法務・税務税務調査 コロナでも容赦なし!

コロナ「中断」から再開 効率化で申告漏れ次々指摘=種市房子

     <コロナでも容赦なし!>

     新型コロナウイルスの感染拡大で中断していた国税当局の税務調査。今年10月から本格的に再開し、限られた時間の中で短期決戦に臨んでいる。傾向として目立つのは、より確実に申告漏れを指摘できる先を調査対象に選定し、効率的に成果を上げようとしていることだ。「コロナだから税務調査は来ない」「調査が甘くなるのでは」と考えるのはあまりに早計だ。(税務調査)

     調査再開から間もない10月初旬、首都圏のある卸売会社A社に税務調査が入った。もともと今年2月に税務署から調査の連絡を受けていたが、社長が「コロナの影響があるので、今は控えてほしい」と伝えると、あっさりと引き下がったという。それから8カ月。コロナの感染が落ち着きつつあった時期だけに、社長にはさらに税務調査の延期を求める理由はもうなかった。

     実は、税務署が当初調査していたのは、A社が商品を卸す取引先のB社だった。B社の法人税の申告書などを調べたところ、A社が申告している売り上げと整合しない部分があったという。税務調査当日は午前10時、マスク姿の国税調査官の男性が1人で来社。A社社長や顧問税理士と面談しながら、製品納入の際の請求書や売り上げ台帳を確認していく。

     通常は1〜2日かかる税務調査だが、この日は早くも午後2時ごろには終了。その代わり、社長の了解を得て過去の売り上げ台帳、請求書、源泉徴収簿などの資料を風呂敷に包み、車に積んでごっそりと持ち帰っていった。税務調査に立ち会った税理士は「コロナの影響で、現場で調査する時間を極力、短くしようとしていたようだった」と振り返る。

    「追い込み時期」を棒に

     現場での税務調査から約2週間後、税務署からA社に「社長の個人口座に、B社からの売り上げの一部が入金されているのでは」との指摘があった。税務署はA社の口座に加え、社長の個人口座の資金の出入りも調べたうえで、A社が売り上げを少なく申告する「売り上げ除外」を疑っているようだ。売り上げを減らせば利益もその分、圧縮され、法人税額も減らせるのだ。

     税理士が社長に事情を聞くと、社長は売り上げ除外を認め、税理士にも申告時に伝えていなかったことが分かった。社長が11月下旬、修正申告の相談をするため税務署に赴くと、通された小さな個室の机の上にはコロナの感染拡大を防ぐ透明のアクリル板が置かれていた。結局、過去数期分の法人税の過少申告を認める調書に署名。個人口座を使ったことが仮装・隠蔽(いんぺい)に当たるとして、数百万円の重加算税も課されることになった。

     国税庁の1年は毎年7月に始まり、6月に終わる「事務年度」が単位だ。新年度が始まると税務調査の対象先をリストアップし、お盆明けから調査に着手。年明けの確定申告時期をはさみ、6月まで追い込みに入るという流れだ。しかし、今年はコロナの影響で、追い込み時期の調査がストップ。税務調査の件数は大幅な減少を余儀なくされた。

     実際、国税庁が今年11月に発表した2019事務年度(19年7月〜20年6月)の法人税の税務調査件数は、7万6000件と前年度比22・9%の大幅減。また、所得税の調査件数も約5万9700件と同18・9%も減少した。しかし、調査中断の間、事前の情報収集によって念入りに調査対象を選定したとみられ、税理士の間では「効率的に調査を進めるため、より確実に申告漏れを指摘できる先を選んでいる」との見方が広がる。

    狙われる「1億~3億円」

    申告漏れには税務署が目を光らせている (Bloomberg)
    申告漏れには税務署が目を光らせている (Bloomberg)

    「より確実に申告漏れを指摘できる先」という意味では、税理士に依頼せずに納税者が自分で申告するケースは、税務署の格好の調査対象だ。自分で相続税の申告書を作成した関西地方の男性は今年10月、税務調査を受け、5000万円の定期預金の申告漏れを指摘された。同じく相続人となった母ときょうだい2人の申告書も男性が作成したため、全員まとめて申告漏れとなった形だ。

     男性の父親が18年に亡くなって相続が発生したが、税理士なら被相続人(亡くなった人)の取引金融機関に照会を掛け、被相続人名義の預金がないかどうかなどをくまなく調べる。男性は家の中にあった通帳しか確認していなかったが、申告漏れを指摘された定期預金は「預金証書」のみを発行するタイプ。預金証書の存在に気付かず申告を漏らした結果、相続人4人合計で数百万円の過少申告加算税を課されてしまった。

     この相続税の申告では、相続財産の総額は自宅不動産や金融資産など合計で約2億円だった。実は、相続財産で「1億〜3億円」の層は、相続税の税務調査のターゲットとなりやすい。税理士法人タクトコンサルティングが情報公開請求で入手した国税庁資産課税課の「資産税事務処理状況表」によれば、相続財産「1億〜3億円」の層への18事務年度の税務調査件数は6148件と、全体(1万2463件)の約半数を占めている。

    安易な策で高いツケ

     また、同じ「資産税事務処理状況表」のデータからは、相続財産「1億円未満」の層への調査が厳しくなっていることも読み取れる。「1億円未満」の層への税務調査件数は18事務年度、2738件となり、14事務年度の909件に比べて3倍に増えている。全体の調査件数がこの間、微増にとどまっているのに比べると、その伸びの大きさが際立つ。

     相続財産の申告漏れの額でも、「1億円未満」の層は18事務年度、936億5500万円と、14事務年度に比べて4倍超。一方、全体では18事務年度が3537億5100万円と、14事務年度に比べて7%増にすぎない。こうした相続財産が相対的に小さい層には、15年からの相続増税により基礎控除が4割引き下げられたことで、新たに課税対象となった人が少なくない。

     相続財産が相対的に小さい層は、顧問税理士を抱えてしっかり対策を取る、相続財産で10億円を超すような超富裕層と異なり、税理士への報酬などをできるだけ少なく済ませたいと考えがちだ。安易な節税策や自己申告に走った結果、後々に高いツケを払うことになりやすい。税金の申告では、プロの目には一目瞭然でも、素人には思いもつかないような落とし穴が数多く待ち受ける。

     コロナが今、三たびの感染拡大を迎えつつあり、今後の税務調査の展開は予断を許さない。しかし、一度つかんだ申告漏れの兆候は、国税当局が見逃すはずもない。遅かれ早かれ、税務調査は必ずやってくる。

    (種市房子・編集部)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    2月2日号

    ガソリン車ゼロ時代第1部 激変する自動車産業22 EVで出遅れる日本 市場奪取へ勝負の10年 ■市川 明代/白鳥 達哉26 図解・日本の雇用 製造から販売まで、2050年に80万人減も ■白鳥 達哉28 ガソリン車よりエコ! 生産から廃車まで、EVのCO2排出は少ない ■桜井 啓一郎31 インタビュ [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事