経済・企業

実は「テスラの産みの親」だったGMが世界最大の家電ショーで見せたEVへの本気度とトヨタの欠席

試験走行を行うGMCハマーEV(同社サイトより)
試験走行を行うGMCハマーEV(同社サイトより)

 世界最大の家電ショー、CESラスベガス。今年はデジタルの開催となったが、家電ショーと言いながら、ここ数年はロサンゼルスやデトロイトよりも規模の大きなモーターショーとしても注目を集めている。話題をさらったのがEV(電気自動車)で強烈なラインナップを誇示したゼネラル・モータース(GM)。

CESで基調講演を行うGMのバラ会長(同社の動画より)
CESで基調講演を行うGMのバラ会長(同社の動画より)

 GMのメアリー・バラ会長は基調演説の中で「GMは今後EV(電気自動車)化と自動運転により、ゼロ・エミッション(無公害)、ゼロ・アクシデント(無事故)社会を実現する」と高らかに宣言した。

ピックアップトラップにも対応できる電池を開発

 GMでは今後5年間で30のEVモデルを投入する、と発表、今回のCESではそのベースとなる新しいバッテリー、「アルティメット・バッテリーシステム」とそれを使ったプラットホームを紹介した。希少金属でコンゴ一国に産出が偏るコバルトの使用量を減らし、アルミニウムを用いることでコストの低減を実現させ、薄い板状のバッテリーを平行に並べることでコンパクトかつパワフルなバッテリーセルを作り上げる、という(写真参照)。

1000馬力のGMCハマーEVのプラットフォーム
1000馬力のGMCハマーEVのプラットフォーム

 このセルをつなげたモジュールの数により、コンパクトカーからピックアップトラックまで、様々なモデルに対応することができる。

GMのバッテリーはどんな車にも対応できる
GMのバッテリーはどんな車にも対応できる

テスラを超える1000馬力のスーパートラック

 その例として今回紹介されたのが、まずGMCハマーEVだ。0-60(停止状態から時速100キロ到達)が3秒あまりで1000馬力、トルクは1万1500ポンド・フィートに達する。これはガソリン車のピックアップトラックの10倍にも達するトルクで、まさにスーパートラックだ。

バッテリーシステムを組み込むGMCハマー(GMの動画より)
バッテリーシステムを組み込むGMCハマー(GMの動画より)

 ライバルであるテスラのサイバートラックは0-60が6.5秒だから、ハマーがどれほどパワフルな車なのかが分かる。ハマーは今年10月にも発売が予定されている。

480キロ走行できるEVキャデラック

GMの高級車ブランド「キャデラック」のEV
GMの高級車ブランド「キャデラック」のEV

 GMの高級車ブランドであるキャデラックも、リリックというEVコンセプトを発表。デザインなどがさらにブラッシュアップされたモデルを発表した。

 リリックはリアドライブ、オールホイールドライブの2種類のドライブトレインを持ち、フルチャージ時の航続走行距離は300マイル(約480キロ)となる。

 またスーパークルーズと名付けられた一部自動運転機能を持ち、セルフパーキング、米国内で自動運転に対応できるマッピングされた20万マイル(約32万キロ)に及ぶ道路での手放し走行を提供できるという。さらにドライバーが必要と思ったときに自動でレーンチェンジできる機能もついた。内部はリアシートにもそれぞれ独立したモニターが付き、どのシートにいても個人でエンターテイメントを楽しめるシステム、またフロントガラスにはAR(拡張現実)を使ったヘッドアップディスプレイも用意されている。

究極のラグジュアリーカー

 さらに同じキャデラックから、「究極のラグジュアリーカー」と表現される新しいEV、セレスティックも発売予定だ。セレスティックはまだデザインコンセプト段階だが、全面のガラスパネルルーフは4分割され、それぞれのシートに座る人が好みの光量を調節できるなど、リリックからさらに進んだ個人的な体験、エンターテイメントを可能にする。

シボレーボルトもバージョンアップ

GMのシボレーボルトのEUVコンセプトカー(同社動画サイトより)
GMのシボレーボルトのEUVコンセプトカー(同社動画サイトより)

 GMが現在販売しているEVはシボレーボルトのみだが、ボルトには新たなEUVバージョンが発売予定だ。EUVとはEVとSUV(スポーツ多目的車)を兼ね備えたクルマでコンパクトサイズのボルトがサイズ・アップし、多目的に楽しめるファミリーカーへ成長したものだ。

 そしてGMが持つもう一つのブランド、ビュイックからも近い将来EVモデルが発表される予定だという。ビュイックはクロスオーバー車(都市型SUV)2モデルしか持たないブランドではあるが、ボルトEUVに近いモデルでもあり、EVとしての需要が見込まれる。

中型商用バンでもEV

GMの中型商用バンEV600
GMの中型商用バンEV600

 乗用車だけではなく、GMはEV600と名付けられた中型の商用バン、そしてウェアハウスからデリバリーにまで利用できるライトドロップという自律走行型の運搬パレットまで発表した。コロナによりオンラインショッピングが増えているが、ライトドロップの使用により従来貨物の仕分け効率が25%向上する、という。

世界初の量産EVを出したGMの矜持

 これらが実現すればコンパクトカーからピックアップトラック、商用車両まで、ほぼすべてのEVラインナップが揃うことになり、EVの分野で本格的にテスラを追随することになりそうだ。

 バラ会長は「GMは環境問題に対応した自動車メーカーとしても業界をリードする」と語ったが、GMはそもそも世界初の量産型EVを販売したメーカーでもある。

GMの初代EVはマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『誰が電気自動車を殺したのか』にもなった(米アイダホ・ナショナル・ラボラトリーのサイトより)
GMの初代EVはマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『誰が電気自動車を殺したのか』にもなった(米アイダホ・ナショナル・ラボラトリーのサイトより)

売るほど赤字だったGMの初代EV

 1996年に発売されたEV1は当時大きな話題となった。全体で1000台ほどしか生産されず、販売ではなくリースという形だったが、非常に人気が高かった。

 しかしGMは99年に第2世代を生産開始したにも関わらず、その年で生産を打ち切り、2002年にEV計画を破棄する、と発表。リースされていたEV1は03年にはすべて回収された。理由は様々に憶測されているが、当時のバッテリー技術では航続走行距離が200キロにも到達できなかったこと、生産コストがかかり、売れれば売れるほど赤字になっていたこと、などが挙げられる。

GMの失敗が産んだテスラ

 皮肉にもこのEV1の生産停止に腹を立てて設立されたのがテスラだった。創業時のCEO(最高経営責任者)はマーティン・エバーハードで、まだイーロン・マスクの会社ではなかった。EVはビジネスとして成り立つということを自分の手で証明してみせよう、とした人々がテスラを立ち上げ、初代ロードスターが生まれてその後につながった。

ロサンゼルスの駐車場ではどこでも見られるようになったテスラのEV(撮影:土方細秩子)
ロサンゼルスの駐車場ではどこでも見られるようになったテスラのEV(撮影:土方細秩子)

 それから20年ほどで米国におけるEVはテスラが販売の8割を占めるまでになり、GMが「テスラ・キラー」として投入したボルトも不発に終わった。

 しかし時代はEVに向かっている。

 今度は総合力でテスラを抜き、米国一のEVメーカーの座を本気で狙うGMの覚悟が、今回の基調演説でははっきりと見られた。

 過去数年、CESにはトヨタ自動車が毎年のように記者会見を行ってきたが、今年はその姿は見られなかった。

 EVでテスラに勝とうとする意思を明確に示したGMとは対照的だった。

(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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