週刊エコノミスト Online商社の深層

住友商事に巨額の損失をもたらした石炭火力は伊藤忠も三井物産も丸紅も三菱商事もやっている

石炭火力発電所には世界中で強い風当たり Bloomberg
石炭火力発電所には世界中で強い風当たり Bloomberg

 住友商事が豪州で運営している石炭火力発電事業で250億円の損失を出したことが分かった。「脱炭素」方針を重視する金融機関から事業への融資が滞ったことが原因とみられる。世界的な脱炭素の流れを受けて、各商社は新規の石炭火力発電事業に着手しない方針を示している。ただ、過去に着手した事業については損失が顕在化するリスクもはらむ。

2013年に事業参画発表

 同社は2013年2月、豪州西部の石炭火力発電所「ブルーウォーターズ」(合計出力416メガワット)の事業権益の一部を取得したことを明らかにした。発電所が立地する豪州西部は鉄鉱石や天然ガスなどの資源が豊富で、その開発・生産のために電力需要増が見込まれていた。地元で採れた石炭を使えば輸送コストも抑えられることから、当時は有望な電源だった。

 発電所は複数の売電契約を結んでいるものの、多くは長期売電契約。長期にわたって、発電所には電力使用料が入る。約50%ずつ出資する住友商事と関西電力が事業から収入を得ていた。住友商事が発電事業に投融資していた額は20年9月末現在で約250億円に上る。

住友商事と関西電力が出資する豪州の石炭火力発電所
住友商事と関西電力が出資する豪州の石炭火力発電所

融資契約更改できず

 発電所には、運転資金として豪州などの銀行団が融資していたが、今年8月に融資契約が終了することが決まっていた。住友商事と関西電力は当初、他の銀行団による借り換えを模索していたとみられるが、融資の引き受け手が現れなかった。更に、ヘッジファンドなどが融資債権を値引きして買い取ったため、今後は厳しい条件での取り立ても予想される。以上の状況を踏まえて、住友商事は20年7~9月期決算で投融資額250億円全額を減損として計上した。投融資額に見合うだけの収益を上げられないと判断したとみられる。

 融資の更新や借り換えができなかったのは、同発電所が石炭火力であったことに加えて、「超超臨界圧」「超臨界圧」に比べて発電効率が低く、二酸化炭素排出量も相対的に多い「亜臨界圧」であったことが原因とみられる。

 なお、同発電事業に参画している関西電力は、住友商事より早く、20年3月期に241億円の損失を計上している。関西電力広報室は「20年8月に融資の更新ができない可能性が高いと判断して、20年3月期で損失を計上した」と説明する。

メガ3行が借り換え拒否か

 住友商事と関西電力が借り換えを打診していた銀行団とはどこなのだろうか。推測する上で、参考になる文書がある。今年7月に、「環境・持続社会」研究センターなどNGO(非政府組織)7団体が出した声明文だ。声明では、日本のメガ3行(三菱UFJ、みずほ、三井住友の3銀行)に対して同発電事業への借り換え融資を行わないよう要請している。

 声明には、豪州銀行団が気候変動問題から融資更新に難色を示しており、邦銀による融資が見込まれているとの情報を記載。その上で、メガ3行が国連責任融資原則(PRB)に署名しており、パリ協定の長期目標に整合した投融資行動が求められる中、融資を実行すれば国際社会の厳しい批判を受けると指摘している。

 状況や声明文を総合すると、発電事業の融資契約終了に伴い、住友商事や関西電力が邦銀に借り換えを打診したとみられる。住友商事広報部に声明文記載の事実関係を確認したところ、発電事業への融資で借り換えができなかった▽融資債権が値引きしてヘッジファンドなどに買い取られた、との二つの事実のみを開示し、詳細についての回答は得られなかった。

住友商事の兵頭誠之社長は発電所も手掛けるプラント事業出身
住友商事の兵頭誠之社長は発電所も手掛けるプラント事業出身

商社が石炭火力を運営するワケ

 住友商事に限らず、商社は石炭火力発電事業で収益を伸ばしてきた。源流は、石炭火力発電所のEPC(設計・調達・建設)だ。顧客要望に添って発電所を設計し、資材を調達し、建設して引き渡すビジネスで、トレード(売買仲介)領域だ。ただ、EPCは価格競争が激しく、「売り切り」なので長期にわたる収益がない。そこで、建設後の発電所で地元公社などと長期売電契約を結び、売電収入を長期に得られるIPP(独立系発電事業者)事業へ転換していった。IPP事業は、事業主体に投融資して、発電・売電というビジネスを運営する事業投資領域だ。以上のように、石炭火力発電のビジネスモデルも「トレードから事業投資へ」という商社の歴史に沿った流れで変化してきたのだ。

伊藤忠、物産、丸紅、商事もやっている石炭火力

 石炭火力のIPP事業は、東南アジアを中心とした新興国で需要が高い。伊藤忠商事、三井物産、丸紅、三菱商事も、インドネシアやベトナムで計画中・運営中の石炭火力発電所がある。これには大きく2つの理由がある。まず、新興国は停電が多く、安定電源を渇望している。第二に、これらの国では石炭が採れ、資源の輸入が不要だからだ。

 以上のように、「トレードから事業投資へ」という流れと、新興国の需要増から、商社は石炭火力発電事業を伸ばしてきた。しかし、2010年代後半になると、世界中で脱炭素の動きが加速した。各商社も、脱炭素を求める投資家を意識せざるを得ず、最近3年ほどで、主に発電に用いる一般炭の権益を売却するなど、取り組みを強化してきた。

 住友商事も2019年に、石炭火力発電事業の新規開発は行わないとの方針を明らかにしていた。ただ、既設のブルーウォーターズについては、売電契約もあり稼働せざるを得ず、その運転資金が確保できずに減損に至った。他社も石炭火力発電所を建設・運営しており、同様の財務リスクが懸念される。(種市房子・編集部)

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