揮発油税が消える「ガソリン車ゼロ」の衝撃 コロナ禍とEVシフトで大増税時代が来る!
東京都が2030年までに都内でガソリン車の販売を禁止する方針を示したことで日本中に衝撃が走っている。ハイブリッド車(HV)は除かれるものの、これでEV(電気自動車)シフトが始まるのは確実だ。しかしいま世界の財政は新型コロナウイルス対策でひっ迫。ここにガソリン税を取れないEV社会が到来すれば、世界の財政はさらに縮み上がる。脱炭素社会は、大増税に向き合う時代を覚悟しなければならないかもしれない。
米国は過去最大の財政赤字330兆円
内閣府の中長期試算では日本の今年のGDPは40兆円の減少、国の一般会計での歳出と税収との差額は100兆円以上に膨らむ見通しだ。コロナの影響だ。米国はさらに悲惨で、2020年度の財政赤字は過去最大の330兆円。この大変な状況の中で、世界はいま「脱炭素」に向けて急速に動いている。つまりガソリン税をとれない世界が始まろうとしているのだ。
そうはさせじとEV(電気自動車)の普及に最も積極的なカリフォルニア州で、すでに大増税時代が始まろうとしている。
カリフォルニア州のEVシフトに追随する22州
米国の場合、1ガロン(約3.6リットル)のガソリンにかけられる税金は連邦政府のものが18.4セント、ディーゼルでは24.4セント。これに加え各州が独自の燃料税を設置しており、なかには州の売上税を加算するところもある。
カリフォルニア州はその中でも州税率が高く、ガソリンには61.2セント、ディーゼルには86.93セントの税金がかかる(ガソリンには2.25%、ディーゼルには9.25%の売上税適用を含む数字) そのカリフォルニア州、全米でいち早く2035年にガソリン・ディーゼル車両の販売禁止の方針を打ち出した。
これに追随しようという州が現時点でニューヨーク、コロラド、マサチューセッツなど22州に上っている。バイデン政権が誕生すれば、これが国の方針となる可能性は極めて高い。
EVに続きトラック、バス、鉄道で水素燃料
EV(電気自動車)メーカーであるテスラの躍進が度々報道され、大手自動車メーカーも次々にEVモデルを発表、さらに新興のEVメーカーも続々登場している。
大型の輸送トラックやバス、鉄道では水素を使った燃料電池の導入も盛んだ。この水素からも燃料税はとれない。
EV普及をはじめとする脱炭素の動きは、コロナで疲弊した国や地域経済にとって、大きな打撃になるのだ。大気など環境の改善、新しいエネルギー源の開発、インフラ充実など経済を刺激する効果がある反面、ガソリン税という大きな税収減が失われることになるためだ。
米国の燃料の税収は360億ドル
連邦政府の燃料による税収は360億ドル以上にのぼるが(連邦政府の税収は2020年見込みで3兆7100億ドル)、1ガロンあたり18.4セントという税額は1993年以降値上げされておらず、以前から引き上げるべき、という議論があったが、今回のコロナによる赤字の拡大でほぼ確実に引き上げられることになるだろう。
カリフォルニアは7月に燃料増税
まず州単位ではカリフォルニアがすでに今年7月に3.2セント税額の引き上げを行った。それでも道路行政は大幅な赤字を抱えているのが現状だ。
EV登録費用徴収の動きも
米国のいくつかの州では、EVに対する登録料を設定している。EVも車である以上道路を使用する。利用者負担の原則に従い、ガソリン税を支払わない分別の形で徴収しよう、という考えだ。カリフォルニア州ではEV購入時に100ドルの登録費が生じ、また1年毎の車両登録費用(自動車税)に最大で175ドルが加算される。テキサス州でも現在登録費200ドルと車両登録費用の加算が検討されている。
税収には足りずEV普及の足かせの懸念も
しかしまだ台数がガソリン車に比べて圧倒的に少ないEVに登録費を設けても税収の足しにはならない、逆に登録費によりEV購入数が10-24%減少する、という試算を出しているのはカリフォルニア大学デービス校。
ブラウン前知事が掲げた「2030年までに州内のEVを500万台にする」という目標を達成するには、こうした登録費は大きな妨げになる、と指摘している。
道路財源が足りない連邦政府
一方で連邦政府の年間の道路整備予算はおよそ500億ドル。今年は85億ドル分の新規道路、橋梁建設などが延期あるいは中止となった。コロナにより在宅勤務が増え、来年以降も燃料税は減少する見込みだ。
このため各州は今後さらなるガソリン税の引き上げ、高速道路の有料化、車両登録費用の増額などで対応せざるを得ない状況になっている。今は米国を始め各国でEV普及のための補助金が支払われているが、ひとたびEVが普及すれば新たな自動車税が導入されてもおかしくない。
米国で始まった行政サービスと福祉の切り捨て
もちろん不足しているのは道路財源だけではなく、米国では行政サービスの低下や福祉の一部切り捨てが始まっている。来年以降には売上税の税率引き上げを行う州も増えるだろう。コロナにより失われた税収を補填するためには、大増税もやむなし、と考える自治体は多い。
狙われる地方揮発油税
日本も同様だ。コロナによる事業への持続金給付、失業手当、生活保護受給世帯の増加などで各自治体は大幅な財政赤字となっている。ここからの回復を目指し、さらに十数年後に訪れる地方揮発油税の減少を組み込むと、残された選択肢は「取れるところから取る」という増税となる。
日本の税収の4%を占める燃料税
日本では年間の燃料税収入は国税、地方税を合わせて4兆3000億円以上である(表参照)。ガソリン1リットル当たりの税率は45.6%だ。これは国の税収全体の4%程度を占めている。特に地方にとって揮発油税は大きな財源となっており、ここが縮み上がればただでさえ疲弊している地方経済は息の根を止められるかもしれない。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)