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キリンビールが通年でも11年ぶりに首位を奪還、ついにあきられたスーパードライ

ビール類市場は昨年まで15年連続で縮小(Bloomberg)
ビール類市場は昨年まで15年連続で縮小(Bloomberg)

 2020年のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)メーカー別シェア(市場占有率)で、トップメーカーがどうやら入れ替わった。取材を基に独自で集計すると、前年通期で2位だったキリンビールが37・0%を獲得。35・4%のアサヒビールを抜き2009年以来11年ぶりに首位に返り咲いた。

コロナで激減した飲食店向けビール

 新型コロナウイルス感染拡大から飲食店向け需要が激減。ビールの「スーパードライ」を中心に業務用に強さをもつアサヒは販売量を減らした一方で、キリンは第3のビールを中心に家庭用を伸ばした。本誌は既報したが、昨年上期(1月~6月)でキリン37・6%に対しアサヒ34・2%と3・4ポイント差で逆転を果たしていて、通期でもそのまま逃げ切った。

 一昨年まで首位のアサヒは、昨年から販売数量の公表をやめ、売上金額の公表に切りかえた。「過度なシェア競争を避けるため」(アサヒ)とし、ビール「スーパードライ」など主要な3製品だけ販売数量を明らかにしている。これに対し、キリン、サントリービール、サッポロビールの3社は、引き続き販売数量を公表している。

 昨年のビール類市場はコロナ禍に直撃され、販売数量は「19年比で9%減少した」(キリン、サントリー、サッポロ)とされる。

 縮小は16年連続となったが、ここから導かれる大手4社の昨年の販売数量は3億4996万箱(1箱は大瓶20本換算)。

 このうちキリンは前年比4・5%減の1億2941万箱でシェアは37・0%(前年は35・2%)、サントリーは同11・0%減の5675万箱でシェアは16・2%(同16・5%)、サッポロは8・1%減の3995万箱でシェアは11・4%(同11・3%)。アサヒは4社の合計からアサヒを除く3社の合計を引いた同12・8%減の1億2385万箱と推計され、シェアは35・4%(同36・9%)。

巣ごもりで伸びた第3のビール

 昨年の市場は、大半を家庭で消費される第3のビールが同3%増えた一方で、コロナ前までは飲食店でほぼ半数が消費されていたビールが同22%も減ってしまった。

 19年のビール類に占めるビールの構成比は47・6%で、第3のビールは40・3%だったが、昨年はビール40・8%に対し第3のビールが45・7%となり、初めて構成比が逆転した。

 スーパードライの昨年の販売数量は6517万箱で前年比22%減。コロナ禍による飲食店需要の激減に、大きく影響を受けた格好だ。

 10月には酒税改正があり、350ミリリットル当たりの税額はビールが7円減税されて70円に、第3のビールは9円80銭増税されて37円80銭となった。このため、「10月から12月の3カ月間で、(主に家庭で消費される)缶容器のスーパードライが6%増と、明るい兆しが見えた」(塩澤賢一アサヒ社長)と指摘。また、シェア逆転については「数量発表をやめたのでコメントを控える。ただ、自社の翌月数字も読めない状況なので、他社動向には気が回らない」(同)と話す。

スーパードライ失速の真因

 それでも、大手小売の首脳は次のように指摘する。

「スーパードライ失速は、消費者から商品が飽きられたのが真因。コロナ禍で大きく露呈した。かつて6割のシェアがあったキリンラガーも、味を変更(1996年)したのをきっかけに飽きられて急落していった。大きなブランドは、必ず消費者から飽きられていく」

 16年のスーパードライの出荷量は1億箱。販売数量との比較になるが、17年から20年までの4年間で3483万箱が減った。これはサッポロの昨年販売量の約9割に相当する。

 第3のビール「クリアアサヒ」も16年には3548万箱の出荷量があったのに、昨年の販売量は1768万箱(前年比6・2%減)と半減してしまった。

 対するキリンは昨年、同じ第3のビールである「本麒麟」を1997万箱販売し前年比32・0%増と大きく伸ばし、クリアアサヒを逆転し明暗を分けた。コロナ禍で先が見通せないなか、新たなブランド創出がアサヒには求められていく。

酒税統一で強み失う第3のビール

 一方のキリンも、体制は盤石ではない。ビール、発泡酒、第3のビールと現在も三層ある税額は、酒税改正により23年10月を経て26年10月に350ミリリットル当たり54円25銭で統一される。

 つまり、ビールは減税され、キリンが強みをもつ第3のビールは増税されていき価格優位性を発揮できなくなっていく。家庭向けのブランドをいかに再強化していくのかは課題だ。

 さらに、キリンが大手流通から生産を請け負っている第3のビールのPB(プライベートブランド)は、年間1000万箱を超えると見られる。依存度は大きく、契約が打ち切られたら一気のシェアダウンを招く心配はある。

(永井隆・ジャーナリスト)

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