マーケット・金融

「再編だけでは地銀問題は解決しない」根本原因 「地方経済」「収益性」「フィンテック」と向き合うべき

    十八親和銀行の合併記念式典に臨む森拓二郎頭取(左端)ら
    十八親和銀行の合併記念式典に臨む森拓二郎頭取(左端)ら

    菅新内閣が発足、日本の地銀について「数が多すぎる」と発言したことをきっかけに、このところ地銀の経営統合に関する議論が活性化している。

    10月28日には静岡銀行と山梨中央銀行が業務提携で合意するほか、11月27日には独占禁止法の特例法の施行が予定されている。

    これまで地銀の再編について公正取引委員会が「NO」と言うケースもあったが、この法律によってそうしたハードルが引き下げられる可能性がある。

    近年、複数の地銀との資本提携を表明し、地銀との連携を進めるSBIホールディングスの北尾氏は菅首相と10月上旬に会食をしており、今後の主要なプレーヤーの一人と目されている。

    そもそもコロナ禍の今、なぜ菅政権は地銀再編を急いでいるのか。

    その方向性に問題はないのか。

    『銀行不要時代』(毎日新聞出版)などの著書があり、地銀問題に詳しいS&Pグローバル・レーティング シニアダイレクター、吉澤亮二氏の解説をおとどけする。

    なぜ地銀が問題になるのか?

    現在の地銀問題の本質は、その低収益性にある。

    その結果、地銀がその顧客に品質の劣るサービスを提供しつづけることで地域経済に悪影響を及ぼすことが懸念されている。

    また、低収益性によって地銀の経営体力が低下すれば、それ自体が地域経済の混乱要因となる。

    それゆえ、地銀の経営問題は日本経済全体の問題になっている。

    地方企業も本音ではメガバンクと付き合いたい?

    「地方では、顧客が地銀の人質になっている。地方の顧客も、できることなら優れたサービスを提供する大手行とつきあいたいが、大手行の店舗が地方になかったり、あっても県庁所在地のみに限られているので、実際にはできないだけ」

    大企業の地方支社長がこう話すのを耳にしたことがある。

    地方銀行は、顧客ニーズに対応する資源(人・モノ・金)が十分ではないため、大手銀行に劣るサービスを、提供していることが多い。

    そのため、地銀は地方経済に恩恵をもたらしていないどころか、むしろ地方経済に悪影響を及ぼしている面もあると考えられる。

    地方経済に大きな影響を与える地銀の経営体力

    また、収益性が低く、経営体力が弱い地方銀行は、当然ながら、不良債権処理などの損失吸収能力も低い。

    銀行を含む一般企業の損失吸収能力には、毎期の期間収益と自己資本の2種類がある。

    そして、損失吸収の第一の防波堤となるのは、期間収益、つまり毎期の利益である。

    第二の防波堤には、自己資本がある。

    しかし、収益性が低く、たびたび純損失を計上する地銀は、この自己資本も中長期的に毀損されることになる。

    地銀が一定以上の収益性を保つことは、取引先の顧客企業の存続上、極めて重要な要素となる。

    貸出機能をもつ地方銀行は、地方経済に混乱をきたさないよう、一般企業以上に安定的な財務基盤をもつことが求められるのである。

    なぜ地銀は儲からないのか?

    地銀の収益性が低い理由として、主に次の3つの要因が考えられる。

    1)収益源の多角化が遅れていること

    2)地方において「規模の経済」が欠如している(市場規模が小さい)こと

    そして、

    3)基盤市場である地方経済が衰退していること

    ――だ。

    地銀同士の経営統合は、2)規模の経済の欠如に関しては一定の効果が見られるであろう。

    だが、1)収益源の多角化と3)基盤市場の衰退には、解決策とはならない。

    つまり、経営統合は、地銀の低収益問題を解決するうえで必要条件の一つではあるだろうが、それだけでは十分条件にはならないということだ。

    収益源の多角化には、例えば手数料収入等を増加させるといった施策が必要だろう。

    また、基盤市場である地方経済をどう成長させていくかという問題には、まず地銀こそが、厳しい合理化を経て経営を「筋肉質」にして、地方の顧客の利益を高めていくことで、初めて実現できるだろう。

    つまり地銀の収益性を高めるには、地銀自身の努力が不可欠だということだ。

    低収益な地銀こそ「フィンテック」を進めるべき

    そうした地銀の収益性改善のための切り札として、フィンテックの活用が考えられる。

    ビットコインでの支払いができるすし店。二次元コードにスマートフォンをかざすだけで決済できる=東京都中央区で、横山三加子撮影、2017年
    ビットコインでの支払いができるすし店。二次元コードにスマートフォンをかざすだけで決済できる=東京都中央区で、横山三加子撮影、2017年

    より具体的には、フィンテック化を推進することで、提供商品の品揃えを充実させることが可能になる。

    また、他国と比べて高いと指摘される地銀の金融商品(例:投信販売手数料、内外国送金手数料)の取引単価を引き下げ、取引回数の増加を促すことがフィンテックに期待される。

    そのほか、銀行事務処理のデジタル化により銀行自身の経費削減を行うことが必要だ。

    特に日本では、フィンテック導入の効果が他の先進国以上に大きいように思える。

    日本は1998年以降、マクロ的にみて民間部門(非金融の一般事業法人・家計)がずっと資金余剰の状態にある。

    このため、全体的には企業の借り入れ需要より、資金運用の需要の方が高いことになる。

    資金運用サービスとフィンテックは親和性が高いことが他国の事例からわかっている。

    資産運用の助言・実行にフィンテックを活用することで、取引の深度や回数を増加させるだけでなく、取引単価を引き下げることも可能になる。

    また、資金の決済部門においても、他国では銀行以外に新規参入したフィンテック系事業者の存在感が高まりつつあり、取引単価の引き下げなどで顧客利便性の向上に寄与している。

    地銀の経営統合だけでは不十分

    地銀の経営統合によって規模が大きくなっただけでは、経営効率は上がらないのは当然だ。

    それだけでは顧客の利益にはあまりつながらないだろう。

    地銀再編の主な動き
    地銀再編の主な動き

    一般に、経営統合後は各種費用が増加するので、短期的には収益性が低下することも指摘しておきたい。

    このため、経営統合の利点生かすためにも、徹底した経営の合理化が必須となる。

    実際、2000年以降に経営統合した地銀の事例において、経営統合の後に経費率が中長期的に大きく改善した、という印象をもてない。

    業務粗利益の減少と経費の増加を背景に、10~15年の長期間でみると、経営統合後に経費率を5~15%ポイント悪化させた事例もある。

    もちろん、2~3%ポイントの改善事例もあるが、同程度の改善幅であれば、経営統合を選択していない単独大規模行(資産規模が10兆円超の銀行)の改善幅の方が大きい、というケースも少なくないのだ。

    地域経済の活性化に地銀はもっと貢献できる

    これが相互扶助を主目的とする信用金庫などの協同組織であれば話は別だが、株式会社として地銀が存続していくには、より一層の経営合理化が必要不可欠だ。

    株式会社としての地銀が、社会から何を求められているかといえば、自らが提供する金融商品の品揃えと質(価格を含む)を向上させ、地域経済の発展サイクルの一部に深く組み込まれることであろう。

    地銀が経営合理化することで、顧客企業が支払う費用が低下すれば、企業や家計部門の活性化に大きく寄与するだろう。

    日本の3大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏の11都府県)以外の36道県の県内総生産の合計は、概ね日本全体の総生産額の約45%を占めている。

    このため、地方経済が活性化することは、地方のみならず日本経済全体にとっても、極めて大きな意味をもつといえる。

    今後、地銀の収益性が向上することでより筋肉質な銀行に変化し、優れた金融商品を顧客に提供することで、地方の経済活性化に資することを期待したい。

    (吉澤亮二 S&Pグローバル・レーティング シニアダイレクター)

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