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資源・エネルギー 危ない中国

CO2排出量ゼロにより「中国で大量の失業者が発生」する構造問題

中国では数百万人の労働者が炭鉱や石炭火力発電所で働く(Bloomberg)
中国では数百万人の労働者が炭鉱や石炭火力発電所で働く(Bloomberg)

中国の習近平国家主席が昨年9月の国連総会で、2060年までに二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと発表した。

これは発表のタイミングと中身の両方に驚きがあった。

中国は米国の動向を見てからと考えていたが、11月の米大統領選の前の発表だった。大統領選の結果に影響を与える期待もあったのかもしれない。

中身についても、中国のような全体的にはまだ成長途上の国にとって挑戦的な数字だ。

カーボンニュートラルに向けた具体的な取り組みは、中国を含めどの国もこれからだ。

30年から40年先の話の予想は難しい。ただ、50年に世界全体でCO2の排出量をゼロにしないと、パリ協定の目標(産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える)は達成できない。

米国や日本と違い、中国は一党独裁の長期政権なので、政治家が言うことが変わることはない。その意味では政策には継続性がある。

また一党独裁の専制主義的なところがあり、政府が指示すれば、国民は従わざるを得ない。今回の発表は思いつきではない。

石炭火力が5割超

かつては、中国のエネルギー消費量やCO2の排出量はまだまだ大きく増加すると考えられていた。

しかし、実際には13年ごろから石炭の消費量が横ばいになっている。その理由は、PM2.5(微小粒子状物質)で大気汚染がかなりひどい状況に陥ったためだ。

そのため、大都市で石炭の使用を抑制した。すなわち、大方の予想に反し、現在の中国では石炭の消費量やCO2の排出量は微増にとどまっている。

ただ、石炭火力発電所は今でも多い。中国の発電量の5〜6割は石炭火力だ。

世界の温暖化問題は石炭の問題であり、石炭の問題は中国の問題と言えなくもないが、中国当局は石炭火力発電の今後の方針について減らす方向性は示しているものの、具体的なロードマップは明らかにしていない。

一方で、中国での再生可能エネルギーの普及は一般に考えられているより、速いスピードで進んでいる。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー分野の投資額は、中国が約901億ドル(19年)と世界トップ。

太陽光パネルの市場シェアでも中国企業が8割を占めている。風力も世界の3番手がゴールドウインド、5番手がエンビジョンといずれも中国企業だ。

今後、中国の企業がシェアをさらに高めるだろう。この先、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の分野で、中国企業が世界市場を牛耳っている可能性は十分あり、当然、企業も政府もそれを考えている。

ただ、CO2排出量の実質ゼロは技術的にも簡単ではない。今の技術では90%ほどしか削減できない。

飛行機と船舶、長距離トラック、鉄鋼などの分野は、石炭や石油といった化石燃料を使用せざるをえないからだ。

石炭の代わりに水素を利用して鉄をつくる技術や水素燃料旅客機が実用化されないと、どの国でも100%削減は不可能だ。

中国は豊かになり、食べ物や大気といった問題を重要視するように国民の意識も変わっている。一方、今でも何百万人という人たちが炭鉱や石炭火力発電所で働く。

カーボンニュートラルを進めれば、大量の失業者が発生することは必至だ。

補償をどうするか、雇用転換をどのように進めるか。そして労働者の不満をどのように抑えるか。これらの難題が中国政府に突きつけられている。

(明日香寿川・東北大学教授)

(本誌初出 CO2排出「ゼロ」 再エネ、EVで主導権の思惑 待ち受ける「大量失業」の難題=明日香寿川 20210119)

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