テクノロジー

ファーウェイ排除でも世界の半導体は中国がけん引して50兆円市場に拡大するワケ

 新型コロナウイルスの世界的なまん延は商品、サービス、産業のあらゆる需要を激減させたが、こと半導体に限ると2020年はプラス成長を達成するようだ。さらに2021年は今年以上に力強く伸び、50兆円市場目前にまで迫る。そんな予測が株式市場でも話題になっている。

 半導体市場の好不況を30年近く見てきた筆者もその見方には同意する。カギはコロナ収束によるマクロ景気の回復への期待、自動車需要の復活、5Gスマホの世界的な普及拡大--だ。これら3要因が相まって、半導体はメモリにととまらず、ほぼ全製品が今年以上の需要の伸びを示すだろう。

巣ごもりと非接触でメモリとセンサーが急増

20201201WSTS製品別市場予測
20201201WSTS製品別市場予測

「2020年の世界の半導体市場は5.1%増、2021年は8.4%増を達成し、市場規模は4694億ドル(約49兆円)まで拡大する」。

 12月1日、世界の有力半導体メーカー46社(最終製品のみ、受託製造企業は除く)が加盟するWSTS(世界半導体市場統計)が12月1日に発表した「2020年半導体市場予測」は、まず2020年(暦年)の半導体が前年比5.1%増になると予測した。

 新型コロナの感染大爆発によるマイナス要因があったものの、5Gスマホの増加や「ライフスタイルの変化」が半導体市場を押し上げた、という解説だ。

 ライフスタイルの変化とは、コロナ禍による巣ごもり生活の世界的な増加だ。これに伴いネット通販やオンラインでの動画やゲームの利用者が急増し、データセンター向けなどに半導体メモリの需要が増加した。さらに感染防止向けた非接触検知の温度センサーなどの需要増加も加わった。

 添付資料3の2020CY(2020暦年)の「世界IC製品別市場予測」にはそれが明確に現れており、需要増に伴う価格の上昇も相まって、半導体メモリが前年比12.2%の増加、添付資料3ではセンサーが同7.4%と予測している。

20201201WSTSic製品別市場予測
20201201WSTSic製品別市場予測

2021年は全製品がプラスで8%成長

 2021年はどうか。製品別にみると、全ての製品がプラス成長となり、ゼロ成長やマイナス成長の製品はない、とWSTSは予測している。

 なかでもメモリは21年も13.3%の成長と2年続けて2ケタ成長と予測。日本のキオクシア(旧東芝メモリ)、韓国のサムスンとSKハイニックスなどメモリ企業には来年も追い風が吹くことになる。

 次に大きい伸びが期待されるのがオプトエレクトロニクスだ(添付資料2)。これはスマホのカメラに欠かせない画像センサーなどの撮像素子や光デバイスなど。

スマホ発のさまざまな事業が生まれている (Bloomberg)
スマホ発のさまざまな事業が生まれている (Bloomberg)

5Gスマホは6億台市場へ

 来年は5Gスマホの需要が5億~6億台と今年の倍以上の市場拡大が予測され、それに伴う画像センサーの量の拡大とハイスペック製品の需要の拡大の双方が期待できる。画像センサーに強いソニーの得意分野だ。通信需要の拡大に伴う光デバイスや、データセンター向けの光通信もオプト分野の需要を押し上げる。

自動車復活でアナログ半導体も8.6%成長

AI教習システムを搭載した教習車。屋根のセンサーで自車の位置を把握し、車内カメラで顔の向きを推定する
AI教習システムを搭載した教習車。屋根のセンサーで自車の位置を把握し、車内カメラで顔の向きを推定する

 アナログ半導体も今年のゼロ成長から21年は8.6%増になると予測している。電源管理のICなどに使われる半導体で、スマホに加え、自動車需要の復活、産業機器など設備投資の復調つまりマクロ景気の回復が期待できるとみている。

 ロジック半導体も今年6.5%増、来年も7.1%増と予想している。ロジックとはマイコンなど簡単な演算装置のことで、巣ごもり需要で炊飯器など家電製品が増えたとみられ、来年も家電製品の買い替え需要が期待できる。

IoTでセンサーもさらに成長

 センサーの単価は安いがモノとモノをオンラインで結ぶIoTの世界的な普及で、あらゆる機械や製品にセンサーを設置する需要が増え、今年の7.4%に続き、21年は7.8%増。センサーの分野ではIoTのさらなる普及が牽引役になる。

20201201WSTS地域別市場予測
20201201WSTS地域別市場予測

ファーウェイ排除で息を吹き返した中国の3大スマホ

 昨年から今年にかけてはコロナ禍以上に米中対立が半導体需要に深刻な影響を及ぼした。とりわけファーウェイに対する米国の製造装置や半導体製品の出荷禁止、世界最大の半導体製造受託企業である台湾のTSMCとの取引禁止など、ファーウェイに対する兵糧攻めは、同社を主要顧客とするソニーやキオクシアなどの業績に大きな影響を及ぼした。

 しかし、中国にはファーウェイに続くスマホメーカーとしてOPPO、Vivo、小米(シャオミ)などの有力メーカーが力を付けており、中国で来年販売されるこれらメーカーのスマホはすべて5G対応になる。これが世界の半導体需要の追い風になる。

 WSTSの地域別半導体市場予測を見ても全体の62%が日本を除くアジア市場で占められているが実体は中国だ。この中には中国に進出した日米欧の企業も含まれるが、半導体という産業のコメはもはや製造も市場も中国なしには成り立たない構造になっている。

世界最大級の家電IT見本市「CES」に出展した中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)のブース=米ネバダ州ラスベガスで2020年1月、中井正裕撮影
世界最大級の家電IT見本市「CES」に出展した中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)のブース=米ネバダ州ラスベガスで2020年1月、中井正裕撮影

世界の半導体市場をけん引するのは中国

 トランプ政権によるファーウェイ排除の動きは、世界の半導体市場に冷や水を浴びせたが、その結果、ファーウェイに続く中国3大スマホメーカーを再び勢いづかせるきっかけをつくったようにも見え、これが結果的に世界の半導体市場の成長をけん引する一つの要因になる。2021年はそんな年になるかも知れない。

(電子デバイス新聞編集長・津村明宏)

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