「中産階級の出現を阻止しようとしている」中国が今後も民主化しない理由を東大教授が語る
今後の世界秩序はどう変わるのか。
中国近代外交史などが専門の川島真・東京大学大学院教授に聞いた。
(聞き手=桐山友一/神崎修一/桑子かつ代・編集部)
── 中国は2021年の共産党結党100年をどう位置付けているのか。
■中国には二つの「100年」がある。
2021年の中国共産党結党の100年、2049年の中華人民共和国建国100年だ。
この二つの「100年」の間に米国に追いつき、追い越すという目標を掲げている。
最終ゴールの49年に向けて、21年は一つの大きなステップであり、ある程度の経済発展を成し遂げると言っていた。
その豊かさを実現し、これからは強い国になることを彼らは考えている。
── ソ連など社会主義体制が次々と崩壊したが、なぜ中国共産党は100年も続き、今なお一党独裁を維持しているのか。
■中国の歴代王朝を考えれば、たかだか100年の長さでしかない。他の国でも100年続いている政党は珍しくない。
問題は1989年に冷戦が終わったのに、なぜ中国は変わらないのか。変わらないどころか強くなったのかという点だ。
大きな分岐点は、中国は経済発展はするが、民主化はしない路線を選択したことだ。
ソ連は経済発展も民主化もやった結果、体制が崩れた。
しかし、中国は89年の天安門事件で、経済発展はするが民主化はしないという意思を明確にした。
ここで民主化をすれば中国が混乱する、というのが鄧小平の判断だった。
── その後の経済発展は民主化につながらなかったのか。
■1人当たりGDP(国内総生産)が3000ドル、5000ドルと増えていく過程で、台湾、韓国などは80年代に次々と民主化した。
中国は違う。中国は経済発展をする際、経済で得られた富が共産党関係者に重点的に配分される仕組みを作り、国有企業にずぶずぶとお金を流したりしてきた。
だから共産党を転覆しようと思うはずがない。
中国は政治が社会主義で経済は資本主義という人がいるが、完全な誤解だ。
ただ、このモデルがここ10年ほどで危うくなってきた。
百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントなど民間企業の生み出す付加価値が国有企業を上回るようになっている。
本当の意味での中産階級が生まれるのを阻止するため、社会監視を一層強化している。
荒れる民主主義
── 一党独裁はどこまで続くのか。
■20年の米大統領選の混乱が示すように、世界で民主主義が荒れている。
中国人は民主主義が中国を強くすると思わないし、中国の発展にふさわしいとも思っていない。
中国でも貧富の格差は大きいが、米国など先進国ほどの病理は生み出していない。
中国人が一党独裁を捨てるとすれば、国力増強に向けてもっといいシステムを見つけた時だろう。
── 中国は遠からずGDPで米国を抜き、世界一になると予測されている。世界秩序はどう変化するか。
■米中逆転が世界秩序を直ちに変えるとは思わない。米国には同盟国があるが中国にはなく、一気に世界が変わるわけではない。
ただ、100年間、世界一であり続けた米国には、心理的な影響があるだろう。
一方、中国の自負は高まる。民主主義的な手続きがない分、社会主義国では経済力の拡大が軍事力の拡大に結びつきやすい。
米国と中国の対立は今後も数十年かけて展開されるだろう。
(本誌初出 川島真 東京大学大学院総合文化研究科教授 豊かさ実現し強い国へ 天安門事件が分岐点 20210119)