだけに菅政権への流れを都構想の住民投票を控えた松井氏や吉村洋文大阪府知事らはもろ手を上げて歓迎している。

     次期衆院選後の維新との連立や閣外協力、改憲問題での連携強化なども現実的な選択肢だ。半面、新政権と公明党のあつれきは次第に増すことになる。

     そうした「カード」を使いこなすためにも、来秋の総裁選を控え、安倍政権のつなぎという暫定色を払拭できるかが課題となる。菅氏を支える各派は「勝ち馬」に乗っただけで、どこも本気で支える気はない。新政権の自民党内での足場は脆弱(ぜいじゃく)だ。

     このため、菅氏が早期に解散に踏み切り、政権基盤の強化を図るのではないか、との観測が広がるのはある意味で自然だ。

     菅氏は新型コロナウイルスの感染収束が解散の前提だと説明しているが、冬場を迎えると感染拡大のリスクは高まる。新政権が発足する9月16日から1カ月程度がさっそく見極めどころとなる。

    (人羅格・毎日新聞論説委員)

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