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国際・政治世界経済総予測 2021

円高で1ドル100円割れも視野に?バイデン政権で「民主党政権はドル安」が再現される理由

イエレン氏の財務長官就任で、政府とFRBの関係改善が進み「米長期金利の低位安定」への目配りは続くだろう Bloomberg
イエレン氏の財務長官就任で、政府とFRBの関係改善が進み「米長期金利の低位安定」への目配りは続くだろう Bloomberg

外国為替市場ではドルの下落基調が静かに続いている。

対主要通貨での総合力を示すドル指数(DXY)は2020年3月の高値から約1割下落。

対円相場も同月に付けた1ドル=111円台の高値から8円程度のドル安・円高が進行している。

こうした緩やかなドル安は、米国で民主党バイデン政権が誕生することの含意に照らしても、しばらく続く可能性が高い。

20年春以降のドル安進行の最も重要な背景は、ドル金利の大幅低下とそれを促した米連邦準備制度理事会(FRB)の大規模な金融緩和である。

むろん、足元(20年12月時点)は主要先進国の長期金利がゼロ近傍にほぼ収れんし、為替相場の変動要因として金利差のインパクトは小さくなっている。

しかし、米国が3月にゼロ金利政策・量的緩和政策を復活させ、他の先進国に比べ高水準にあった米長期金利(10年国債)がその後1%を下回る低位で推移していることの意味は、決して小さくない。

ちなみに、FRBはリーマン・ショックへの対処で08年12月に初めてゼロ金利政策を導入し、その後約7年間、これを据え置いた。

このうち最初の約3年で、ドル・円相場は100円近辺から80円台割れへ、2割近くもの大幅なドル安・円高が進行。

当時の米長期金利はそれでも3・3%程度(09年平均)であったが、今はその4分の1程度の低水準にある。

こうした金融環境は、バイデン新政権を取り巻く状況を考えると、継続される公算が大きい。

一つは「議会のねじれ」である。

上院で共和党の多数派維持が確定した場合、バイデン氏の公約であるクリーンエネルギー投資など、大規模な財政出動は難航が予想される。

コロナショックへの対応が依然として最重要課題である中、財政出動のもたつきを補う意味で、金融緩和が大規模かつ長期間行われることへの期待や要請が続き、ドルが上昇しにくい低金利環境も継続することになる。

コロナ禍における中央銀行の役割として「金融の安定」はこれまで以上に重要な責務になっている。

米財政赤字は20年度に3兆ドル(約310兆円)超と史上最大に膨らみ、国債の急増発が続く。

「金融の安定=米長期金利の低位安定」を維持する目的からも、量的緩和の運営方針は重要だ。

この点について、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録には、資産購入などの量的緩和策が「巨額の米国債発行にもかかわらず長期金利が非常に低い水準にあることに貢献している」との認識共有が記されていた。

これは同時に、金融政策としての「金融の安定」と国債の安定消化を企図する国債管理政策が、事実上、密接不可分になりつつある状況をも示唆している。

左派の信頼厚いハト派

緩和的な金融環境が続くと考えられるもう一つの理由が、新政権の財務長官人事だ。

次期財務長官に指名されたジャネット・イエレンFRB前議長は、サンフランシスコ連銀総裁や副議長職も含めた長きにわたるFRBでの在職中、金融緩和に積極的なハト派として知られた人物。

コロナ禍の危機対策によって、金融政策と国債管理政策の線引きが難しくなる中、イエレン新財務長官は円滑な政策推進の観点で、少なくとも現時点ではうってつけの人事に思われる。

労働経済学の権威でもあるイエレン氏は、副議長であった13年当時、「FRBは雇用最大化を追求する責務を与えられた唯一の機関」と述べている。

周知の通り、FRBには「物価安定」と「雇用最大化」という二つの使命がある。

イエレン氏が雇用最大化を特別な使命と捉えている様子とともに、物価安定のために雇用最大化を犠牲にしてはならないというハト派的な強い信念がうかがえる。

こうした「中道左派的」なエコノミストとしての経歴もあってか、同氏は民主党左派の信頼も厚いとされ、その筆頭格であるエリザベス・ウォーレン上院議員もイエレン氏指名を公に支持している。

FRBの内情を熟知する「イエレン財務長官」の登場で、トランプ政権時代にぎくしゃくした政府とFRBの関係が、大きく改善するのは確実だろう。

両者の連携強化も背景に、成長・雇用に配慮した財政政策と金融緩和のポリシーミックスが続き、同時に「金融の安定=米長期金利の低位安定」への目配りも続くように思われる。

「民主党はドル安」

米民主党は伝統的に、労働者や社会的弱者・少数者の権利拡大・地位向上を推進するイメージが強く、労働組合との関係も深い。

また、国内産業保護の観点から、自由貿易協定への抵抗感が特に党内左派の間で根強く、一般論としてドル安指向と市場は捉えやすい。

歴代政権の発足1年目のドル・円相場を見ると、ほぼ横ばいで終わったオバマ、トランプ政権を除くと、確かに「民主党はドル安」「共和党はドル高」を確認できる(図)。

もちろん、アノマリー(合理的に説明できないが規則性をもって起きる現象)に過ぎず、これをもって「バイデン政権でもドル安」とするのは早計だ。

しかし、例えば、通商交渉で通貨安誘導をけん制する「為替条項」を最初に持ち出したのはオバマ政権であったことなどを踏まえると、貿易相手国による為替介入には不寛容性が強いことなどはある程度、織り込む必要はあるかもしれない。

感染症の再拡大やワクチン開発の成否などを巡る不確実性は依然高いままであり、市場のリスクセンチメント(心理)は振れの激しい状態が続く。

 

ただし、そうしたリスクセンチメントの極端な振れの再来を前提としなければ、バイデン政権を取り巻く状況は、目下のドル安基調に青信号となるものが多く、緩和的な金融環境を背景に、当面は緩やかなドル軟調が続くと考えてよさそうだ。

ドル・円相場では、100円台前半の円堅調が続くと見るが、一時的に100円を割る場面はありそうだ。

(武田紀久子・三菱UFJ銀行経済調査室)

(本誌初出 クローズアップ4 為替 ドル安・円高で100円割れも 背景に…=武田紀久子 20210105)

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