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コロナ感染拡大は本当に「GoToキャンペーン」のせいだったのか Googleのビッグデータを分析してわかった意外な真相

GoToトラベルに東京発着の旅行が適用された初の週末、旅行客らでにぎわう国内線出発ロビー=羽田空港で2020年10月3日午前9時31分、滝川大貴撮影
GoToトラベルに東京発着の旅行が適用された初の週末、旅行客らでにぎわう国内線出発ロビー=羽田空港で2020年10月3日午前9時31分、滝川大貴撮影

 新型コロナウイルスの第3波が深刻さを増している。「冬の乾燥に加え、GoToキャンペーンなどによって感染が拡大した」という見方もある。では実際に、私たちの行動と感染者数の増減にはどのような関係があるのだろうか。グーグルのビッグデータを使って分析してみた。

小売店・娯楽施設の訪問件数で分析

 分析に取り掛かった11月11日時点で、累積感染者数が最も多い都府県は東京・大阪・神奈川・愛知で、いずれも7000人を超えている。最も少ない4県は岩手・鳥取・秋田・山形の4県で、それぞれ100人以下だ。まず、在住する地域の感染者数の多少は、人々の行動量に影響を与えているかどうか、調べてみよう。 使用するのは、グーグルが公開している「COVID-19 コミュニティモビリティレポート」だ。

 スマートフォンの位置情報をオンにしているユーザーの行動を地域別に集計したもので、特定の場所への訪問数について、コロナの感染拡大前の1月3日から2月6日までの曜日別中央値からの増減率を示している。

 データの解釈には注意が必要だが、ある程度全体像を表していると考えてよいだろう。指標はいくつかあるが、今回は「小売店・娯楽施設」への訪問数を分析することにする。

 図1を見ると、東京をはじめ感染者多数の地域の人々は、比較的行動を自粛しているが、感染の少ない4県の人々は6月以降には1月並みの行動をしていることが分かる。

視点争点・図1
視点争点・図1

 在住する地域における感染者数の多少が、人々の行動量に影響を与えているといえる。

 時おり、行動量が突出して多くなっているように見えるところがあるが、それは平日が祝日などで休みになっている日だ。

 同じ曜日別中央値からの増減率でも、平日と休日では当然数字は異なってくる。

行動と感染には正の相関

 感染が拡大すると、人々は公共交通機関を避け、外出を控える。つまり「感染」が「行動」に影響を与える。

 一方、人々の行動が活発になると、感染が拡大する恐れがある。日本では緊急事態宣言が解除された5月中旬以降と、「GoTo」が本格始動した10月以降がよく例に挙がるが、こちらは「行動」が「感染」に影響を与えることになる。

 それぞれの関係を確かめるには、「相関係数」を計算するのが効果的だ。相関係数は相関の強さを示す指標で、マイナス1からプラス1の間の値で示される。

 二つの変数が連動して同じような動きをする場合にプラスの値、逆の動きをする場合にマイナスの値となる。

 ただし、相関係数がどの値を超えれば統計的に信頼でき「相関がある」と言えるのかを示す「基準値」は、データサンプル数の大小によって異なる。

 2月29日から10月23日までの238日間の日次データで、日本全体の小売店・娯楽施設への訪問者数と新規感染者数との相関は0.171だ。90%信頼できる相関の基準値0.107を超えている。つまり「行動」と「感染」の間に正の相関があるといえる。

14日前の行動と当日の感染を見る

 ただし、両者の「因果関係」を示すには、時間のズレを考慮する必要がある。

 人々のある日の行動量が急激に増えたからといって、その日の新規感染者数は急には増えない。潜伏期間もあるため、影響が出るのは少なくとも数日後だ。

 今回は、海外からの帰国者への14日間待機などの措置に照らし合わせ、14日前の「行動」と当日の「感染」の相関を見る。

 行動量が増えて感染拡大する場合も、行動量が減少して感染が縮小する場合も、「行動」と「感染」に関係があればプラスの相関が確認できるはずだ。

 一方、ある日の感染拡大は夕方前に認識されるので、翌日以降の人々の行動に影響を与えると考えられる。つまり前日の「感染」と当日の「行動」の相関を見ればよい。感染拡大で行動量が減少する場合も、感染縮小に安心して行動量が拡大する場合も、「感染」と「行動」に関係があればマイナスの相関が確認できるはずだ。

 このように時間軸をずらして計測する相関を「交差相関」と呼ぶ。

 図2では、「14日前の行動量」と「新規感染者数」の交差相関、「前日の新規感染者数」と「行動量」の交差相関について、それぞれの日から過去30日間分を計算したうえで、その変化を見ている。5月1日の「行動⇒感染」の相関係数は、3月19日から4月17日までの「行動」と4月2日から5月1日までの「感染」の因果関係の強さを示す。

 このケースでは90%信頼できる相関の基準値はプラス0・36(点線)とマイナス0・36(鎖線)であり、点線を上回れば正の相関、鎖線を下回れば負の相関があると言える。

視点争点・図2
視点争点・図2

第3波でも自粛しなくなった国民

 導き出されるのは次の3点だ。

 ①人々の行動量が感染拡大につながっているのは、4月第1週、5月前半、7月前半、そして11月中旬だ。

 4月第1週に相関係数が0・36を超えているということは、過去1カ月間(すなわち3月中)について、それぞれの日の2週間前の人々の行動量の増加が、その日の新規感染者の増加につながっていることを示す。

 直近の11月中旬について言えば、10月の1カ月間の人々の行動が、10月中旬から11月中旬の感染の拡大につながったことになる。

 ②感染拡大が人々の行動を自粛させていたのは、おおむね4月初頭から6月中旬まで。すなわち、30日間さかのぼる3月初頭から6月中旬程度まで、人々は前日の新規感染者数が増加すると行動を自粛し、感染者数が減少すると行動量を増やしたことになる。しかし、第3波とも呼ばれる現在の感染拡大期において、人々が特別に行動を自粛しているとはデータ上は確認できない。

行動⇒感染拡大の相関関係も弱くなった日本

 ③8月~11月は少なくとも「感染拡大⇒行動自粛」の確かな関係は読み取れない。「行動⇒感染拡大」についても、11月14日から11月16日の3日間を除けば、関係は弱いと言える。

 コロナの新しい生活様式に慣れたとも考えられるし、「GoTo」の導入などによってこれまでと異なる行動パターンに移行したとも考えられる。

 12月に入り、日本各地で新規感染者数が急増している。ここで分析してきた「行動」と「感染」の日本における関係が、全く異なる局面に突入する可能性もあり得る。

◆◆◆米国は大統領選激戦区で「行動」と「感染」が連関◆◆◆

トランプ氏が選挙に勝ったと主張し連邦最高裁判所に向かって行進する支持者ら=米ワシントンで2020年11月14日、高本耕太撮影
トランプ氏が選挙に勝ったと主張し連邦最高裁判所に向かって行進する支持者ら=米ワシントンで2020年11月14日、高本耕太撮影

 新型コロナウイルスの累積感染者数が12月6日時点で最も多い米国では「感染」と「行動」の関係がどうなっているのか。こちらでもグーグルのビッグデータを基に分析してみよう。

感染者の多い5群は行動を自粛

 グーグルの米国のデータは、州よりも一段階小さい地域である郡(County)別に分析が可能だ。そこでまず、感染者数の多い5群と感染者数の少ない5群について、行動量を比較してみた。

 最も累積感染者数が多い5郡は、ロスアンゼルス郡(カリフォルニア州)、クック郡(イリノイ州)、マイアミデイド郡(フロリダ州)、マリコパ郡(アリゾナ州)、ハリス郡(テキサス州)であり、全て累積感染者数が10万人を超えている。

 累積感染者数が少ない5郡として、感染者の多い5郡と同じ州にあって、感染者数が1000人を超え、かつその中で最も少ない郡を選んだ。テハマ郡(カリフォルニア州)、ファイエット郡(イリノイ州)、マディソン郡(フロリダ州)、グラハム郡(アリゾナ州)、ウイルソン郡(テキサス州)だ。

 米国でも、感染の多い地域と少ない地域で人々の行動量が大きく異なる点は、日本と同様だった。

視点争点・図3
視点争点・図3

トランプ大統領の感染に反応した米国民

 次に、交差相関を使って行動と感染の相関・因果関係をみてみよう。

 6月末から7月中旬の期間に、行動量の増加と感染者数に強い相関がみられる。つまり5月中旬から6月半ばにかけての行動が感染拡大を引き起こしていると考えられる。

 また、3月当初から始まったロックダウンの期間には、感染拡大が自主的な行動自粛をもたらしていることも分かる。

 しかし、その後は、感染拡大によって行動を自粛した気配はみられない。

 ただし、トランプ大統領がコロナに感染して入院したことは国民意識に変化をもたらしたようだ。入院は10月2日だが、11日以降、国民は感染拡大に敏感に反応し、行動を自粛していたことがデータから読み取れる。

視点争点・図4
視点争点・図4

マスクをつけず集会に集まる国の行動と感染

 群ごとに同じ分析を試みると、アリゾナ州のマリコパ郡やフロリダ州のマイアミデイド郡で、大統領選の選挙活動が活発になった10月中旬に「行動⇒感染」の関係が確認された。いずれも、中南米系の人々が多く暮らし、今回の大統領選で激戦が伝えられた地域である点は興味深い。

 今回分析した行動量には、季節性や地域性、マスクやソーシャルディスタンスの浸透度のような質的要素が加味されていない。マスクを付けずに大規模集会に集まる国の「行動量」のデータと、感染対策を意識して経済を回そうとする国の「行動量」のデータでは、大きく意味が異なると信じたい。

(吉田裕司・滋賀大学経済学部教授)

◇筆者略歴

よしだ・ゆうし 1968年京都府生まれ。米Wheeling HS高校、神戸大学経済学部卒業、大阪大学経済学研究科修了。経済学博士。九州産業大学経済学部教授を経て、2012年から現職。専門は国際金融・国際経済。

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