国際・政治危ない中国

ついに「戦争に備える」と宣言……人民解放軍の進める軍備拡張の真実

習近平氏が「戦えるようになれ、勝てる戦いをしろ」と号令をかける(Bloomberg)
習近平氏が「戦えるようになれ、勝てる戦いをしろ」と号令をかける(Bloomberg)

中国共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中全会)が2020年10月26〜29日に行われ、「国民経済および社会発展第14期5カ年計画並びに35年長期目標に関する中共中央の建議」(建議)を審議し採択した。

「建議」は、初めて「27年の(人民解放軍)建軍100年奮闘目標の実現を確実にする」ことを提起している。

この中で「戦争に備える」という表現が用いられ、許其亮中央軍事委員会副主席が「受動的な戦争への対応から主動的な戦争の設計への転換」を指示した。

これを受けて、日本や欧米諸国で中国の軍事力行使に対する懸念が示されたが、軍事関連の内容には必ずしも高い優先順位が与えられていない。

「建議」で挙げられた15項目のうち、「戦争に備える」と「27年の建軍100年奮闘目標の実現を確実にする」という記述を含む「国防および軍隊の近代化」の項は14番目である。

15番目の項が総括であることを考えると、実質的に最後に述べられたということだ。

また、「戦争に備える」という意味の表現は、今回の「建議」で初めて用いられたものでもない。

例えば、20年5月に開催された全国人民代表大会の人民解放軍および武装警察部隊代表団全体会議に出席した習近平国家主席は、講話の中で「軍隊は訓練して戦争に備える活動を全面的に強化しなければならない」と、「建議」と同様の表現を用いた。

さらにさかのぼれば、習氏は中国共産党中央委員会総書記に就任したばかりの12年12月初旬、広州軍区(当時)を視察し、「戦えるようになれ、勝てる戦いをしろ」と号令をかけ、「軍事闘争準備を進めろ」と指示。

15年11月からは大幅な再編を伴う軍の改革に乗り出している。

それでも、「27年の建軍100年奮闘目標」が「建議」の中で初めて掲げられたことは、習近平指導部の危機感を示唆するものである。

中国は建国以来、米国やソ連の武力侵攻を恐れてきた。

現在、中国が恐れるのは米国である。

中国は、自らのGDP(国内総生産)が米国のGDPの60%を超えれば、米国は必ず中国の発展を妨害すると考えており、その手段には軍事力が含まれるとしている。

中国はそのことを日本やソ連の経験から学んだという。

中国のGDPは14年に米国の60%を超え、米国の武力行使は現実のものとなった。

「情報化」「智能化」加速

単純化して言えば、中国指導部が人民解放軍に求めているのは、党の指揮への服従および近代化である。

近代化は時代によって内容が変化してきた。

1950年代半ばまでの人民解放軍は「わらじばき」と言われ、徒歩による移動および補給を主としていた。

それ以降、指揮官は騎乗し、牛馬による物資の輸送が行われる「ラバ化」、60年代終盤から、車両による兵員・物資輸送という「モーター化」が進み、84年には初の「機械化」集団軍が編成された。

機械化は特に陸軍を対象としたもので、旧来兵器の新型兵器への転換を意味している。

現在、人民解放軍が進めるのは「情報化」である。

情報化は、情報通信技術を駆使した武器装備品の採用や、C2(Command & Control=指揮・命令)の改善などを内容とし、米軍の「ネットワークを中心とした戦闘」の概念に近く、「デジタル化」「ネットワーク化」とも言える。

さらに、19年7月に発表された中国の国防白書では「智能化を加速する」とも示された。

「智能化」とは情報化にAI(人工知能)やビッグデータを融合して高度に自動化された武器体系および運用を意味している。

最近の中国は機械化が基本的に完成したとしているが、それでも人民解放軍の近代化は、機械化が完成したばかりの部分から智能化を進めようとしている部分までさまざまな段階にあり、言わば「伸び切った」状態にある。

そのため、ネットワークを中心とした統合運用を行おうとしても、それが可能な部隊は一部にとどまり、米国の武力行使を現実のものと考える中国指導部が危機感を持つのは当然であるとも言える。

台湾に近づけない

一方の米国も中国の軍備増強に強い懸念を示している。

米国防総省の20年版「中国の軍事力に関する年次議会報告書」によると、艦艇建造、地上発射型弾道ミサイルおよび巡航ミサイル、統合された防空システムの三つの分野では中国が米国を凌駕(りょうが)しているという。

近代化の状態が伸び切っているとしても、中国人民解放軍はさらなる近代化を加速するだろう。

中国は、智能化された戦闘様相の特徴の一つを、高度に分散配備された長射程の精密攻撃兵器による戦闘としている。

例えば、AIによって目標探知から行動までの時間を大幅に短縮したうえで、ネットワーク上で統合され広範囲に配備されたプラットフォーム(基盤となるシステム)が、同時刻・同目標に弾着を合わせるようミサイル発射などを行うものだ。

艦載機搭乗員など、人材養成が装備の近代化に追いつかない中国にとって、弾道ミサイルや巡航ミサイル、さらには無人機による攻撃は死活的に重要である。

そのためにも、情報化、智能化の努力を止めるわけにはいかないのだ。

米国も、中国の長射程攻撃兵器の第1撃を避けるために、空母や戦略爆撃機など軍事設備(アセット)の分散配備を進め、打撃力を維持するために機動力を向上させる方針だ。

現在の米中間のホットスポット(紛争可能性の高い地域)は台湾であるが、もし、中国が台湾に武力行使しても米軍は容易に近づくことができない。

米国は先にミサイル防衛の一環として、中国国内に配備されている弾道ミサイルや巡航ミサイルのプラットフォームを打撃することになる。

現在の戦闘は、迎撃できない兵器による相互のたたき合いの様相を呈する。

それは日本にとっても人ごとではない。米国のインド太平洋軍は、中国のミサイルの脅威に備えるため、米軍のアセットを分散させる一方で、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第一列島線」にある同盟国のアセットを効果的に活用しなければならないとしている。

兵器と作戦の近代化は作戦の範囲を地理的にも領域的にも拡大し、台湾や南シナ海、さらには宇宙やサイバー空間をも日本の安全に影響を及ぼす地域および領域にしているのである。

(小原凡司・笹川平和財団上席研究員)

(本誌初出 人民解放軍  「戦争に備える」建議を採択 米国凌駕のミサイル「近代化」=小原凡司 

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