中国がTPPへ参加?行き詰まる「一帯一路戦略」のゆくえ
同月の地域的な包括的経済連携(RCEP)締結に加え、米国不在のTPPに中国が割って入れば、多国間での通商ルール制定は中国が完全に主導権を握ることになる。
中国のTPP参加が容易でないことは事実だが、市場開放カードに切り崩される国も必ず出てくるだろう。
日本や中国、米国などが加盟するアジア太平洋経済協力会議(APEC)での自由貿易圏構想は、その道筋としてTPP(米国主導、中国排除)とRCEP(米国抜き)の2通りあった。
RCEPは高い水準の自由化目標を掲げるTPPと比べて見劣りしていたが、米国のTPP離脱で状況は一変。
中国の主張する「できるところから」という方向でまず妥結し、米政権移行期の隙(すき)を突いてTPPにまで触手を伸ばしてきたのだ。
中国が自由貿易圏構想を主導する狙いはそれだけではない。台湾をそこから締め出すことである。
RCEP不参加の台湾は域内貿易で取り残された。台湾は中国不在の枠組みに活路を求めていたが、このままではTPP参加の芽も消されてしまう。
自由貿易推進の名を借りて一気に台湾を窮地に追い込む作戦だ。
一方、RCEPからインドが離脱したことで、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」はかすんでしまった。
激減する対外融資
なぜ今、中国が自由貿易圏構想に熱心なのか。その背景には、習主席が13年に提唱した経済圏構想「一帯一路」が国際社会での評価を落としていることがある。
当初は大盤振る舞いが注目されたが、相手国に身の丈以上の債務を背負わせる手法に批判が高まった。「債務のワナ」である。
スリランカのハンバントタ港は多額の債務から運営権が中国に譲渡された。
一帯一路の行き詰まりは、中国の対外融資のデータにも表れている。
米ボストン大学の研究者らがまとめたデータによれば、中国の2大政策銀行(国家開発銀行、輸出入銀行)による対外融資は16年、750億ドル(約7兆7000億円)と過去最高を記録したが、19年はわずか40億ドルに激減している。
対外拡張の主戦場を、西に向かう陸と海のシルクロードから、米国の存在感が薄れたアジア太平洋にひとまず移し、その間に「一帯一路」の軌道修正を図るのが隠れた狙いである。
とはいえ、中国が手に入れたいのは自由貿易の恩恵よりも先頭に立って旗を振るその姿である。
これがまた行き詰まる頃には「一帯一路」に回帰すればよい。そんな中国に世界は振り回されることになるのだろう。
(遊川和郎・亜細亜大学アジア研究所教授)
(本誌初出 自由貿易圏 TPPも参加検討を表明 行き詰まる「一帯一路」=遊川和郎 20210119)