クローズアップ1 ワクチン スピード承認で接種開始 終息時期は各国で“まだら”=近内健
2019年12月8日に新型コロナウイルスの最初の感染者が発症して以来1年が経過した。
依然終息には至らず、20年12月14日時点で世界の累計感染者数は7200万人、死亡者数は160万人を超えた。
12月上旬に米国で入院患者が10万人を超え、北半球では本格的な冬を迎える前に医療資源の逼迫(ひっぱく)も懸念される。
厳しい状況の中、ワクチン開発は着実に進んでいる。
米製薬大手ファイザーと創薬ベンチャーの独ビオンテックが共同開発するワクチンの臨床試験で「95%超の予防効果が確認され」、11月21日に米当局に緊急使用許可を申請。
その後、米バイオ製薬モデルナも申請を行うなど、最近は明るいニュースが続いてる。
従来のワクチン開発にはおおむね10年以上、最短のおたふく風邪でも4年かかったことを考えると、ここまで短期間で、かつ臨床試験で極めて高い有効性を示したことは、パンデミック(世界的流行)の状況においてワクチン開発に資金などが集中的に投じられたことを考慮しても驚きだ。
英国では12月8日、ファイザーとビオンテックが共同開発したワクチン(BNT162b2)の接種を開始した。
BNT162b2はベルギー国内のファイザーの工場で生産された後、超低温保管施設を備えた英国内の主要な病院に運ばれる。
一つの箱には、975回接種できる量のワクチンが収められている。
この箱ごとの輸送にも制約がある上、少量に分割して輸送する方法はまだ確立されていないため、英予防接種・免疫合同委員会が接種の優先リストの最上位としている高齢者向け介護施設の入居者への接種については現時点では見通しが立っていない。
しかし、コストの問題を考えなければ少量のワクチンを流通させるコールドチェーン(低温物流)の構築は先進国では不可能ではないし、冷蔵庫程度の温度で輸送が可能なワクチンを米モデルナや英アストラゼネカなどが進めている。
現状、輸送などの課題はあるが、今後時間の経過とともに解決していくと考えてよいだろう。
接種意向は6割に上昇
新型コロナ克服のためには多くの人がワクチンを接種することも重要だ。
11月に実施されたピュー・リサーチ・センターによるワクチン接種意向調査では、「接種する」と回答した人の割合が9月調査時より9ポイント上昇し、60%となった。
人々のワクチンに対する意識が高まっている。
しかしその一方で、ワクチン接種の最初のグループになることについては、62%の人々が「不安である」と答えている。
ワクチンの接種が広がれば、因果関係がないものも含めて有害な事象が増え、中には重篤なものが出てくるかもしれない。
そうなれば、接種率が低迷する可能性がある。
米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「集団免疫の獲得のためには少なくとも75%の人々がワクチンを接種する必要がある」と発言している。
図は世界のワクチン調達の状況だ。
各国の人口に対するファイザー、モデルナ、アストラゼネカのワクチン調達状況と新型コロナウイルスの人口に対する累計感染者数を示した。
日本のように感染者数が少なく、かつ調達も進んでいる国から、調達は進んでいるものの感染者数が多い米国のような国、さらに感染者数が多い上に調達が進んでいない国などさまざまだ。
感染の終息時期、それに伴う景気回復もまだら模様になりそうだ。
(近内健、丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト)