中国の輸出管理法で影響も? 実は中国依存度が高い輸入品ランキング
中国で2020年10月、輸出管理法が成立した。
中国ではこれまで輸出管理に特化した法律が存在せず、管理措置も先進国に比べ遅れていた。
また、中国は人工知能(AI)や第5世代移動通信システム(5G)をはじめとする先端技術が大きな進歩を遂げており、技術(特に兵器転用可能な技術)の第三国への漏えい防止による国益確保が喫緊の課題となっていた。
こうした背景の下、中国政府は16年に輸出管理法を立法計画に組み入れ、17年6月に草案を公表。19年12月、20年6月の2回の審議を経て、成立に至った。
輸出管理法では、対象となる「管理品目」(貨物・技術・サービスに加えてデータも含まれる)を定めるとともに、国家の安全保障や利益に危害を及ぼす可能性のある輸入者およびエンドユーザーを「規制リスト」に登録し、管理品目の取引を禁止・制限する。
また、米国の輸出管理規則(EAR)に対抗して「再輸出」や「みなし輸出」も規制対象としている。
さらに、違反した場合は、業務停止や輸出取り扱い資格の取り消しに加えて、最高で違法取扱額の20倍の罰金を科すなど、厳しい罰則も規定している。
暗号技術は許可制に
日本をはじめとする主要国では、輸出管理に関わる法律がすでに制定されており、決して中国の輸出管理法が特殊というわけではない。
ただし、各国は国際社会の安全性を脅かす国家やテロリストなどに武器や軍事転用可能な貨物などが渡ることを防ぐため、国際的な枠組みの下で輸出管理を行っている。
これに対して、中国の輸出管理法は拡散防止などの国際義務の履行に加えて、国家の安全保障および利益を独自に守ることを制定目的としている。
先進国は自由貿易を基本とし、輸出管理は「テロ対策」を大義名分として抑制的に運用してきた。
しかし、近年は米トランプ政権が「安全保障」を理由に、他国の制裁に輸出管理規則を運用したことで、こうした規律が失われつつある。
中国の輸出管理法は特定国を対象にしたものではないが、米国の動向への対抗措置が念頭にあることは確かだ。
20年12月27日時点では、量子暗号技術など管理品目の一部が示されただけで、具体的な運用方針を示す実施細則などは公表されていない。
このため、各社は自社の製品・技術・データなどの洗い出しを行いつつ、中国政府の動向を注視している状況だ。
日本企業からは当局が指定した管理品目の輸出が許可制となり、手続きが煩雑になることや、輸出許可を求める際に技術データの開示を求められるのではないか、といった懸念の声が上がっている。
中国は20年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名したほか、習近平国家主席が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を「積極的に考慮する」と表明した。
輸出管理と自由貿易協定(FTA)は両立するものであり、決して中国が保護貿易に傾斜しているわけではない。
ただし、懸念されるのは、法規定が曖昧で恣意(しい)的な運用も可能なことから、政治・外交関係が悪化した国に対して懲罰的な措置が行われるリスクだ。
日中関係が悪化すれば、本法を盾に制裁を加えてくる可能性は否定できない。
レアアースは高依存
10年の日中関係悪化時に輸出規制を課されたレアアース(希土類)は、調達先の分散を進めたことで、日本の輸入に占める中国のシェアは当時の約9割から現在は6割程度に低下したとされる。
しかし、日本にとって中国は第1位の輸入相手国であり、19年の輸入シェアは23・5%とほぼ4分の1を占め、中国依存度が高い品目は相当数に上る。
例えば、半導体製造に欠かせない「フッ化水素」の加工に用いられる「フッ化水素酸」、肥料として使われる「リン酸二アンモニウム」は、それぞれ中国で産出される蛍石およびリン鉱石から製造されており、輸入に占めるシェアは9割を超える(表)。
今後、最も懸念されるのは、米国と中国の輸出管理の間で、日本企業が「板挟み」の状態に陥ってしまうことだ。
日本企業にとって、米中は経済的には重要なパートナーであり、二者択一ではない。
他方、一方に違反しないようにしたことで、他方から制裁を受けてしまう可能性は実務上ありうる。
日本企業としては、管理品目や実施細則の制定および改正の動向を注視するとともに、自社製品等が対象となるか否かを確認しつつ、輸出管理に関わる社内のコンプライアンス体制を早急に構築することが求められている。
(真家陽一・名古屋外国語大学教授)
(本誌初出 輸出管理法 不透明な管理品目、運用方針 日本に米中の“板挟み”リスク=真家陽一 20210119)