「多くの工場は少数民族を正常に雇っている」中国によるウイグル弾圧の真相にアパレル業界が振り回されているワケ
米政府は12月2日、中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の開発を担当する共産党傘下の準軍事組織「新疆生産建設兵団(XPCC)」が生産した綿や綿製品の輸入を禁止すると発表した。
少数民族のウイグル族らイスラム教徒の強制労働で生産している疑いが強い、というのが理由だ。
こうした制裁は今に始まったことではない。
2018年12月に英『フィナンシャル・タイムズ(FT)』紙と、米AP通信が相次いで新疆ウイグル自治区における強制労働問題を取り上げたのを機に、新疆への関心が欧米で高まった。
中国への圧力を強める米政府は19年、欧米の人権保護団体や亡命ウイグル族の組織を束ねる「世界ウイグル会議」の新疆での人権侵害を告発するリポートを根拠に、新疆で生産などを行う企業の制裁に乗り出した。
20年7月には、少数民族弾圧に関与したとして、中国企業11社に禁輸措置を発動。綿シャツ大手のエスケルグループなど繊維企業3社が対象になった。
新疆綿は代替困難
米政府の相次ぐ制裁発動を受け、日本を含めた海外企業の一部が“脱新疆”を模索している。
スウェーデン衣料品大手H&Mは、新疆に紡績工場を持つ華孚グループとの取引を段階的に減らすと発表した。
グローバル展開する日本の大手製造小売り(SPA)も、新疆綿を使わない現地生産の可能性を探るなど、波紋が広がっている。
だが、新疆綿の代替は困難だ。
19年の中国の綿花生産量589万トンのうち、新疆綿は515万トンで約9割をも占める。
日系繊維企業関係者は「中国で生産される綿関係の生地の7割に新疆綿が使われている」と言う。
輸入綿花もあるが、数量を制限するクオータ制が採られ、自由に使うことができず、値段も割高だ。
現状では原料の生産・流通履歴を追うことはほぼ不可能で、中国で素材を調達する限り、新疆綿は避けて通れない。
日系商社の関係者は「日本の顧客から新疆綿の不使用宣言にサインを求められたがお断りした」と明かす。
米国の主張や海外の報道と、現地の認識の隔たりは大きい。
「(西側が指摘する人権問題や強制労働は)一部は存在するかもしれないが、多くの工場は少数民族を正常に雇い、現地経済に貢献している」(地場の繊維企業トップ)との見方が大勢を占める。
海外留学経験があり、上海の外資系企業に勤めるウイグル族出身者も「海外で伝えられるひどい話は、地元では聞いたことがない」と困惑する。
制裁の影響は広がりつつある。
江蘇省のある企業は、19年に設立した新疆の工場を他社に譲渡した。
「(欧州顧客から圧力を受け)撤退せざるを得なかった。他地域にある工場でウイグル族出身の社員の雇用は続けている」と言う。
一連の制裁で、新疆におけるアパレルなどの生産は痛手を受けるが、新疆綿は「内需で消化できる」(日系商社関係者)ことから、中長期の影響は限定的と見られる。
米国の制裁の行方は見通しづらい。
中国の情報は透明性が低く、判断は困難を極めるが、日系繊維企業は欧米の情報をうのみにするのではなく、中国法人や取引先などの独自ルートで情報収集に努め、現実的な判断をしていくべきだろう。
(岩下祐一・「繊維ニュース」上海支局長)
(本誌初出 「ウイグル弾圧」巡り米制裁 “脱新疆”探る日本企業の悩み=岩下祐一 20210105)