中国人留学生が14年ぶりに減少?アメリカの大学の笑えない真実
トランプ政権下、米国は排外的政策を採ってきたが、依然として、世界中の大学生の間で最も人気の留学先となっている。
毎年11月初旬に国務省の国際教育研究所が前年秋開始学年度の留学生データを発表している。
それによると、米国への留学生は2019年度、総勢約107万人だった。
留学生の数は03~05年度に同時多発テロの影響で落ち込んだが、その時以来14年ぶりに前年度を下回った。
下落の主な理由は、高額な学費、政策変更、外国人への偏見からくる治安悪化などと考えられている。
学費高騰の影響は深刻で、米国の大学生の数自体が8年連続で減少している。
そのため、全体の約5・5%を占めている留学生の存在は大学にとって極めて重要だ。
留学生の出身国を見ると、中国が約37万人と全体の3分の1を占め、09年度以降断トツだ。
2位のインドと合わせると半数以上を占めている。
日本は1990代後半まで上位にいたが、その後徐々に減少し、今や年間2万人を切り第8位。
日本の学生が内向きになっていることがわかる。
米中関係悪化の深刻化に伴い、ここ数年中国人の訪米者数が減少している中、中国人留学生への影響を調べると、意外な事実が分かった。
各国からの留学生総数が減少に転じた19年度も中国人留学生は0・8%増加していたのだ。
政治と学問が切り離されており、大学側が引き続き中国人留学生を歓迎していることが分かった。
理由の一つとして大学の財政事情があるらしい。
商務省によると、18年の留学生の経済効果は450億ドル(約4・5兆円)。
46万人の雇用に寄与しており、米国経済への貢献は無視できないのだ。
大学運営の救世主
米大学の学費が高いことは有名だが、トップクラスの大学になると、寮費を含め年間約7万ドル(約700万円)かかる。
この額を払える家庭はそう多くはなく、実は米国人で満額を払っている学生はほんの一部だ。
約9割の学生は奨学金など、何かしらの財政支援を受けており、平均負担額は約半額と言われている。
ところが、留学生は、基本的には米国側からの支援制度が無いため、「定価」を負担している。
大学側からすると「留学生様様(さまさま)」で、大学は彼ら抜きでは経営が成り立たないのが実態なのだ。
トランプ政権誕生後、将来的な留学生減少に備え、保険を購入した大学もあるほどだ。
留学生は裕福な家庭の出身が多いため、日常生活においても比較的ぜいたくな暮らしをする傾向があり、地元経済にも貢献している。
留学生の使うお金は海外からのお金であり、米国から見ると“輸出”に相当する。データに表れないが貿易収支に貢献しているのだ。
20年秋開始学年度は新型コロナウイルスの影響でほとんどの大学がオンライン授業のみで運営をしている。
新入生の数は前年比43%減少した。
そして、留学生の数も、本国からのオンライン参加学生を含めても16%減少しているとのデータがある。
バイデン新政権誕生により外国人に友好的な政策導入が期待されるが、パンデミック(感染爆発)の影響は来年以降も続くと思われ、留学生が憧れの米国で学べる時期はしばらく先になりそうだ。
(中園明彦・伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)
(本誌初出 米国への留学生14年ぶり減 大学の懐事情で中国人は微増=中園明彦 20210105)