台湾と中国が「偶発的な戦争」に突入する……中台関係の悪化に日本はどうすればいいのか
2020年5月の台湾総統選で再選された蔡英文政権が2期目に入ったが、中台関係は依然冷え込んだままである。
元来、独立志向の強い民進党の蔡政権は、独立にも統一にも傾くことなく、「現状維持」を保とうとしてきた。
だが、中国側の主張する「一つの中国」原則を認めない台湾に強い不満を持つ習近平政権は、16年の民進党政権発足以来、中台の実務協議や交流などを停止させた。
また、20年6月末の香港国家安全維持法の成立によって、香港での取り締まりを強め、「1国2制度」の形骸化が進むなかで、台湾人の心は中国から離れていくばかりだ。
その一方で、トランプ政権下で米台関係の強化が図られてきた。
19年夏に決定した、最新鋭のF16戦闘機を含む、台湾に対する武器売却は80億ドル(8200億円)にのぼる過去最大規模のものとなった。
さらに、米台双方の政府高官の往来を促進する「台湾旅行法」の成立後、20年8月にアザー米厚生長官が、9月にはクラック米国務次官らが台湾を訪問して蔡英文総統と会見するとともに、7月に逝去した「台湾民主化の父」の李登輝元総統を追悼した。
これに対して中国側は強く反発し、20年の夏ごろから中国人民解放軍は台湾を強くけん制してきた。
中国の軍用機が台湾海峡の中間線を越え、台湾の戦闘機がスクランブル発進するといった事態も頻発している。
このように、中国が「核心的利益」と位置づける、台湾に対する軍事的圧力を強め、中台間の偶発的な衝突の危険性が高まっている。
「孤立」から守れ
蔡英文政権下で、中国はすでに台湾をパナマやエルサルバドル、ソロモン諸島など7カ国との断交に追い込み、国交のある国はわずか15カ国となった(表)。
また、台湾は新型コロナウイルスの水際対策で成功を収めているにもかかわらず、中国の反対によって世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加さえ認められていない。
さらに、中国は20年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名したほか、同月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談の場で、習近平国家主席自らが、近い将来、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加入を積極的に考えている意向を示した。
TPP加入検討は、米国が政権の移行期にある虚を突く形の表明だが、その狙いの一つに台湾を国際的に孤立させたい思惑が間違いなくあろう。
今後は、台湾の国際的な孤立を防ぐことが国際社会の重要な課題の一つであり、中国がTPPに参加する前に台湾をその枠組みに入れることを検討する必要があろう。
中国が先に入ってしまえば、台湾が加盟することが決定的に難しくなる。これまでTPPで主導的な役割を果たしてきた日本も、それを念頭に置いて台湾をバックアップすべきだ。
米中貿易戦争による経済のデカップリング(分離)が進み、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の多角化が求められている状況の中で、台湾は世界経済の重要なプレーヤーである。
そして、中国が個人独裁を強め、強権的な国家になりつつある今、民主主義という共通の価値観を共有する台湾を守ることは、米国の新政権はもとより、日本にとっても非常に重要なテーマとなる。
(松本はる香、ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター東アジア研究グループ長)
(本誌初出 台湾 米国の武器売却に反発 高まる偶発的衝突リスク=松本はる香 20210119)