経済・企業 スクープ
キリンが首位奪還、11年ぶりにアサヒ抜く ビール類シェア=永井隆・ジャーナリスト
ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の上半期(1~6月)メーカー別シェア(市場占有率)で、どうやらトップメーカーが入れ替わった。取材を基に独自で集計すると、前年同期で2位だったキリンビールが37・6%を獲得。34・2%のアサヒビールをかわし、2009年にトップとなって以来、11年ぶりに首位を奪取した。新型コロナウイルス感染拡大で外食を手控える人が多く、業務用に強いアサヒビールの販売数量が減少した一方で、キリンが家庭向けの第3のビールなどを伸ばしたことが要因とみられる。
昨年まで業界首位のアサヒは、今年から販売数量の公表をやめ売上金額を公表している。「過度なシェア競争を避けるため」(アサヒ)とし、ビール「スーパードライ」など主要な3製品だけ販売数量を明らかにしている。これに対し、キリンやサントリービール、サッポロビールの3社は、昨年に続き公表している。
ビール類市場は昨年まで15年連続で縮小。更に今年はコロナ禍で、上半期の販売数量が前年同期比で「1割減少した」(キリン、サントリー、サッポロ)とされる。
ここから導かれる大手4社の上期の販売数量は1億5990万箱(1箱は大瓶20本換算)。そのうち、キリンは前年同期比4%減の6013万箱でシェア37・6%。サントリーは同11%減の2683万箱でシェア16・8%。サッポロは同7・0%減の1824万箱でシェア11・4%。アサヒは、4社の合計から3社(アサヒを除く)の合計を引いた同16%減の5470万箱と推計され、シェアは34・2%となる。
アサヒは昨年上半期、6527万箱を販売しシェア36.7%。6264万箱でシェア35・3%だったキリンと1・4ポイント差をつけて10年連続首位だった。キリンが通期でも首位を確保すれば、やはり09年以来となる(なお、09年はいずれも出荷量での順位)。
コロナ感染拡大で目算狂ったアサヒ
今年10月には酒税法改正があり、350ミリリットル当たりの税額は、ビールは7円減税されて70円に、第3のビールは9円80銭増税されて37円80銭となる。このため、アサヒはスーパードライを中心とした「ビールに特化」を年初から打ち出していた。ところが、コロナ禍が目算を狂わせた。
上半期は市場全体で、大半を家庭で消費される第3のビールの販売数量が伸びた一方、コロナ前までは飲食店で約半数が消費されていたビールは約26%減った。
大手4社のビール類の構成比では昨年、ビール47・6%、発泡酒12・0%、第3のビール40・4%。ビールが5割前後なのはここ数年変わらず、ビールの半数は業務用だった。
しかし、コロナ禍で今年上半期にはビールが38.0%に縮小した一方、第3のビールは48.7%に跳ね上がり、構成比が逆転。政府による緊急事態宣言により飲食店が相次いで休業した4月に限ると、ビールの構成比は3割弱にまで落ちていた。
コロナ禍で生じたライフスタイルの突然の変化を前に、アサヒ伝統の“スーパードライ一本足打法”が通用しなかった。スーパードライの上半期の販売数量は同26%減の2787万箱だった。
9日に会見した布施孝之・キリンビール社長は「(アサヒが販売数量を明らかにしないため)シェアを語れない」と話した。しかし、エコノミスト誌の単独インタビューでは「手応えを感じている。環境変化に対応するブランド戦略が奏功し、ピンチをチャンスに変えられた」と語っている。
(永井隆・ジャーナリスト)