原油 年間通じて上昇基調に 中東緊迫なら60ドル台も=佐藤誠
WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格で、現在1バレル=40ドル台半ばにある原油価格は、2021年年間を通じて上昇基調をたどると予想している。
20年11月20日に米国製薬大手ファイザーが米食品医薬品局(FDA)に新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可申請を行った。英国政府なども同ワクチンの使用を許可した。今後ワクチン接種が世界各国・地域に普及し、新型コロナ感染に対する脅威が低減していくとともに、個人の外出規制及び経済活動制限が緩和、経済が成長軌道に戻り、石油需要の伸びが回復していくと思われる。
米国の増産圧力は緩和
他方で、米国のシェールオイルを中心とする石油生産については、原油価格が上昇し始めたとしても、石油開発に弾みがつくまでには、なおそれなりの期間を要する可能性がある。なぜなら、石油会社が石油開発プロジェクトの採算確保に十分な水準で原油価格が安定したことを確認した後、石油開発計画を策定、掘削及び水圧破砕を実施し生産を開始する、といった段取りとなるためだ。
また最近では、投資家や資金供給者が収益重視の姿勢を強めているとされ、石油会社の投資判断が慎重になるとともに石油開発活動が遅れ気味だ。この結果、米国からの石油供給の増加が緩やかになる恐れがある。
一方、バイデン氏が米大統領選挙で当選を確実にしたこともあり、今後、米国がイラン核合意へ復帰するとともに対イラン制裁を解除することによりイランからの石油供給が日量200万バレル追加されると見られる他、停戦合意がなされたリビアでは既に日量100万バレル程度、原油生産が増加している。さらにロシアを含むOPECプラス産油国は21年1月に減産措置を今までより日量50万バレル緩和することを決定した。
しかしながら、このような一部産油国の増産を考慮しても、21年後半には世界石油需要が供給を超過することになるものと予想される。実際には、ワクチン接種が広く行き渡るとともに、個人の自動車もしくは航空機を利用した外出及び経済活動が新型コロナ以前に戻るまでには、それなりの時間は必要であろう。だが、将来的に石油需給が引き締まるとのシナリオが以前より明確になってきており、安価なうちに原油を確保しておこうというインセンティブが市場関係者間で働く結果、実際に原油購入が進むとともに原油相場に上方圧力が加わりやすいものと考えられる。
加えて、米国の金融当局は長期にわたり金融を緩和する姿勢を明確にしている。このようなこともあり、株式とともにリスク資産と見なされる原油のような商品市場に、低コストで調達された資金(いわゆる緩和マネー)が流入することにより、原油相場の上昇が増幅するといった動きにもなりやすい。そして、イエメン武装勢力によるサウジアラビアへのミサイル攻撃などの地政学リスク要因等の強気要因が重なるようであれば、1バレル=60ドル、もしくはそれを超過する水準に到達しても不思議ではないものと考えられる。
(佐藤誠・エネルギーアナリスト)