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国際・政治 ほほえみの国の真実

「日本のコンテンツは世界中で人気」は「日本人の思い込みに過ぎない」という不都合な現実……タイで目撃した「韓流の強さ」と日本人の「自己陶酔」ぶり

タイでは大手各社がKポップグループを広告に起用している
タイでは大手各社がKポップグループを広告に起用している

連日若者を中心に反政府デモが展開されているタイ。

長年「タブー」とされていた王室批判も繰り広げられるなど、混乱した状況が続いている。

そんなタイにおいて、Kポップのファンクラブ経由でデモを支援するための寄付が流行しているという。

タイは自動車産業を中心に日系企業の進出がさかんな国として知られ、在留邦人の数はアメリカ、中国、オーストラリアに次ぐ4位。

当然タイから見て日本は大きな存在感を持つ国であり、文化においてもかつて日本は憧れの対象だった。

だが、デモに集まる若者は日本のほうをもはや向いてはいないという。

共同通信グループ株式会社NNA編集記者でタイの事情に詳しい安成志津香氏のリポートをお送りする。

タイの反政府デモに見る「韓流」の影響力

「東方神起のファンクラブから200バーツを寄付しました」

「私はGOT7のファンクラブから500バーツよ」

タイで連日続いている反体制デモを支援するため、デモ隊への寄付の動きが若者の間に広がっている。

若者からの寄付ということもあり、芸能人のファンクラブ経由での寄付という独特な方法がとられている。

当然、タイの若者に人気のある芸能人ファンクラブほど、多額の寄付を集めるということになり、デモ隊への寄付を通して、どのようなコンテンツがタイで人気があるかが明らかになっている。

タイの鉄道駅構内で展開されるKポップグループのタイ人メンバーを起用した広告
タイの鉄道駅構内で展開されるKポップグループのタイ人メンバーを起用した広告

そうした中で日本のコンテンツの影が極めて薄かった一方で、韓流文化の影響力の強さが見てとれる出来事があった。

タイで展開する芸能人の非公式ファンクラブからデモ隊への寄付金総額の約470万バーツ(約1,590万円)のうち、その約8割をKポップグループのファンクラブが占めたのだ。

寄付額が最大だったのは、Kポップグループ「少女時代」のファンクラブで、77万9,000バーツ。

以下は「スーパージュニア」の70万バーツ、「BTS(防弾少年団)」の45万9,000バーツなど、Kポップ勢が続いた。

日本の芸能人のファンクラブはロックバンド「ONE OK ROCK(ワンオクロック)」のみで、金額も3万5,000バーツにとどまった。

反体制デモを支持するタイ人女性(23歳)は、Kポップデュオ「東方神起」のファンクラブに200バーツを振り込んだ。

個人的にデモ隊支援の口座へ振り込むこともできたが、「(ファンクラブ経由のほうが)他のファンとの連帯感を感じられる。応援しているアイドルのイメージ向上にもつながる」と考え、ファンクラブを通じた寄付を選んだという。

韓流ファンクラブの影響力はこれだけにとどまらない。

約44万人がフォローするBTSのタイ版ファンクラブページは、反体制デモに批判的な企業に対するボイコットを呼び掛け、ファンらがこれに呼応する事態も起きている。

現在タイで連日続くデモは、現首相の退陣や王室の改革などを要求している。

不敬罪が存在するタイで王室批判はこれまでタブーとされてきたが、王室に権限を集中させる現国王への不信感や、新型コロナウイルス感染症の影響による経済悪化で市民の不満が噴出した。

反体制デモを主導するのは、韓流ファン層と重なる10代後半~20代後半の若者たちとされる。

生まれた時から身近にスマートフォンがあったこの世代はいま、SNSを駆使して情報を共有し、警察の目を惑わせるため各地でゲリラ的なデモを展開している。

そんなデジタル世代が韓流文化でコミュニティを形成し、反体制デモを支援していく――。

新たなムーブメントが起こり始めているのだ。

スマートフォンをかざし、反政府運動支持の声援を送る参加者たち=バンコクで2020年9月19日午後7時28分、高木香奈撮影
スマートフォンをかざし、反政府運動支持の声援を送る参加者たち=バンコクで2020年9月19日午後7時28分、高木香奈撮影

盛り上がる韓流の裏で、日本のコンテンツは減少

タイでは2000年頃から韓流ドラマが浸透し始め、10年頃には少女時代やスーパージュニアを筆頭にKポップの人気に火がついた。

それまでタイの音楽界では、嵐やKAT-TUNといったジャニーズや、宇多田ヒカル、中島美嘉を始めとするJポップの人気も高かったが、次第に影響力は低下。その地位に取って代わったのがKポップだ。

タイ人ジャーナリストは韓流人気の理由について、「ドラマに関して言えば、脚本が刺激的な内容で、見ていて飽きがこない。音楽は若者受けの良いダンスミュージックが基調で、Kポップスターのファッションも憧れの的となっている」と指摘する。

一方で日本のドラマは「韓国ドラマと比べると展開が難解で分かりにくい」、音楽については「X JAPANやワンオクロックといったロックの分野では一定のファンがいるが、大衆受けはしていない」と評価する。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の調査によると、タイの地上波デジタル放送局の海外番組数(15~17年)は、製作国別では中国が最大の43件だった。

韓国が40件、アメリカが23件、日本が14件と続く。

ドラマだけで見ると、中国と韓国がそれぞれ42、37件だったのに対し、日本は3件にとどまった。

ジェトロ・バンコク事務所は報告書で、「日本のドラマの放送回数は年々減少傾向にある」と説明している。

その理由として、「ライセンス料は中国、韓国、日本ともほぼ同程度であるが、中国・韓国のドラマに比べ、日本のドラマの話数は半分以下となっており、視聴率が付いた頃に終わってしまうため敬遠される傾向にある」と分析している。

海外志向が強く、戦略も巧みな韓流コンテンツの人気は当然

音楽市場を見ると、韓国企業によるタイ人ファンの取り込み戦略も巧みだ。

近年はKポップグループメンバーの多国籍化が進んでおり、世界的に有名な「BLACKPINK(ブラックピンク)」や「GOT7(ガットセブン)」といったグループにもタイ人メンバーが所属している。

地場企業の広告にも大々的に起用されているタイ人メンバーの存在が、国内のファンに親近感を与え、韓流人気を後押ししているとみられている。

大衆音楽専門家で、韓国ジョージ・メイソン大学の李奎卓(イ・ギュタク)教授は、「韓国のコンテンツ産業が海外の市場として、東アジア、米国の次に重視しているのが東南アジアと南米。特にタイは東南アジアの中でも韓流文化の影響力が強く、芸能事務所は積極的にタイ人を採用している」と分析する。

韓国企業のファン取り込みはタイにとどまらず、ベトナムやミャンマーでは、韓国側がオーディションやダンスの訓練を支援した、現地の若者による韓流グループが誕生している。

韓国の芸能事務所がベトナムで作ったアイドルグループ「D1Verse(ダイバーズ)」
韓国の芸能事務所がベトナムで作ったアイドルグループ「D1Verse(ダイバーズ)」

韓流スターは「憧れるだけの存在」から「努力次第でなれるかもしれない存在」へとより身近なものになりつつあるのだ。

韓国のコンテンツ産業が輸出振興を積極的にはかっている理由としてよく挙げられるのが、市場規模だ。

韓国の人口は日本の半分以下で、国内市場のみでコンテンツ産業を成長させるのは困難という背景がある。

市場調査会社ヒューマンメディアによると、18年のコンテンツ市場の世界ランキングでは、米国(49.5兆円)、中国(21.7兆円)、日本(11.6兆円)が上位3位を占めた。

一方で7位だった韓国の市場規模は3.6兆円と、日本の約3分の1の規模にとどまった。

韓国文化体育観光省によれば、韓国ドラマの輸出額は18年に年間2億4,190万米ドル(約230億円)で、これは日本ドラマ(3,148万米ドル=総務省)の約8倍の規模に上る。

新型コロナウイルス感染症の流行で動画配信サービスが一層普及した20年以降は、輸出額がさらに拡大すると予想されている。

累積損失は215億円!「クールジャパン」の失敗

日本は一定の国内市場がある中でも、少子高齢化や人口減少を念頭に置き、海外市場の取り込みを推し進めてはいる。

官民ファンド「海外需要開拓支援機構」(クールジャパン機構)はその最たる例で、海外に日本のサブカルチャーなどの魅力を発信することを目的として、13年に政府や電通などによって設立された。

これまで同ファンドを通じて、メディア・コンテンツやインバウンドなどの分野で計48案件、総額1,053億5,000万円が投じられている。

ところがこのクールジャパン機構は設立当初から赤字を垂れ流しており、20年3月末の累積損失は215億円にも上った。

収益が低迷する日本の官民ファンドのうち損失額としては最大規模で、その運営方法の見直しが求められている。

もちろんクールジャパン機構の支援によって日本コンテンツの海外市場が拡大している側面はあるが、過去数年で特筆すべき増加といえるのは、18年時点で全体の6割を占めるアニメのみである。

映画やテレビ番組はそれぞれ微増、横ばいにとどまっている。

(ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベースVol.13 2020」参照)

韓流コンテンツは「政府の助成金頼り」は間違い?

日本のコンテンツでアニメ以外の海外市場が伸び悩む原因の一つとして、コンテンツ制作を取り巻く環境が挙げられるだろう。

ドラマを例にすれば、日本のキー局のドラマ制作費が1本1億~5億円程度にとどまる一方、韓国ドラマの制作費は1本100億~300億ウォン(約9億2,000万~27億7,300万円)に上ることもある。

日本でもブームになった韓流ドラマ「愛の不時着」などの制作を手掛ける韓国のスタジオドラゴンでは、ドラマ制作だけでなく、企画から資金調達、流通まで一貫して手掛けられる事業構造を持つ。

日本のドラマ制作会社のようなテレビ局の「下請け的存在」にとどまらず、世界中に売り込みを図っている。

日本では一般的に、こうした韓流コンテンツの振興は、韓国政府の手厚い支援のもとに成り立っているとの認識が強いが、業界からはその見解に意義を唱える声も上がる。

日系大手芸能事務所の関係者は、「韓国の芸能事務所からは『政府から助成金をもらったことは一度もない』という話も聞く。韓流人気の秘訣は結局、民間企業とアイドルたちの努力のたまものなのだろう」と語る。

「ナルシスティックな日本」には危機感が必要?

日本の官民が推し進める「クールジャパン」政策はその呼び名から、海外の論文では得てして「ナルシスティック(自己陶酔的な)」と形容されることが多い。

しかしながら国民の血税を投入して膨大な赤字を積み増している現状を省みると、自己陶酔できるような状況にあるはずがない。

コンテンツ輸出振興のために今の日本に求められているのは、近年の国内メディアであふれる「日本礼賛」の風潮ではないはずだ。

海外のコンテンツ市場でアニメ以外の日本のコンテンツは競争力がさほど高くなかったという「身の丈の現実」を知ることと、その状況に対する「正しい危機感」である気がしてならない。

(共同通信グループ株式会社NNA編集記者 安成志津香)

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