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スマホ撤退への備え?中国・ファーウェイが「自動車部品」に参入する理由

ITで移動を最適化する「スマート交通」にも取り組む (Bloomberg)
ITで移動を最適化する「スマート交通」にも取り組む (Bloomberg)

中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)は、9月26日に開かれた北京モーターショーで、スマートカーのキャビン(車内空間)や自動運転の顧客体験などを公開した。

同月8日には、スマートカー向けの車載電子・設備の生産に参入すべく、子会社の「ファーウェイ電動科技」を立ち上げた。

このほか、新たな人工知能(AI)開発プラットフォーム「モデルアーツ3・0」、自動運転技術「ADN」も発表した。

ADNはAIを駆使して自動運転向けのネットワークの実現を目指す。

エネルギー効率やユーザー体験の向上が期待される。

ファーウェイは、車載端末からネットワークプラットフォーム、チップ、デジタル地図に至るまで、次世代自動車産業サプライチェーン構築への布石を打っている。

中国に自動車部品のメガサプライヤーが出現しようとしている。

IT企業並みの速度

ファーウェイは強みの通信技術やデバイス・設備の製造技術を生かし、スマートコックピット、自動運転、スマート交通など次世代自動車分野でメガサプライヤーを目指す姿勢を示している。

そのスマートカー技術は主に五つの分野で構成されている(表1)。

車載分野への取り組みは、2013年から本格的に着手し、18年から一気に加速させている。

その事業スピードはIT企業並みの速さだ。

まず、IoV(インターネット・オブ・ビークル=車のインターネット)事業部を13年に立ち上げ、車載通信モジュール(位置情報や稼働状況が分かる高速通信端末)を投入し自動車部品業界に参入した。

事業展開をギアチェンジしたのは、自動運転の「レベル4」(システムが完全に自律して車両を制御)が可能な車両を支援するコンピューティング・プラットフォームを18年10月に発表してからだ。

世界初の「V2X」、すなわちクルマが通信でさまざまなモノとつながる“コネクテッド”と自動運転に対応した5G(第5世代移動通信システム)チップも19年1月に発表。

5月には「スマートカーソリューション」というビジネス・ユニット(BU=戦略事業組織)を重要な社内カンパニーとして位置付けた。

このBUは自動運転、スマートコックピット、AI、ビッグデータ分析などの研究・開発に取り組んでいる。

7月には中国当局から高精細地図のライセンスを獲得し、本格的に自動運転への取り組みを始めた。

直後の19年8月、ファーウェイは満を持して、車載分野への本気度を示す発表を行った。

世界開発者会議(WWDC2019)で、スマートフォンと車載の両方で使える「ハーモニーOS」を披露した。

車載OS分野は、すでにアップル、グーグルが先行者として、それぞれ「カープレイ」「アンドロイドオート」で市場を2分しようとしている。

そこにファーウェイが待ったをかけた格好だ。

ファーウェイは、スマホに搭載するさまざまなソフトウエアをクルマでも使えるよう、ハーモニーOSの実用性を高める工夫を凝らしている。

まず、アンドロイドスマホのアプリやウェブのアプリと互換性を持たせた。

ファーウェイの中国市場向けのスマホは、OSをアンドロイドからハーモニーOSに切り替え可能である。

また、海外市場向けでは、米国の制裁によりファーウェイのスマホにアンドロイドを搭載できなくなる時に備えて、自前での供給体制の構築も急ぐ。

車載部品の種類を拡充

ファーウェイは、ハーモニーOSには勝算があるとみているはずだ。

その理由は、次世代車開発において、コンピューター、ネットワーク、ストレージを統合するプラットフォームの構築が重要となってきていることがある。

クルマの電子制御ユニット(ECU)が効率的に作動するためには、ソフトウエアが車載システム全体で整合性が取れている必要がある。

特にカメラ、レーダー、ライダーなど車載電子機器を多数使用するスマートカーにおいては、ソフトウエアの整合が複雑であり、開発コストも高額である。

各種機能を内蔵した車載プラットフォームを構築できれば、後発組でも既存プレーヤーを凌駕(りょうが)する可能性がある。

設計段階からソフトウエアやコミュニケーションシステムが組み込まれ、ソフトウエアの設定を自由に変更できる米テスラの電気自動車(EV)は「走るスマホ」として、ものづくりのイノベーションを起こした。

通信機器・携帯端末の生産及びソフトウエアの開発などの分野で分厚い蓄積を持つファーウェイは、車載電子業界に参入する条件が整っている。

ハーモニーOSの自動車への応用を実現するため、ファーウェイは車の衝突防止機能、自動運転向けのクラウドサービス、5Gを利用する車載通信機器などの開発にも取り組む。

車載カメラとスマホが連動する機能を備える自動運転クラウドサービスの「HiCar(ハイカー)」システムを20年4月に発表し、スマートカーのICT(情報通信技術)基幹部品サプライヤーとして、自動車メーカーを支援する方針を示した。

翌5月には上海汽車、広州汽車、BYDなど国内大手自動車メーカー18社に協力し、5G対応のコネクテッドカー(つながる車)の実用化に取り組んでいる。

さらに、EV向けの急速充電モジュールを発表し、送電大手(国家電網、南方電網)や充電設備メーカー(星星充電、珠海泰坦新動力電子)と提携し、充電ビジネスに参入した。

中国では、5Gのインフラ整備を急いでおり、5G基地局数が60万カ所を超える見通しだ。

5Gの登場により、車とインフラ・クラウドの直接通信でリアルタイムに交通情報の交換ができ、コントロールセンターから車両を遠隔制御することも可能となる。

ファーウェイは過去10年間で5Gの研究開発(R&D)に累計40億ドル(約4300億円)を投入し、特にコア部品(不可欠な部品)の開発に力を入れている。

19年のR&D投入額は前年比29・7%増の190億ドルで、アマゾン、グーグルの親会社アルファベットに次ぐ世界第3位(図)。

売上高のR&D費比率は15・3%に達し、グローバル企業のなかでもトップレベルだ。

制裁を逆手に

今後、ファーウェイは独自のエコシステムを構築する一方で、ハードウエアとしてのクルマの需要を見据え、スマートカーのメーカーになる可能性も否定できない。

実際、ファーウェイは18年に独ハノーバーで開催された見本市で、提携する仏PSAの車両をベースとしたコネクテッドカーを公開した。

次世代自動車の開発でも通信技術の中核を握ろうとする動きを強めている。

そんなファーウェイの、目下の最大のリスクは、米国の制裁である。

PSAとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の合併に米国の対米外国投資委員会(CFIUS)がストップをかけているのも、米国がファーウェイを安全保障上の脅威とみているからだ。

米国政府は19年5月にファーウェイを禁輸対象の「エンティティーリスト」に入れ、9月15日には、ファーウェイに対して海外で米国製の製造装置や技術を使用した半導体の禁輸措置を発動した。

ファーウェイはハイエンドスマホ向けの半導体を調達することが事実上できなくなり、経営への打撃は避けられない。

ファーウェイの主力事業であるスマホ事業はグローバル市場でシェアを伸ばし、順調に拡大してきたが、出荷台数は20年から大幅に減少する見通しだ。

しかし、ファーウェイの任正非CEO(最高経営責任者)は「米国の打撃を受けたファーウェイは脱皮してさらに強くなる」とのコメントを出した。

ファーウェイは、車載OSは作っても「クルマは作らない」方針を繰り返し強調している。

だが、任CEOは「ファーウェイは携帯電話を作らない」との言葉を覆してスマホに参入し、トップメーカーに上り詰めた。ファーウェイの参入により、自動車業界の競争は一層激しさを増すだろう。

(湯進・上海工程技術大学客員教授)

(本誌初出 ファーウェイが自動車部品に参入 OSでグーグル、アップルを追撃=湯進 20201103)

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