「格付けAAAの国有企業でデフォルト」「IMFが家計部門を最も脆弱と評価」この先本当に中国経済は大丈夫なのか
中国では、2020年10月に独自動車大手BMWと合弁を組む華晨(かしん)汽車集団、11月に石炭大手の永煤(えいばい)集団の社債が債務不履行(デフォルト)に陥るなど、大手国有企業に異変が起きている。
中国の社債デフォルト(コマーシャルペーパーなど短期債券も含む)を集計してみると、その件数は2月に30件と1月から急増したものの、3月以降は20件以内にとどまっていた。
しかし、11月は49件で、2月を大きく上回る水準へ急増した(図1)。
うち6割の29件は国有企業である。
18年にもデフォルトの大幅増加は見られたものの、その際はほとんどが民間企業であった。今回は国有企業が多いという点で、これまでと様相が異なる。
デフォルト急増の背景に、中国経済がコロナ禍からの回復軌道に乗ったことで、中国政府が国有企業の資金繰り支援を縮小しつつあることが指摘できる。
国有企業はかねてから過剰債務を抱えていた。
この結果、市場ではリスク回避の動きが見られ、石炭関連企業や資金繰りが苦しいと見られる国有企業の社債価格が急落している。
永煤集団の本拠地である河南省では連鎖的な企業破綻が生じるリスクも指摘されている。
こうした中、金融当局が連鎖的なデフォルトを回避する姿勢を示したことで、市場金利の急上昇は免れている。
中国人民銀行(中央銀行)は、銀行間市場で資金供給を一時的に拡大したほか、劉鶴(りゅうかく)副首相が主催した11月の金融安定発展委員会は、デフォルトの増加に触れたうえで、流動性を機動的に調整し、(金融システム全体が揺らぐ)システミックリスクは決して発生させないと表明した。
消えた「暗黙の政府保証」
危機を回避できたとしても、国有企業のバランスシート調整による景気下押しは覚悟すべきであろう。
国有企業は長い間、利払いに窮する度に政府が全面的に支援をを行う、いわゆる「暗黙の政府保証」で生き延びてきた。
しかし、暗黙の政府保証が、投資家や国有企業の過度なリスクテークにつながったため、国有企業は返済能力に見合わないほどの債務を負った。
中国政府は、14年から過剰債務・不良債権問題への対応策の一つとして、民間企業の社債を中心にデフォルトを容認し始めた。
コロナ禍からの回復軌道に乗ったことで、先行きもアクセルとブレーキを交互に踏みながら、デフォルトを容認する姿勢を続けると見られる。
今後は国有企業といえども財務改善のために事業再編や人員リストラに取り組む必要が出てくるだろう。
米格付け大手ムーディーズが出資する中国の格付け最大手の中誠信国際信用評級は、永煤集団の格付けを最高ランクの「AAA」としていた。
それにもかかわらず、同社の社債がデフォルトしたことを投資家はネガティブサプライズとして受け止め、他のAAA格付けの国有企業に対しても疑念を持ちつつある。
華晨集団だけでも、傘下に160社余りの子会社・関連会社を抱えており、債権者から整理を求められる可能性が高い。
続発するデフォルトは、国有企業の再編を招くとみられる。
再編はデレバレッジ(過剰債務抑制)に資する一方、21年の中国景気を下押しする材料でもある。
金融引き締めで急落も
国際通貨基金(IMF)は各国に対して財政出動や金融緩和がコロナ禍に伴う打撃を和らげたとし、支援の継続が必要と主張している一方、中国当局は世界に先駆けて金融政策を引き締め気味に運営していることも、懸念材料である。
政策金利は据え置かれているものの、短期金利の高め誘導によって代表的な市場金利である銀行間貸出金利は、5月から上昇している。
上海銀行間取引金利(SHIBOR)3カ月物や10年国債利回りなど、他の主要市場金利も上昇傾向にあり、金融当局はこうした状況を容認している(図2)。
資産バブルの膨張や景気過熱を回避する狙いである。
とりわけ、近年は慢性的に過熱感の強い不動産セクターで、7月から住宅購入規制を厳しくしたほか、8月から不動産開発企業の資金調達条件を厳格化し始めた。
不動産業の経済規模は、急成長しているハイテク分野と同等のペースで成長しており、その国内総生産(GDP)に占める比率は上昇し続けた。
今年は国内で新型コロナウイルスの流行が2月にピークアウトすると、余剰資金が不動産市場に流入する動きが一段と加速した。
住宅ローンの借り入れ拡大によって、家計債務が増え続けた結果、すでに中国家計部門の金融脆弱(ぜいじゃく)性は、IMFが最も脆弱なカテゴリーに区分する「第5レベル」に達した。
もっとも、金融引き締めは資産価格の急落リスクを伴う。
15年は、当局による証券会社の信用取引に対する監督強化など、政府が株価抑制姿勢を示すと、株価は急落した。
今回は、金利の先高観が想定以上に強まることで、不動産価格や株価が下落に転じるリスクに留意する必要がある。
また、経済にコロナ禍の後遺症が残るなかでの金利上昇は企業の投資マインドを冷え込ませるなど、実体経済へのマイナス影響が徐々に顕在化すると見られる。
このほか、順調に回復していた上海や武漢における人出の数が、11月に入って減少に転じたことも懸念材料である。
政府が移動規制などの感染対策を強化したためである。
先行き、感染が再拡大すれば、経済活動は再び抑制されるリスクもある。
(関辰一・日本総合研究所主任研究員)
(本誌初出 中国1 国有企業で債務不履行が多発 再編・リストラが景気下押し=関辰一 20210105)